最終話 貴族学園二年生
貴族学園の二年目が始まった。
初日の授業は午前中で終わり、午後からは新一年生の入学式だ。
俺は上級生として協力している。
上級生の代表挨拶を任されかけたが、二年生であることを理由に何とか断った。
そもそも二年生で良いなら、俺よりもリアの方が適任だと思う。
最終的に、ローレンスさんが挨拶を任されることになった。
式が終わり、職員と上級生で後片付けをする。
それなりに人数がいるので、俺達の仕事はすぐに終わる。
リア達と一緒に会場を出ると、そこにはクラリスがいた。
「アレク兄さま」
「入学おめでとう、クラリス」
「ありがとうございます」
クラリスはニコニコと笑う。
王都に帰ってからはベンジャミンのことがあり、友人達と会う機会がなかった。
当然クラリスとも会うのは久しぶりだ。
「改めて、魔物討伐お疲れさまでした」
「ありがとう。クラリスにも迷惑を掛けてしまったな」
「いえ、大丈夫です」
ベンジャミンについて言ったのは通じたようだ。
彼女にとっては俺同様に従兄だ。
迷惑を掛けたかも知れないが、クラリスは笑顔で否定してくれた。
「ローレンスさんを待っているのか?」
「はい。この後、待ち合わせをしているんです」
クラリスは嬉しそうに答えた。
相変わらず仲が良さそうで何よりだ。
俺達はクラリスに挨拶をして、その場を後にする。
少し歩くと、アルフ殿下が、新入生の女子生徒に囲まれているのを見つけた。
どうやら、女子生徒からアプローチを受けているようだ。
「アルフ殿下モテモテですね」
モニカが感想を言う。
アルフ殿下は貴族学園に入学する前に、魔の森の討伐戦に参加した。
そのことは広く知られており、その立場と共に、女子生徒の関心の的なのだ。
「一年生だけじゃないですね……」
レイチェルの視線の先には、普段顔を合わせる同級生の女子生徒がいる。
入学式の手伝いで来たのだと思うが、何をやっているのか。
「去年のアレクだな」
「男子の嫉妬の視線に晒されるね」
ダミアンとコリーが面白がって話す。
確かに同じかもしれない。
すると、女子生徒に囲まれていたアルフ殿下の声が聞こえて来た。
「お気持ちは嬉しいのですが、私は結婚するつもりはありません。剣の道に全てを捧げると決めたのです」
……何を言っているのだろう?
「何を言っているんですの?」
アンジェリカが俺と同じ疑問を口にする。
すると、リアがため息を吐く。
「何かあったの?」
セラがリアに尋ねる。
「あの子、最近失恋したのよ」
「えっ、誰に?」
「ベティ」
「ベティさん!?」
セラが驚く。
他の皆も驚いている。
八才くらい年齢が違う。
「あの子、ベティに懐いていたでしょう?」
「うん」
「帰って来てすぐくらいだったと思うのだけど、ベティに向って言ったのよ。――自分がベティより強くなったら自分と結婚して欲しい――って」
「それで?」
「ベティは、――私には婚約者がいますので申し出は受けられません――って断ったわ」
その答えにセラが苦笑を浮かべる。
「ベティさん婚約されていたのですか?」
「ウェルズ侯爵領で申し込まれたらしいわよ」
「本当に最近ですわね?」
「相手は近衛騎士の同僚よ。以前から恋仲ではあったみたいだけど」
アンジェリカは感心したような顔で頷いている。
「惜しかったな。もう少し早ければ――」
「受けるわけがないでしょう」
俺の冗談をリアが即座に否定する。
リアは呆れた視線で俺を見た後、似たような視線でアルフ殿下を見る。
「馬鹿なことを言ってないで、良い相手を見つけて欲しいわね」
リアが祈るように言う。
「なら、アレクの出番だね」
「そうだな。アレクの得意分野だ」
コリーとダミアンが面白がる。
「アレクさんなら出来そうです」
「そうですね。私達の時のように」
モニカとレイチェルも乗っかる。
「アレクならすてきな相手を見つけてくれますわ」
「見つけるのは令嬢だけど、アレクなら何とかなるよ」
アンジェリカとセラも、俺を見て笑いながら言う。
「……頼める?」
リアが俺の目を見てお願いしてくる。
無茶を言うなと思うが……
「……頑張ってみる」
俺の返事に皆が笑顔を見せた。
貴族学園の二年生も、友人達との変わらぬ日々が続いていきそうだ。
~完~
 




