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親父の遺産がダンジョンだった件  作者: 大石次郎


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1話

「はい、人にもよりますがジャグリングはできる最大量の8割が安定です。天候、体調等も考慮して下さい。早く回せばいいってもんでもないですからね?」


細々指導してく。趣味でやってる人達が大半だが、若手の同業者や他のネタで詰まってジャグリングに手を出した中堅や、悲哀出ちまってるベテランもチラホラいる。


意外といるのはノームやドワーフやエルフ系の長命種組。


人生長過ぎて暇なんだろな······


俺はピロシ・シープランド。田舎を出て旅芸人をやってるんだが、さっぱり売れず、手先だけ器用になって『手品教室』と『大道芸教室』が本業になってる状態で三十路に突入した。


まぁ都会にはこんなおっさん珍しくない。


今日の講義のコマを終え使ってる市の文化会館の来期の予定の確認や、ロビーで煙草吸ってフラフラしてた市の芸人ギルドの職員を掴まえていい仕事ないか? ウザくないよう軽めに聞いたら、


「お前ピロシ、もうギルドの職員にならねーか? 事務と馬車の扱い覚えてもらうが、向いてるぞ?」


とか言われちまった。ええ······


気の利いた感じで上手く答えられないまま、帰宅した。


都会じゃ多い箱型の月契約宿だ。狭く風呂無し、トイレ共有。個人の手洗い場はギリあるようなとこ。


「ちわ〜」


管理人の猫獣人の婆さんにゆるく挨拶して3階の自分の部屋に上がろうとしたら、


「ピロシ君! 田舎から手紙来てたよ? 速達!」


「速達?」


これまで一度もなかったこと。管理人から預かってもらっていた速達印を押され切手も足された手紙を受け取る。


薄暗い部屋で安物の魔力灯を点け、開封して確認してみると、


『親父が危篤』の報せだった。


_____



5日後、休業届けをギルドに出したり、なんだかんだ身辺整理をした俺は少ない荷物で田舎道を乗合馬車に揺られていた。


道端に簡単な魔除けが一定間隔で置かれた土の道、田園、山、森。


全く同じってこたぁないんだろうけど、時が止まってるみたいだ。20年ぶりの帰郷。


感傷的になるかと思ったらちょっと怖いくらいに感じる。逃げられなかった。みたいな······


「行商じゃないね、里帰りかい?」


乗り合わせた農品を売った帰りらしい丸っこい体型のハーフノームらしい爺さん。ノーム系ってことは相当年季入った農夫だ。


「ええまぁ」


「私はフサ村なんだよ、君は?」


フサ村は1つ手前の村だ。田舎嫌いだった若い頃は『村B』と認識してたな。


「メジハです」


「山菜と香菜兎(こうさいうさぎ)が有名だね」


「ええ」


近くの森が深く、一方で牧草地の確保がカツカツだから苦肉の策でハーブを食わせた食用兎肉を特産品に仕立ててるだけだ。


「フサの野菜も美味しいよ? 売れ残りだけど、ほら」


確かフサ特産の甘い梨瓜(なしうり)を1つ差し出された。


「あ、ども」


芸人やってた癖でこれ見よがしにすぐ齧っちまったよ。だが、


「甘!」


舌の奥が痺れるくらいだ。土の風味がする。都会でも売ってたが物が違った。


「うっ」


ヤバい、変なツボに入ったっ。泣けてきた。


「故郷はいいもんさ、帰れるからね」


肩に手を置かれて、俺はしばらく泣いちまった。締まらねぇな······


_____



「弟よーっ! よく来たぁーっ!!」


「兄さん久し振りぃー!!」


実家に戻ると仲悪かった兄のシュウベイと、普通に疎遠な妹のモモミが大歓迎だ??


「ええっ?!」


「残念だがっ、報せの行き違いで3日前に父さんは亡くなって、もう葬儀も終わったからな?」


「墓参りには私達も付き合うわ。お母さんの隣の墓よ?」


「お、おお······」


テンションおかしくないか??


墓は普通によい墓だった。奮発したなって。村営墓地はスペースに限りがあるからいつか氏族単位で纏められることになるが並んだ親の墓はよく手入れされ、清々しかった。


俺はしっかり参った。それから、気まずいが、


「兄貴、モモミ。実は俺、こっちに戻ろうかと思ってさ。宿屋か、酒場の仕事ないかな? どっちも3級だが経理と馬車の御者免許も持ってるんだが······」


「心配ないさーっ!!」


「兄さんにいい話があるわー!!」


「ちょっ?」


なんだなんだ?? テンションおかし過ぎるだろ??


俺はわけもわからず再び実家に連れてゆかれ、食堂に座らされて『古びた小箱』を前に置かれた。これは······


「えーと、確か親父の方の爺さんの形見だっけ? えー? 見たの爺さんの葬儀以来だ」


「開けてご覧! 弟よっ」


「今こそ箱が開けられる時よ!」


「2人ともテンションおかしいぞ??」


さっぱりだが、俺は小箱を開けた。


そこには古びたやたらデカい鍵が1つ入ってた。謎文字が刻まれてる。


「鍵、だな?」


手に取ってみると熱っ?! 眩く発光!!


『友よ、古き約定の元、懐かしき魂の牢獄の主たる王冠を与えん、叡智と公正の光と共に』


謎の声が響き、鍵に刻まれた文字が読み上げられた。いや、というかこの文字が読めるぞ??


「はい、契約成立!!」


「おめでとうーっ!!」


紙吹雪まで撒いて囃し立てる兄&妹。


「どーいうことだよ?」


俺もお子ちゃまじゃない、ここに来て『こりゃハメられた』と理解した。


「······ピロシ、それは親父が隠してた爺さんの形見だが、これは親父の遺言だ。俺は長男だが家族もいるし、商売もある。すまん!」


古風な巻物型の書状を差し出す兄貴。


「私も、離婚したけど子供いるから······ごめん」


バツ悪そうな妹。


「······」


俺は腹を括って書状の紐を解き、中身を見た。


『森の奥のドワーフの木こりの小屋の先に洞穴があるが、その奥にダンジョンの入口がある。ウチの家系はあのダンジョンのマスターになることを義務付けられていた。俺は義務から逃げたが、そろそろ管理放棄の限界だと思う。迷宮が暴走する! 子供達よ、爺さんが遺したグランドマスターキーを頼む。生きてる内は逃げきれて、よかった。 父より』


俺はスッと書状を巻きを紐を閉じ直し、そのまま暖炉に投げ込んだっ。


「ざけんなっ、クソ親父!! クソ家族! クソ田舎がぁーーっ!!!!」


俺の魂の叫びが日も落ちたメジハ村の響き渡った······

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