入学式の奇襲
王都が炎に包まれたあの日から一年。今日の新聞にはそのように書かれている。
城下町は朝市で人が溢れていた。非常に賑やかで活気がある。
しかし、国の外には国民の生活を脅かす魔物が、数え切れないほど生息していることを忘れてはならない。
この国で生まれ育った青年クロは、テーサ・ウルズ国立宝器学院の入学式へと向かう。この学院は、対魔族のために国によって創設された。
学院に入学できる生徒は全員、宝器と呼ばれる特殊なアイテムに適性がある、または使用できることが条件だ。入学できる人間は、この国に多くはいない。
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俺は賑やかな城下町を抜け、入学式が行われるセント城へと向かった。城門の前には長い橋が架かっており、城に勤める官僚や、国の兵が行き来している。
「入学された皆様、本日はおめでとうございます。学院長不在のため、理事長である私、セルニアがご挨拶させていただきます」
セント城の大広間に、大人っぽくも、かわいらしい理事長の挨拶が響き渡った。上を見上げると、目がくらむほどの高さに大広間の天井がある。
「それでは皆様には入学されたお祝いとして、こちらのアイテムをプレゼントいたします」
理事長がそう言うと、城の召使いが、白い布で包まれた何かを持って、それぞれの入学者の前に現れた。
召使いがゆっくりと布をめくると、鞘に収められた細く金の装飾が施された白い剣が姿を現した。
「そちらは我が国が作り上げた"準"宝器〈メタモール〉でございます」
――俺は、驚いた。
"準"宝器だと? 白くて綺麗なフォルムをしている。これが学院の指定武器なのだろうか。
すると、俺の右前に立っていた同じ入学生と思われる、赤髪のクールっぽい男が、淡々とした口調で喋りだした。
「理事長。私のような既に宝器と契約している人間は、契約していない他の宝器を使用、装備することはできないはずです。ですが、これは一体どういうことでしょうか」
赤髪の男は、白い剣を軽々しく右手で持ち、まじまじと観察しながらそう言った。
「宝器と契約した人間は、契約した宝器以外の宝器を手に持つことは愚か、触れることさえ困難なはずだ。しかし微量に感じる。この白い剣から宝器の魂と似たものを……!」
「そうね、カイ・サマルカくん」
葛藤しているカイを眺めながら理事長は非常にゆっくりとした口調で返答しだした。
「だから言ったでしょう。"準"宝器だと。この武器は宝器と名のつくものではあるけれど、宝器とは判定されない」
「答えになっていない。こんなものを黙って裏で量産していたのか!」
カイは怒りの表情を見せる。
同感だ。つまりこの代物は宝器に適性のない者まで使えてしまうなんちゃって宝器ということだ。こんな危険なものを――
『『ギャアアアアアッ!』』
しかしその瞬間、どこからか金切り声が聞こえた。悪魔の泣くような声、といった表現の方がそれっぽいだろうか。
すると同時に、大広間が黒いクリスタルに侵食されだした。大広間にいるクロ以外の人間はいつの間にか動きを止めていた。
これは……。誰かが何らかの時間停止系の魔法、またはアイテムを使用した可能性が高い。
「なんだ? そこになにかいるな。姿を現せ」
クロは気配がした方向に手を伸ばし、指を鳴らした。
『ゴッズマジック・魔法解約』
すると、長い白髪で大柄な人物が、魔法が解けたかのように姿を現した。
そいつはゆっくりと口を開き、こう言った。
「キサマ、私の不可視を看破し解除させるか。さすがは至高王が警戒する人間だ」
至高王? なんだそれは。
「やあ、魔族。素晴らしい。見事な奇襲だな。しかし、君たちの王様はなぜ私のことを知っているのかな?」
「黙れ。そんな気色の悪い魔力を垂れ流しておきながら何を言っている。安心しろ。お前を消したあと、すぐにもう一匹も殺してやる」
――なるほどな。
俺は辺りを見回しながら続けた。
「これは空間のクリスタル化だな。 内側からの脱出は不可能。外側からの干渉を防ぐ、非常に強固な檻と言ったところか。俺の名前はクロ。あなたは魔の軍勢の?」
「ああ、そうだ。私には名などないが、人間は私のことをネメアーと呼ぶ」
「そうか、ネメアー殿。一つ質問をしても構わないか?」
「良かろう」
「あなたは今日、俺を殺しに来たということで合っているか?」
「ああ、間違いない。今からキサマを殺す」
「そうか。しかし、ここには他の宝器使いもいる。束になってかかってこられたら、上位の魔族と言えど、あなたに勝ち目はあるのですか?」
「キサマの目は節穴なのか。キサマ以外の低度な人間は見ての通り時間停止状態であろう」
ネメアーは嘲笑し、そう答えた。俺は眉を顰め、少し苦い顔をした。ふむ。どうやら色々と計算外だったようだ。なんと言うか……。同級生が想像以上に残念だ。
「そうですね。失敬」
俺はゆっくりと手を上に挙げ、
「これらを守ってやれ」
とだけ、命令口調で発した。しかし何も起こらない。ネメアーは少し警戒した。
「何をしている?」
「いや、独り言だ。気になさらないでいただきたい」
俺の知ってる限りの時間停止系のアイテムや魔法は、時間停止状態の効果時間は最長でも七分だ。そしてそれをもう一度発動させるには、いずれの場合も、発動者が日をまたぐ必要があるはずだ。また、それらの連続しての併用はできない。
となると、相手は今から繰り出す一手で俺を一撃で殺せる確信がある、または――
「まあいい。死ね」
ネメアーはそう呟くと、着ているマントを勢いよく左右に広げた。そして、後ろの腰に着けていた剣を抜いた。
『超越獅子召喚』
「『超越成獅子乃突』を実行しろ!」
空気が一変する。
ネメアーが突き出した剣は粉々に砕け散った。すると、半透明で巨大な光り輝く獅子が魔法陣から現出し、それは大きく逞しく吠えた後、クロに光の熱を放射した。
カアアアアアッ……!
「ハハハ! このスキルは必中……! 必中の超越級スキルだ。獅子よ、そのまま焼き殺せェ!」
ネメアーは顔に手を当てながら大きく笑った。ネメアーには、クロを完全に殺したという確信があった。
完璧だ。これから魔族を滅ぼすと息巻いているガキを、記念すべき入学式という門出で葬る。こんなに可笑しいことはないだろう。
シュウウウ……。
しかしこれは何だ。自分とは別の、小さく笑っているような声が聞こえてくる。
「ハッハッハ。なるほど、驚いたぞ」
ネメアーが黒目を震わせながら視線を移した先には、必中の光の放射を真正面から受けたはずのクロの姿があった。驚くことに傷ひとつ負っていないのだった。
「有り得ない、何故生きている! ハッタリだ! 今の段階の人間では行使することも防ぐこともできない神の御業、"超越級"の領域だぞ!」
「ああ、驚くのも無理はないな。超越級の行使というのは「決してできっこない」ことであり、人間界ではそれに関する言い伝えが全て現実離れしているが故に、幻や神話の類だとされている、だったっけかな。安心しろ、それを食らってもノーダメージの俺はどうかしている」
「あ、ああ……ああああああ!」
「そんなに興奮するな。お前の言う、その『人間では決して防ぐことのできない領域』は、俺の前ではその程度であったということだ」
「な……何をほざいているんだ……。私は幻覚を見ているのか? ふざけるなこの化け物!」
ネメアーは息遣いが段々と荒くなっていく。なぜ俺が攻撃を耐えられたのか必死に頭を巡らせて考えているのだろう。しかし当然ながらクロは、アレを真正面から受けている。
「おいおい化け物は一体どっちだよ……。それに愚かなことだ。真実を聞いても理解できないとは。それでは反撃ついでに、お前のその体にも教えてやるしかないな」
俺は少し顎を引いて言った。
「魔族などという下等な生き物では決して『届かない頂き』というのを見せてやろう」
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