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[第87話] 雨が止(や)む

 シトシトと今朝も梅雨の雨が降っていた。平坂ひらさか透は外の畑仕事も出来ず、さてどうするか…と、茶の間の畳に座り、腕組みをしながら考えあぐねていた。細かい砂を空から落とすような雨音だけが平坂の耳に聞こえ続けている。結論は出ず、いつまで考えていても仕方がない…と、平坂は湯呑みの冷たい茶を口に含むと立ち上がった。台所の炊事場へ行き、洗い忘れた食器類を洗おうと蛇口をひねった。そのとき、少し雨音が激しくなったように思えたが、偶然、タイミングが合ったんだろう…と、そのまま洗い続けた。洗い終えて蛇口を閉めると、妙なことにピタッ! と雨がんだ。まあそれでも、そんな偶然はよくある話だ…と思いながらふたたび茶の間へもどると、溜息ためいきが一つ出た。止んだ雨はそのまま忘れたかのように降ることはなかった。おお! これなら畑仕事が出来るぞ…と平坂は腕を見た。まだ昼には1時間以上あった。平坂は勇んで畑へ出ると軽く除草を済ませた。家へ入ろうとしたとき、葱が目に入った。貰い物の肉があったことを思い出し、今夜はスキ焼きにでもするか…と幾株かを引き抜き、外の洗し場で洗おうと蛇口を捻った。水が蛇口から勢いよく流れ出た途端、雨がザザーっと降り出した。タイミングのいいことだ…と平坂はニタリとし、蛇口をめた。それと同時に雨はピタリと止んだ。平坂はこのとき初めて、おやっ? と思った。洗い物はなかったが、蛇口を捻ると、ふたたびザザーっときた。平坂は少しこわくなり、葱を片手に家の中へと駆け込んだ。

 冷蔵庫を開けると、中に肉はなかった。

「ははは…馬鹿なっ!」

 平坂は三日前、肉を食べてしまったことを思い出し、独りごちた。それを笑うかのように日が射した。長かった梅雨は明けた。


              THE END

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