第29話 決める人間
四日目の朝、鐘が鳴った。
南部三領の中央都市からの使者だった。
今度は、非公式ではない。
「……領主代理、オットー・グランツより正式な要請です」
マルクスが、封蝋を確認する。
「“責任は、当方が負う”と」
私は、ゆっくりと息を吐いた。
「やっとですね」
要請文は、短い。
言い訳も、前置きもない。
『物流調整の指揮を、レインヴァルト領に一時委ねたい』
『失敗した場合の責任は、当方が引き受ける』
それだけだった。
「条件は?」
私は、即座に言った。
「三つあります」
使者は、深く頷いた。
「第一に、決定権は現場に残すこと」
私は、指を一本立てる。
「第二に、記録は全て公開すること」
二本目。
「第三に――」
私は、少しだけ間を置いた。
「途中で逃げないこと」
使者は、迷わなかった。
「承知しました」
それが、答えだ。
ミーナが、小さく息を呑む。
「……本当に、来た」
「ええ」
私は、頷いた。
「決める人間が」
即座に、指示を出す。
「倉庫の開放手順、再確認」
「代替ルートの優先順位、整理」
「輸送責任者を、名指しで」
誰も、反論しない。
動き出す空気が、部屋を満たす。
午後、現地に向かう準備が整った。
ミーナが、私に尋ねる。
「……どうして、分かったんですか」
「何が?」
「決断する人が、現れるって」
私は、馬車に乗り込みながら答えた。
「現れないなら」
少しだけ、視線を遠くに向ける。
「その領地は、もともと詰んでいる」
それだけだ。
夕方、南部中央都市に到着する。
倉庫前には、人が集まっていた。
不安。
怒り。
疲労。
だが――混乱は、統制されている。
オットー・グランツは、前に出てきた。
疲れた顔。
だが、逃げてはいない。
「……遅くなった」
「ええ」
私は、否定しない。
「ですが、来ました」
それで、十分だ。
「指示をください」
彼は、そう言った。
私は、首を振った。
「指示は出しません」
彼が、目を見開く。
「決めるのは、あなたです」
私は、板を示す。
「選択肢と、結果は並べます」
それが、調整役の役割だ。
彼は、歯を食いしばった。
「……分かった」
その夜、倉庫が開いた。
物流は、再び流れ始める。
完璧ではない。
だが――止まってはいない。
ミーナが、静かに言った。
「……決めるって、怖いですね」
「ええ」
私は、頷いた。
「だから、皆、避ける」
だが。
避けなかった人間だけが、
物事を動かせる。
南部三領は、まだ不安定だ。
それでも。
今日、ここに
**決める人間**が、確かにいた。
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