精霊の王
――森に緊張が走る。
「くっ、一体どうなってるの……! もうダメ……」
「プランタ……諦めちゃダメだっ! こんなところで諦めちゃ……!」
「だって……」
額に汗が滲んだ。我々が宝噐として世界に顕現して以来、これ以上のピンチは未だかつて無かっただろう。
見つからない……。
次の瞬間、ベルの魂の叫びが森に響き渡った。
「1輪でもいいのに、花が……。花が見つからない!」
ベルとプランタは旧帝国に来て以来、冒険者としてギルドの依頼を着々とこなしていった。そして、冒険者階級としては1番下の黒階級から、ひとつ上の白階級へ上がるための試験を、今まさに受けているところだった。
その内容は、この旧帝国外れの森でそれなりに生息している「精霊の花」という植物を採ってくるだけである。難易度的には、新人冒険者も受けるような比較的簡単なものであると受付嬢は言っていたが。
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「新人冒険者が1人前になるための簡単な試験のようなものですよ。これまでの依頼を難なくクリアしてきたお二人なら問題ございません!」
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いったい何なの。元々クロ以外の人間は信じていないが、あのメガネ小娘……。仕組まれてるな。
「ねえ、これまで私たちはギルドのクエストの内容を達成するために、日をまたいだことはなかった。そうよね?」
「そうだね。これは良くない。僕たちはいち早く冒険者階級を上げて冒険者としての名声を高め、上位の冒険者の環境に入り込み、情報収集をしなければいけないのに……」
旧帝国には、冒険者にも、そうでないものの中にも、腕のたつ存在が多くいるらしい。そのらの者の実力を調査するのが、我々の目的のひとつなのだ。
「これ以上手を煩わせるわけにはいかない。気は進まないけど、乗せられてあげる」
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「ったく! 最近はツイてなさすぎるぜ。おばあちゃんの形見は盗られるし、山菜は不作だしよぉ。イテテ……」
レンは森の落ち葉を蹴散らしながら、いじけて歩いていた。草木の揺れる音が、まるで自分に文句を言ってるように聞こえた。
未だに頭の痛みが引かない。最悪な気分だ。
フーレンがふと小道の先に目をやると、遠くの方で岩の塊のようなものが移動しているのが見えた。
「は? なんだ、あれ。まさかよお……」
精霊王。二足歩行の全身が苔むした岩。間違いない。こんな森の中腹にまで降りてきているなんて。
精霊王はスピリチュアルな種族名とは裏腹に、視界に入った人間には容赦なく攻撃を食らわす、ザ・モンスターである。森の知識に乏しい冒険者パーティが、さらなる報酬を求めて森を彷徨っていたところを、精霊王1体に壊滅させられた、なんて話は後を絶たない。
フーレンは即座に息を潜め、茂みに隠れて気配を消す。最近はなんだか嫌なことばかりだ。盗賊に頭をぶん殴られて……。精霊王は盗賊のように死なない程度で殴ってくれるのか。
――いや、ねぇな。
足の裏に思いきり力を込める。フーレンは飛び出すように全力疾走で逃げた。ばあちゃんが言っていたのだ。
「精霊王を見つけた時は静かにゆっくり逃げてはならないよ。精霊王は動きが遅い生き物に容赦しないからね」
くっそ! また走らねえといけねえよかよ!
足の速さには自信があった。小さい頃は毎日野生動物と追いかけっこをしていた。森を走るのは慣れっこだ。
「はッ……! まだ死ねないんだよッ……」
ちらっと精霊王の方を見る。精霊王はというと、こちらに手を伸ばし、今まさに魔法的な何かをこちらに撃ち込もうとしていた。
精霊王との距離は約50メートル。ヤバいのか……? 私死ぬのか……?
その瞬間、2人の人間が走る自分の頭上を飛び越えていくのが見えた。突然のことに思わずエッという声が出て立ち止まり、振り返る。
「見つけた。アレが精霊王なんだって」
突然現れた少年と背の高い女は、こちらを見向きもしない。精霊王は標的をどうやら自分から2人の方に変えたようだ。手から放出された光線のような魔法を2人に浴びせる。
光線は恐ろしい速さでこちらに到達してきたが、あがった土煙から現れた2人は傷ひとつ負っていなかった。
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