[第85話] 妖怪・田舎(いなか)もどし
雲上快晴は小学2年生だ。今朝は日曜で、時間の空きが出来た快晴は家の勉強部屋で、ゴミ置き場に拾てられていた不思議な本を読んでいた。出版社も作者名、値段も何もない、それでいて本らしい体裁を整えた不思議な本だった。小学生の快晴が読めない難しい漢字には、ちゃんとルビが振ってあり、小学2年の快晴にもスラスラと読めるのが、不思議といえば不思議だった。
━ 妖怪・田舎もどしは田に出て稲刈りをしていました。かつて田畑の畔に集い、昼の食を使う農家の人々の姿は消え、荒廃した田畑に妖怪・田舎もどしは住みつくようになったのです。妖怪ですから人間のように疲れることも全然なく、それはそれは野良仕事が捗りました ━
『ふ~ん、疲れないのか…それは便利だな』
快晴は不思議な本だということも忘れ、読み進んだ。そして、次第に本の世界へと吸い込まれていった。
『ほお、アンタは…子供さんか?』
『はい、小学2年生に成りたての雲上快晴ですっ!』
『ほお、成りたてか? 刈りたての新米じゃ、ふふふ…。どれ、ひとつ、刈っていかんか』
田舎もどしは足がなく、スゥ~~っと快晴に近づくと、持っていた鎌を手渡そうとした。
『少しなら…。僕、勉強があるから』
気づけば、快晴はアッ! という間に一反の稲田を刈り終わっていた。
『ほお、やるのう…』
妖怪・田舎もどしは感心した。
『いえ、それほどでも…』
快晴は取り分け怖がりもせず、罰悪く、はにかんだ。
『いやいや、なかなかのもんじゃ。まあ、お礼といってはなんじゃが、これを取っておかんか』
妖怪・田舎もどしが鎌を受け取ったあと快晴に手渡したもの、それは、お米の引換券だった。そんな、馬鹿な! これは夢だよ…と思えたところで快晴は目が覚めた。目覚めた快晴の手に、お米の引換券が握られていた。
THE END




