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親父の遺産がダンジョンだった件  作者: 大石次郎


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68/68

68話

ララミ。俺達より2個上の先輩世代。オルガン奏者を目指して、村でも練習できる小型の銀盤楽器クラヴィコードをよく弾いていた。


当時は病気がちでもあって、『美人で楽器も弾けるけど、長くはないんじゃないか?』なんて噂されていた。


モリオは次男だったから継ぎはしなかったが、実家は薬屋。その縁で直接知り合う機会があったらしい。


まぁ男女のことだから、機会があれば付き合うこともあるだろうし、この場合ちょっとハードな気もするが別れることだってあるだろうけど、そっから妹にいって結婚までしちまうモリオは相当なもんだ。


とにかく! 過去過去として、現在ララミ、というかララミさんはオルガンではなくクラヴィコードの奏者兼指導者としてずっと西の『アウタミ』て音楽の盛んな港街で暮らしてるらしい。


「1つ言っておく! ココミとの付き合いは一切ララミと被ってないっ」


俺達は金葉亭の結構追加料金取られる個室で『対策会議』をしていた。


「モリオ『氏』さ、つか、これまでどう成立させてたんだよ? ココミにバレてないワケだろ? 親族だぜ?」


「モリオ『さん』、ララミさんの方も結婚されてるんだよね?『これ以上の齟齬』は教会として見過ごせないよ?」


「急に氏、とか、さん付けるのやめろっっ。ココミと交際した頃にはララミは村を出てたんだ。アウタミは遠いし、音楽家になるので親と揉めたそうだし、結婚式の時も楽団の演奏旅行でアウタミより遠い土地に行ってた。手紙や役場の水晶通信で親族とはやり取りはあったし、ココミとココミのお義母さんが上の子供を連れてアウタミとメジハの間くらいの村まで行って、そこで落ち合って話したことも一度あったよ。内心ビビったが······その頃もうララミも結婚して子供もいて、特にトラブルなかった。あとは今更なにもない! 今回急だったんだ」


モリオは一気にまくし立てて冷水を飲んだ。聞けば聞く程、薄氷だなって。


「モリオは手紙出さなかったのか? いや普通の元カノならともかく、妹と結婚したら普通なんか一言あるだろ?」


「だよねー」


サンドウィッチをパクつくミラルゴ。追加注文は全てモリオの奢りだ。というか、思い切り農作業用の服だな、ミラルゴ。


「ココミと付き合うってなった時に一通出したが、返事がなかった。何通も出すのもアレだし、それっきりだった」


「「······」」


確かにララミさん視点では困惑するわな。


「というか、ピロシはよくララミさんとモリオが付き合ってたの知ってたね? 今回聞くまで知らなかったよ」


「治療院の奥の水路の先に資材置き場みたいなとこがあんだよ。一時、そこでネタの練習してたんだ。普段、人、いないから。そこにある日2人が来てさ。俺は慌てて物陰に隠れて······あとでモリオを詰めたら付き合ってるって白状した」


「そんな人気のない所で逢瀬を?! おお、神よっ」


「あのな、当時14歳とかだぞ? ピロシが見た時も、『水路の魚の話』とかそんなんだけだよっ」


「俺が気ぃ遣って場所譲った後もずっと清く、『お魚の話』だけしてたと誓えんのかぁ?」


「······」


モリオは不意に立ち上がると演説するように天井の方見上げた。


「ララミは明日、アウタミに帰るそうだっ! で、今夜親戚一同集まる会食を兎パンチで執り行うことになった!! 今の所、ララミからは個人的に接触はなにもなく、『義理の姉』て感じで接してきてるっ。今夜の会食を乗り切る!! お前達には俺の援護役として参加してほしいっ」


「虫がいい話だぜ」


「ちょっと、神様と相談してみるよ。瞑想の経験上、神様はわりと話がわかるタイプだからね」


俺達同級生コンビは火中のマロンを拾う人生を選んだしょうのない男の助太刀をすることになった。


なんだかなぁ。


_____



夜、会食実行の時!


俺は兄貴に戸惑われながら『せっかく村にいるタイミングだから』と貸し切りの兎パンチの主にフロア担当として、手伝いをすることになった。


ミラルゴは『一族の平安とララミの門出を祝福する』として、同級生のよしみでモリオが呼んだ体で参加。


一応、フォロー体制は整ったが、『やぶれかぶれ』で来られたらさすがにお手上げだ。向こうもいい大人で家庭がある身、そうはならないと思うが······


「皆様の御健勝を! 神の為すがままにっ」


「「「為すがままにーーっっ」」」


ミラルゴ助祭が乾杯の音頭を取る形になり、会場はワイワイしだした。


親戚に加え、関係者も来てるから40人はいる。盛況だ。


「思ったより親族以外も来てるな、店員の体じゃなくてよかったぜ」


「まぁ、立場があった方がいいよ。私も助祭の格好してなかったらこういう場で目立つの無理!」


端っこでコソコソミラルゴと話す。


「アレは今のララミさんか。相変わらず美人だな」


ちょっと生活に疲れたような『程良いくたびれ感』がセクシーだった。


ココミと仲良く並んでジョッキを手にしてる。子供はまだ一桁台の歳で、20日も掛かるメジハまでの旅に同伴させず旦那に預けて来ている。近くの仕事のついでだという。


「ピロシ、ややこしいから『間に入ったり』しないようにね?」


「するかっ!」


ハード過ぎるわっっ。


「お兄ちゃん、ちょっとこっちも夕飯持ってきてよ? 腹ペコ母子なんだわ」


キッチンの奥からヌッとモモミが顔を出した。手伝いでなく、ロミーと2人で休憩室で夕食待ちだ。


「2人分くらい運べよっ、ミラルゴ、見張り頼むぞ?」


「了解」


てんてこ舞いの兄貴に代わって、よその家の祝いごとの気配に、構ってほしくなった様子の三十路の妹の世話に一先ず向かうっ。


「お手玉······からの、玉がポポンっ!」


「わーっ? 叔父さんすごーいっっ」


「おお〜〜」


配膳のついでにお手玉6つが次々と造花に変わる手品で、妹と姪を喜ばせ、素早くフロアに戻った。


「アハハっ」


真っ白い顔で、凄い脂汗で愛想笑いをし過ぎて壊れた傀儡人形のようになってるモリオ。


「っ!」


ダンマス暮らしで目がよくなってる俺は見逃さなかった。


ララミさんが横目でその様子を確認し、『ふっ』と目元と口元だけで笑みを浮かべているのを見て取った!


これはっっ、やはり『お仕置きタイム』だ!!!


「モリオさん、村の『水路のお魚』はまだ元気なのかしら?」


不意にキラーパスを出すララミさんっ。


「そ、そうですね。この季節はですねっ、タモロコ以外にも、イーストメダカがですねっっ、その、アハ、ええと」


「あんた、飲み過ぎじゃない? 水路なんてわかんの??」


「だ、だな? 施設管理部かな? アハハっ、げほっ、げほっっ」


ヤバいっ、モリオが燃え尽きそうだ!


「こちら兎生ハムのハーブマリネでぇす!」


「ララミさん、クラヴィコードお聴かせ願えませんかっ?!」


ミラルゴと2人掛かりで支援するっ!


「あら、姉さん美味しそうよ? 取っといてあげる」


「そう、ありがとう。姉妹で分けるのもいいものね? 助祭様、弾かせてもらいます」


ニッコニコの笑顔のララミさんは、ココミやララミさんの実家から持ち込んだクラヴィコードに向かった。


最初に演奏された楽曲は『夢魔と姫』。勇者に惚れた夢魔の女王が勇者に救出された姫に嫉妬するが、存外勇者もどちらにもいい顔をしようとする、という下世話な伝説をモチーフとした喜劇の楽曲だ。


弾き終わる頃にはモリオは塵になって消えそうな勢いだったが、さすがにいい腕前の演奏だったもんさ。


_____



それから客が大半ベロベロになる頃、俺はランタンを持って先に帰るモモミとロミーの店の裏手の少し先まで送って、店に戻ろうとしたら、裏手から出てきた外套を着たララミさんとばったり会った。


「あれ? もう帰るんですか?」


「そうね、私の街に帰るわ。馬車も待たせてあるの、荷物と一緒にね。ピロシ君」


「あ、はい。そッスか······」


色々お見通しだなこりゃ。


「モリオと仲良くしてあげて。『いい格好する』人だけど」


「うッス」


ランタンに下位のファイアジェムを使った小さな点火棒(てんかぼう)で火を灯すララミさん。


「それじゃ」


村の出口方面に歩きだした。


いつか資材置き場で見た横顔は少しやつれていて、モリオが杖みたいだった。


恋もしたり、なんだかんだで持ち直してきたんだなって。


「あの、いい演奏でした。頑張って下さい」


ジャンルは違うし、やり方もそれぞれだが、仕事を成立させてる人だ。


「ありがとう」


それ以上はなにも言わずララミさんは去ってゆく。俺は鍵の杖をこっそり抜き、『魔除け』の効果を彼女の外套に付与した。ちょっとやり過ぎたから『20年』は効果が持続するはずだ。


「さて、モリオ。まだ意識あるかな?」


俺は友達の介抱の為、兎パンチに戻った。

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