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第9話 命懸けのチェイス

「そ、それはこっちの台詞だ!おいお前!コイツらも仲間なのか!?」


「いや、違う、知らない…」


(なんだコイツ!?場の空気が一変した。このおぞましい気配…人間なのか?接近に全く気付けなかった!何者なんだ、一体…)


「か、彼の気配…」


 ずっと怯えていた巫女が、頑張って振り絞った、震えた声を出した。


「どんな悪霊よりも、恐ろしい、深い、深い闇…只人ではないです…!」


「そう言うのには詳しくないけど、僕もさっきから鳥肌が止まんないよ」


 恐れ、怯え、警戒する三人を、黒装束は静かに見つめていた。


 顔が目元しか見えないので、表情を読み取ることは難しいが、今は何か悩むかのように、或いは面倒臭く思うかのように、眉間に少し皺が寄っていた。


 しかし、急にふっと無表情に戻ると、再び冷たい声が発せられた。


「仕方無い。()()()()、やるぞ」


 黒装束がそう言うと、彼の背後の暗闇から、一人、もう一人、さらにもう一人、計三人の黒装束が新たに現れた。


 サガと探検家と巫女の顔が、血の気が引いて蒼白になっていく。


「やれ」


「っ…逃げるぞ!」


「ちょ!?」


「きゃっ!?」


 黒装束たちが飛び掛かってくる。


 サガは咄嗟に探検家と巫女の手を引き、全速で駆け出した。


 つい一秒前まで探検家が立っていた位置に、黒装束の一人が刃物を深々と突き立てていた。


 サガは二人の手首をがっしりと握り、走る、走る、走る。


 木々の合間を潜り抜け、草を無理矢理かき分け、何度か躓きつつも尚、何処へでもなくとにかく必死に逃げ回る。


「お、おいちょっと!」


「は、速いです!転んじゃいます!」


「捕まれば殺される!転ばないことに注力しろ!」


 しかし、両側に一人づつ、後ろに二人、黒装束はピッタリと張り付いて、サガたち三人を取り逃がすことを許さない。


 サガがまた木の根で躓き少しバランスを崩した瞬間、右側の黒装束が襲ってくる。


「右、来るぞ!」


 サガは咄嗟に右手の探検家の手を離し、爪を硬化させ、鋭く伸ばして刃物を弾く。


 右手を振りかぶった勢いで上体を倒し、右足をやや曲げながら上げる。


 素早く狙いを定め、後ろの黒装束二人に向けて、探検家が右手に持つランプを蹴飛ばして当てた。


「ぐっ!」


「熱!」


 ランプは砕け、ガラス片と火が黒装束を襲う。


 その隙にサガは、探検家の手首をまた握り、駆け出す。


「おい何ランプを───」


「持っててもずっと位置を知られるだけだ!目も慣れてきたからもう要らない!」


 右と後方の黒装束とは少しだけ距離を離せられたが、左側の黒装束は未だ三人の横の位置をキープし、隙を伺っている。


「あれとも少し距離を離したいな…」


「これが使えるかもしれない!」


 探検家がそう言って、ベルトに引っ提げている多様な物の中から手に取ったのは、ゴツゴツとした小さい玉が、枝分かれするように紐で幾つも繋げられている物だった。


 左側の黒装束に向かって探検家がそれを投げると、黒装束はそれを振り払う。


 しかしその瞬間、幾つもの細かい閃光が、小気味良い音と共に連続して迸る。


 探検家が投げたそれは、この世界流の爆竹のようなものだったようだ。


 突然の爆発、閃光、音、火花に怯み、黒装束は足をもつれさせ、三人と少し距離ができた。


「ありがとう、助かった!」


「三人まとめて命の危機なんだ、取り敢えず今はアイツらを撒かないとだからな!」


 距離と同時に心にも少し余裕ができ、さらに目が暗闇に慣れてきたもあり、サガは躓くことなく走れるようになってきていた。


 走って走って走り続けていると、木が心なしかまばらになってきて、道が少しづつ険しくなってきた。


「あ、クラックさん、この辺ってもしかして!」


「ん?あ、ああ!今気づいた!君、少し左に逸れた方向にちょっとした洞窟がある!誘い込めば撒けるかもしれない!作戦があるんだ!」


「わかった!」


 進行方向を少し左に曲げて進むと、前方にぽっかりと空いた暗い穴が見えた。


「入ってすぐ左、道は右に少し湾曲してる!傾斜になったのを感じたらすぐまた左だ!そのままずっと進むと山頂付近に出る!」


「了解!」


「セリさん、光る札を出しておいて!何枚か!」


「うぇ!?は、はい!」


 探検家─クラックにそう指示を受けた巫女─セリは、懐に手を入れ、御札を何枚か取り出した。


クラックもまた何かベルトから取り外している。


 三人は洞窟に入ると同時に、少しの湿気と肌寒さを感じた。


 中は完全な暗闇だったが、クラックが言った通りにサガは動く。


 入ってすぐ左に曲がる。壁にぶつかることはなく、ちゃんと道があるようだった。


「今だ!光らせて!」


「は、はい!」


 サガが曲がったと同時に、クラックは手に持っていた二本の筒を投げ捨て、セリに合図をした。


 筒からは大量の煙が吹き出した。今度は発煙筒のようだ。


 さらに宙に舞った御札たちが、神聖さを感じる光を放つ。


 その光を煙の粒子が乱反射し、眩い光の幕となって、追ってきた黒装束たちを怯ませ、三人を見失わせた。


 その隙にサガはさらに進む。少し右に逸れながら走り続ける。


 クラックのバッグと壁の岩がすれる音がしたので、サガはもう少しだけ気持ち右に逸れた。


 少しするとクラックが言った通り、道が傾斜になってきたのでまた左に曲がる。


「もう少しそっち寄ってもらえますか、狭いです…!」


「あ、ごめん!」


 位置を調整し、直進する。前方には外の淡い光が見えていた。


 転ばず、横に逸れないように気を付けつつ走り、洞窟を抜け、さらに走った。


「やった…!撒けたみたいです!」


「作戦成功だ!…っと、あまり大声は出さない方がいいな」


「…まだだ!一人ついてきてる!」


 サガはチラリと後ろを見やると、左後方に人影を捉えた。どうやら洞窟を通らず迂回してきたらしい。


「この先は足場が悪いし危険なんだ!右に逃げよう!」


「右に…あー!無理だ!もう一人居る!」


 サガは右を向いた瞬間、視界の右端にまたも人影を捉えた。


 洞窟で撒けたのは、後方の黒装束二人よりも先行していた、三人の両サイドに張り付いていた黒装束二人だけだったようだ。


「もう山頂の方に逃げるしかない!」


「あっちは本当に危ないんです!だって───」


 息切れ気味のセリの言葉を、クラックが繋ぐ。


「例の破壊現象の原因が、恐らくそこにあるんだから!」

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