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蒼天の月  作者: 篁頼征
一、辻占の少年
10/28

瑕疵持ちの縁

 それからひと月ほど経った頃。父はある夜以前の上司であった方と酒を飲みに出かけ、翌朝盛大に母に詰られていた。飲み過ぎた様子とも思えなかったので、正直不思議な気がしたけれど、数日後にその理由ははっきりとした。

 わたしの新たな縁組が決まったのである。


 問題は、わたしの縁組が決まったこと、ではない。縁組の相手が瑕疵持ちだったことである。双方瑕疵を持つならいいのではないかという上司の言葉に上手く丸め込まれて、と母は憤っていたけれど、私としては自分だけ引け目に感じなくて良い分気が楽なので、あまり気にはならなかった。母としては確かにわたしは瑕疵持ちとはなったけれども本人に非はないのだから、せめてもっといい縁組を、と思ったらしい。

「瑕疵持ち、ってどの程度の瑕疵なのかにもよると思うのですけれど」

 そう言って見ると、母は酷く顔を顰めた。珍しいことである。

「お相手の方は、儂の元上司の張さんの家の居候なんだが、ご家族がいない、孤児なんだ。生まれた直後にご家族に不幸があって天涯孤独の身となった方だ」

 本人に非がない瑕疵持ちというのは、わたしと同じということだろう。なんでも張さんはその方のお祖父さまに当たる方にとてもお世話になったので、養育費を出しているということだけれど、一人の人間を育てるために掛かる費用というものは生半可なものではないだろう。

「年齢が極端に離れてるとか、性格がとても酷いとか金遣いが荒いとかじゃないなら、わたしはそんなには気にならないわ」

「けどお前、居候ってことは、本人はお金が全然ないってことだろうよ。金遣いの問題以前に金がないのはどうしようもないじゃないか。それに家族が居ないってことは、相手に万一のことがあった場合、お前にかかる負担が相当なものになるってことだ。相談出来る相手も援助もうちくらいしかないってことなんだから」

 母がそういってため息をついた。けれど、手癖が悪いとか金遣いが荒いとかの性質が悪いのはどうしようもないけれど、普通に働ける健康な体を持っていて、性質が善良なら、わたしはそれで十分だと思うのだ。お金の貯えがないだけなら、働いてお金を貯めればいいのだし。女の場合は一緒に外に出て働くということはあまり出来ないけれど、使用人を極力減らして、二人で、出来ることを片づけるようにしていけば、少しはお金も出来るだろうし、夫の頑張り次第ではいずれ貯蓄も出来るようになるのではないか、とわたしは楽観視していた。それを伝えてみると、母は呆れた顔をしながらも、少し気分を変えてくれたようで、眼差しが少し緩んでいるのが判った。

「そりゃあまあ、若いなら多少は無理もきくだろうけど。性格とかはどうだったんだい?」

 最後は父に向けて投げた問いである。

「顔合わせはこれからだが、問題があるような居候だったんなら、わざわざ元の部下の儂に背後関係を丁寧に説明した上で娘のお前を嫁に、とはいわねえだろうよ」

 断れないように仕向けて、ついでに言質も取ってしまえばいいだけだ。特に父は酒の席では比較的丸め込まれ易い傾向があるようだから。……母の様子からすると、だけれど。

 わたしは両親には悟られぬように気を付けながら、そっと重い息を吐いた。阿蘭(蘭君)の占いは今度もまた当たっていた。家族を知らない夫。わたしを最初の家族にする男、と。そして、これから顔合わせをして、それが決まるなら、確かに祝言は早くても来年になるだろう。


 占いというものは、あくまでも気休め程度のものだと思う方が良い。わたしはいつもそう思っていた。市井の少女たちが未来への夢を託して一縷の望みを賭けて占師に願うのは、ささやかな夢を少しだけ見ていたい少女のために吐かれた、害のない嘘なのだから。

 けれど、阿蘭の占いは嘘のない、棘のように突き刺さる現実だった。

 わたしは、強く目を閉じた。未来を確実に知りうる可能性を持った阿蘭。その存在は様々な意味で世の平穏をぶち壊してしまう恐れがある。阿蘭は怜悧な子のようだから、占術によって降りかかるかも知れない火の粉から逃れることも出来るかも知れないけれど、その行くだろう道は、とても険しいものになるような気がした。わたしはそっと祈った。わたしの未来の夫を案じてくれた、幼く心優しい占師のために。

許のお嬢さんの新たな縁談が漸く具体的になってきました。

しかしまだ見ぬ夫に対する情はないので、自分と夫になるだろう相手のことを案じてくれた美少年のことが気にかかってます。

浮気じゃないですよ。念のため。


そしてそのころの美少年とその母。

https://ncode.syosetu.com/n0449fj/10/

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