122話
「語尾が『デシ』? ああ、モートですね」
地上のアバドンさんの小屋の隣のアトリエで普通に蝙蝠ぬいぐるみに戻ってるアリッサが尻尾で掴んだ『串焼き肉』をもりもり食べながら言った。
アトリエの食卓にはゴールドスコップのアストロロジー、小っちゃいヘルスパルトイとツルベ火クィーン、ピクシー化したロックローズとコメリナ、ケムシーノ2体、アバドンさん、ヴァーリンとこに降りてないクピドのキックエルとニーエル、人間体スキュラ、『そのまま上がって来れる』と判定されたクルーが来ていた。
多いな······つか、ダイニング狭っ。
「反応軽いな」
「軽いと言えば地上は魔力が軽くて身軽だね! ほらーっ」
食事もそこそこにプクっと毛皮の身体を膨らませて浮き上がるクルー。
「いや、重さ的に軽くなんの?」
「クルー、食事中である」
「アハハーっ! あちし身軽ぅ〜」
「完璧に『出所ハイ』だわ」
「我々も宇宙に吸い込まれるところでしたね」
「未だに天井がないのは慣れないよ」
「我らは昇天してしまいますぞ? ヒホホっ」
「昇天、ヒィ〜っ」
「お水は美味しいです」
「星も綺麗ですよね」
「というかピロシ様、全然シークレットモンスターガーデン来てくんないッスね!」
「放置ですっ! 塔を護ってるシルバーワーグ、『ゴルドワーグ』に進化したんですよ?」
「「ケムんっっ」」
ヤベぇ、凄い勢いで脱線するから元の流れに戻すの難ぃな······
「いや、モート! ガーデンにも後で行くからっ、モートの話だ。本当の6層に残ってるんだよな? アリッサ」
尻尾で掴んだジョッキでワインを一気飲みするアリッサ。
「んは〜、現実世界のお酒は染みますねぇ」
「アリッサっ」
「あー、はいはい。モートですね。魔王軍時代は仕切り屋でギットギトに悪意に染まってましたけど、『最高レベルに至った勇者に本格的に滅ぼされたもんで魔族の身体を完全に失い』メジハの牢獄に押し込められてからは人の身で転生を繰り返しているんですよ、まぁその気になれば200年くらいは生きられるみたいですけど」
人の身で転生、か。
「杖の記憶で爺さんと同じ感じで年取ってたのはそれでか」
「仲良かったですからね」
「風変わりではあったが、感じ良さそうだったぞ?」
「人間の身体で、何度も寿命を終えたり小競り合いでサクッと死んだりってのを繰り返してきたワケですよ? 人ってすぐ死んじゃいますから」
「そりゃ、なぁ」
それ言ったら俺もよく生き残ってきたもんだ。真面目に命が惜しいタイプだったら書き置き残してトンズラ不可避だったぜ。
「段々『我こそが魔王軍大幹部っ、冥王モートなりぃっ!!』てノリがバカバカしくなって、ヘイスケの2代くらい前までは姫様の御機嫌伺い以外は拠点の冥王の社から出てこなくなってたんですよ」
「丸くなっていった、てことか」
モートの方は大体わかった。状況はともかく、人物としては今は問題なさそうだな。あとは、
「その姫、てのは?」
と、この質問にアバドンさん以外の視線が集まった。え?
7層の方の最後の首魁だよな??
「······姫はですね。よいしょ」
アリッサは変化を解いて魔女の姿でテーブルの上から椅子に座り直した。地上でも変化解けるんだ。
「名は『ククリ・ミクトラン』様。魔王様の娘です」
魔王の、娘? そんな伝説聞いたことないな??
「えー······」
ちょっと待ってくれ。俺達、最終的に魔王の親族と交渉する流れなのか?
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箱の船を使ったストレイルタバガとヤクシャによるエーリヴァーカル一派との交渉は概ね上手くいってるらしい。
エーリヴァーカル本人は細々とした交渉に関心ないっていうか、『首魁未満の眷属』とまともに話す気もない感じだったから相当面倒がるのをどうにか粘ってアペフチとヨミロートスと水晶通信を繋げさせて最低限確認を取る形は作れていた。
4層首魁のヨミロートスじゃ実務的な交渉はできないが、アペフチとエーリヴァーカルが不仲過ぎてずっと2人で話させると必ず決裂するので間を取る必要があった。
支配域に関するその他の交渉窓口は連中の幹部の唯一の生き残りニーベルング・カリブーが担当していて、これも剣呑らしいが対話自体はできるそうだ。
······そんなこんなで、
「はぁ〜、あんま会いたくねーな」
船内で思わず口に出すと、他の皆も苦笑だよ。
「マスター君、そゆこと言ってはいけませんよ? ふひひ」
「そうそう、大人気ないわ。うふふ」
師弟で笑ってじゃん? ま、いーや。俺達はボルケーノが眷属達に改めて用意させたやや大きめの非武装の箱型艦で猛吹雪の中、エーリヴァーカルの拠点、『凍える宮』に向かっていた。
メンバーは俺、アバドンさん、ケムシーノ達、ビッグヘッドとオークジェネラル以外の首魁達、アストロロジー、スキュラ、ヤクシャ、ストレイルタバガ。
あとは艦長としてキャニスターゴーストも乗ってる。
「······拠点の方からニーベルング兵の乗ったアイスズーが7体来ます。1体にはとても強いニーベルングが乗っています」
アストロロジーが探知した。
「キャニスター、『れーだー』の反応はどうだ?」
「進行方向ヲ拡大確認······ハイ、ソレラシイ個体群ガ来テイマス。ドウシマス?」
「よし撃ち墜とせ」
「了解デス」
「待てぇーいっ! オカシイだろ?」
迷いなく伝声器越しに交戦おっぱじめようとするボルケーノ達にツッコむっ。俺、休暇明けで体調いいかんな?
「ポンコツども、余計なことはしないことだ」
「なにおうっ、アペフチぃ?!」
「くそばばあメッ」
「やめんかっ、意味のわからん切っ掛けで揉めるでないのである!」
はい、アバドンさんに怒られた〜。
「たくっ、下層組はデリカシーが足りないぜ、シュウゥッ」
「全くだな、協調性とやらが欠けているんだろうよ」
「「「······」」」
リュブリャナとクリスタルリトーの発言に俺を含め、少なからずのメンバーが思うところがあったが、ややこしいのでこれはスルーすることにした。
なんにしても迎えにきたカリブー率いるアイスズー達と『何事もなく』合流を済ませ、俺達は凍える宮へと案内された。
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凍える宮はアペフチの拠点とはあらゆる意味で正反対だった。
まず、氷その物でできている。見た目こそ宮殿風ではあったが、強い魔力の氷塊の塊で、人類的な生活感は皆無で。生活拠点として機能してるのか疑わしい物があった。
かなり攻撃的な結界を抜け、着陸して艦から出たが、ボルケーノの機怪城と同じ『迷宮の中の迷宮』に来た印象だ。
「ボルケーノのとこの仕様に近いが、あそこはまだ機怪人ベースの生活感はあった気がすんな」
「当然だ! 余は優れた統治者だからなっ、ギハハハ」
自分好きだなー、コイツ。
「フィボルクはともかく、ニーベルング族には生活スペースは必要じゃないか?」
「······あたしに言ってんの?」
カリブーが冷たく振り返ってきた。勇者伝説ではあまり詳しく出てこなくて、端的に『氷のような魔人』くらいの描写しかないが、それそのまんまだ。
双剣を背負った長身の女剣士のニーベルング族。そがニーベルング・カリブーだった。
「ああ、うん」
案内してるのカリブー1人だけだし。
「······」
中々、そっから会話の続きが来ないな?
「ニーベルングの人らは地下に居住区がありますねん」
「かなり広大ですよ? エーリヴァーカル殿は軍務以外では眷属の暮らしにあまり関わっていないから自治都市のようになっています」
カリブーの代わりににストレイルタバガとヤクシャが答えてきた。
「へぇ、そうなんだ」
「······そう」
無口〜。エーリヴァーカル一派、フレンドリーな人、1人もいない件っ!
参ったな、と思いつつ、俺達は宮殿の凍て付く回廊を進んでいった。




