第28話 王都急襲
夜になった。町の人たちへの説明は、幸いにも穏便に済んだ。
兵士の制圧と避難誘導で信頼を稼げていたことと、ブランがあの村での事を受けて、うまく話をしてくれたことが大きかった。
今は町の東側、被害が及ばなかった方にある宿に、厚意で泊めて貰っているところだ。
「ふう、それにしても、村の二の舞にならなくて良かったな」
ベッドにドガッと座ってローグが言う。
「ええ、本当に。あの村での反省を活かせました。」
「あ~も~初っ端から疲れた~」
ルアスが膝から上をベッドに投げ出す。足もぷらぷら垂れ下げて、リラックスしきっている。
「ちょっとルアスさん俺のベッド」
「うぁ~う───イダッ!?」
サガに両足を持たれて引きずり下ろされるが、脱力したままだったために頭を床に強打した。
「ま、明日も早いし寝るか。また一日中馬で走ることになる。お前らも早く寝て体力回復しとけよ」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみなさい、ローグ様。ルアス様も」
悶絶するルアスを尻目にローグが退出し、文句と悶絶を繰り返しながらルアスも自室に戻った。
扉が閉められ、一瞬だけ穏やかな静寂が訪れる。
「仲がよろしいのですね」
「まあ…そうですね。悪くは無いです」
「見たところ年が離れていらっしゃいますが、どういったご関係なのでしょうか?」
「師匠の友達…ですかね。今は色々あって、一緒に旅をしていますけど…本人には到底言えないけど、あの人たちも尊敬してるんです。ルアスさんとか、オフはあんなだけど、やるべき時はちゃんとする人ですから。ローグさんも、荒っぽいし酒飲みですけど、誰より強くて、情に厚いんです」
「今日出会ったばかりではありますが、あのお二人も、サガ様も、大変ご立派なお人だと思います」
「いやいや、俺なんかまだまだで。師匠達は、本当にすごい人たちだから」
「サガ様も、心持ちならば決して劣っていないはずです。その優しさと真っ直ぐさ。それを持ち続ける限り、貴方はきっと大成される。王もきっと、貴方を見ればそう仰るでしょう」
昔、師匠───ゼルにも、同じようなことを言われたことを思い出した。
「お前はどうも自信が足りないんだな」
ある日の修行の途中、不意に言われた。
「…そうですかね。向上心ならありますけど」
「そういう問題じゃない。自信がないと言うより、正確に言うとアレか。俺たちの隣に自分が並び立つビジョンが見えない、ってところだろ」
「…」
「無理もないっちゃ無いがな。元々は路地裏で野垂れ死にかけてたガキだ。それが神になる、なんていくら意気込んでも───」
「何が言いたいんですか」
自分が放った低い声で、無性に腹が立っていたことに気づいた。
後で冷静になってから思ったが、あれは多分、図星だったが無意識に意地を張っていたのだろう。
「…そうだな、らしくもなかった。つまりまあ、そのやる気は悪くない。お人好しなところも、今はまだ甘いとは言うまい。取りあえず、やる気、思いやり、この二つだけは忘れるな。そうしてりゃ、お前が道を違えることはない」
あの時は、イマイチ何が言いたかったのかわからなかった。
原点の神というのはどうにも人間臭くて困る。
「…申し訳ございません、出会ったばかりの私ごときが」
思ったより長く回想に耽っていたらしい。気を悪くしたと思ったのか、謝られてしまう。
「あ、いえ。ちょっと、昔師匠にも同じようなことを言われたな、って言うのを思い出してただけで。ありがとうございます。自信になりました」
「でしたら幸いです。では、私も就寝いたします。お付き合いさせて申し訳ありませんでした。おやすみなさい」
「こちらこそ。おやすみなさい」
翌朝、朝食まで用意して貰って、遠慮する主人に気持ちばかりのお金を無理矢理受け取って貰ってから、再度出発した。
道行きは順調で、馬を適時休ませつつも、予定よりも早く次の町までたどり着いた。
しかしその町も既に略奪を受けており、そこで泊まることも考えていたがやめにして、進めるだけ進んで野宿することにした。
そして、野宿明けの朝。
「今日の昼前には王都に着くでしょう。略奪に出しているとはいえ、兵士は多い。激戦になるでしょう」
「やっぱ、王都には入ったら馬で王城まで突っ切るのが良さそうだな。いちいち兵士とやりあう必要もない」
「残───あの結晶さえ回収できたら、王さまも正気に戻って、力も失うんでしょ?」
「初のことなのでわかりませんが、その筈です。本丸直行は賛成です」
「よし、決定だ」
パンと干し肉、果実で簡単に朝食を済ませて、王都へ馬を走らせる。
それから四時間足らずで、王都が見えるところまで辿り着いた。一度馬を休ませて、突撃の準備を整える。
「よし、覚悟は良いな!」
「はい!」
「もちのろ~ん!」
「私も剣術は齧っております。自衛と、微力ながら露払い程度ならばできましょう。どうか、お願いします」
「ああ。さあさあ、いざ、王都急襲だァ!!!」
ローグの掛け声で馬を走らせる。
王都の関門と壁の上まで、兵士が沢山だったが、制止の声に従って速度を落とすふりをして、最高速で突破した。
背後から鐘の音と怒号、さらに矢が飛んでくるが、矢だけは気をつけて、とにかく前進する。目標は大通りの先、瓦礫の山となっている王城。
「うっわ、マジで城がボロボロじゃねぇか」
「城を爆破って本当だったんですね」
「どういうマインドなんだろ?ロマヌスはあそこまでぶっ飛んでは…いたかもしれないけど」
「さてな。本人に聞いてやろうぜ」
馬上でそんな会話をしていると、前方、王城の門前にぞろぞろと兵士が集まりつつあった。
「ルアスさん、魔力は?」
「十分。四人短距離飛ばすくらいなら余裕」
「よし、馬飛び降りる用意しとけ」
「ブランさん、馬を飛び降ります。取りあえず、合図があったらすぐに俺の手を取って、着地したらすぐに走り出してください」
「了解いたしました」
「そろそろだ!速度は落とすなよ!悪いが馬は乗り捨てだ!三───二───一───飛べ!」
ローグの合図で全員が馬を飛び降りる。サガはブランの手をとる。
ルアスが転移を発動し、兵士達の後ろに一瞬で移動する。
「な、瞬間移動!?」
「走って!」
「は、はい!」
驚くブランの手を引いて走らせる。
後ろは馬のいななき、兵士の怒号、鎧がガチャガチャ言う音で滅茶苦茶だ。
追ってくる兵士から逃げつつ、瓦礫の山を越えていく。
鎧を着ている分、向こうの動きは鈍い。
一際高い、壁のようになった瓦礫を越えると、わりかし平坦な場所に出る。
ぼんやりと円形になっているその空間の中心、緩やかに積み重なった瓦礫の上に、クリスマスツリーのてっぺんの星のように、一際輝くものがあった。
金縁に高級そうな紅色の布の玉座と、それに鎮座する、六十そこらと思わしき男。
全身が見るからに高価なアクセサリーだらけで、ここまで来ると下品さを感じる。
しかし、元来持ち合わせる威厳はそのままだ。ただ、それに加え、妙な、魅力的と不快の狭間を漂うような不気味な気配もある。
そしてその首元からは、拳大の、透き通るような白色の大変美しい結晶───神の残滓をぶら下げている。
「ブランさん。あれが、そうですか」
「あれじゃなかったら逆に驚くがな」
「間違いありません。彼こそが、このスーフォリア王国の王、ライバン・ラテイル・スーフォリア王です」




