19 アニタ視点
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ありがとうございます(_ _)
今回からしばらくフェリシア視点お休みです。
私が仕える方は美しい方だった。
月の光のような銀髪にルビー色の瞳。控えめな表情には知的さを持ち合わせ、見る人すべてを虜にしてしまいそうな方だった。
アニタ・エレーノスは数ヶ月前からフェリシア・カレロ様の侍女として仕えていた。初め、殆ど屋敷に帰ってくることができないリベルタード公爵家当主マティアス様に変わって公爵家を仕切っているユーリウス様の命によりフェリシア様付になるように言われていたのだ。
初めは驚いた。一切女性の気配を漂わせてことのなかったユーリウス様がいきなり女の人を連れてくると言い出すと、誰にも見せたことのないような笑顔をその人に向け、まるでずっと昔から愛しかった人を呼ぶようにフェリシア様の名前を呼ぶ。
私もフェリシア様のもつ魅力と心の美しさに日々惹かれていき、3ヶ月も経たないうちにいつの間にかフェリシア様の虜となっていた。
けれど事態が急変したのはジュリッサ様のお茶会へと招待された日。ジュリッサ様は聡明な女性で、ユーリウス様も信頼している方のため安心しきっていたが、それが間違いだった。聞くに堪えない暴言、思い込み、全てを含めてフェリシア様の害としか言いようがないものだった。どこをどう見てユーリウス様と自分が又従兄妹の仲を超えた存在に見えるのか。確かに仲はいいけれど、フェリシア様に対する笑みを見てしまった瞬間、それは格が違うのだと見せつけられる。けれども、一番納得がいかなかったのはその言葉に対するフェリシア様の態度。まるでそれが当たり前のような、傷ついたような顔をしながらもどこか安堵している表情が見られ、理解することが出来なかった。
が、その理由を聞いたとき私の眼の前は真っ暗になった。
フェリシアが幻と言われる奇病? 治る可能性は圧倒的に少ない? ずっと痛みに耐えながら過ごしていた?
自分の頭が理解するのを拒否している。そんな私を横にフェリシア様は微笑んでいた。どうすることもできない。フェリシア様が望むのなら病気のことは誰にも言わない。そう決心していた、はずだった。
「あまり……フェリシアちゃんにとっては見てよかったものではなかったかもしれないね。ごめんね。僕が庭園に行きたいって言ったから……」
「いえ! 決してアルノルド様のせいではありません。それに私は大丈夫ですよ? むしろ少し安心した部分もありましたし。でも少し顔色が悪くなっているようですので、先に部屋へ戻らせて頂きますね」
自分の目が信じられなかった。なんだあれは。何故フェリシア様に向けるような笑みをジュリッサ様に向けているのだろうか。しかも最近では特に一緒にいるところを目にしている。その理由はジュリッサ様から聞いていたが、それでも仕事が同じだけだからだろうと思っていたのに。ユーリウス様にはフェリシア様だけだと信じていたのにそれが間違いだったのか。
酷く傷付いた笑みを見せながらフェリシア様は自身の部屋へ帰ろうとする。そりゃそうだ。好きな人が他の女にあんなにも柔らかい笑みを向けているのを見せつけられたらショックを受けるに決まっている。
そんな様子を心配してアルノルド様も私とともにフェリシア様につき、部屋へと送ってくれた。
だがそれだけでは終わらなかった。
この日を境にどんどんフェリシア様の容態が悪化していったのだ。フェリシア様から頼まれていた、腕や脚が全て隠れるような服や手袋を準備していたが、まさかこんなに早く使うとは思っていなかった。日に日にフェリシア様の体を侵食する瑠璃色の石は私にとって憎悪の対象でしかなかった。
何故フェリシア様なのか。実家でもあまり良い待遇を受けていなかったと聞く。後妻と実の父親、義理の妹に虐げられている事も。何故フェリシア様だけにそんな災が降り注ぐのか。どうしようもない怒りが湧いてくる。
そしてとうとう首元まで隠れるものも至急準備してほしいと、一着でいいからと言われたときはなんとも言えない虚無感に襲われた。一着でいいということは首元まで広がったらそれが最後なのだと暗に告げているようだ。でもフェリシア様の頼みだからと、仕上がるのに最長一週間もかからないドレスショップに頼んだ。本当はブラックベリーなどに頼みたいのだけれど、いつ必要になるか分からないから。
ユーリウス様は毎日のようにフェリシア様のところへ訪れる。まるでフェリシア様が一番であるかのように。それを見るたびに怒りが湧いてきたが、フェリシア様はいつも嬉しそうなお顔をするため、何も言うことはできない。
そして私は、フェリシア様の体に瑠璃色の忌々しい石が広がるのを、フェリシア様が苦痛で顔を歪め、死を恐れているのを見て私は決心した。
アルノルド様に相談しよう、と。
フェリシア様の意思には反してしまうけれど、私はフェリシア様の命がこの世から消えることが何よりも怖い。それならば少しでも可能性がある方がいいではないか。
フェリシア様が言うにはこの病気はアルノルド様に教えてもらったのだと言っていた。もしかしたらアルノルド様だと何かできるのではないかという希望があったからだというのもあるが、ユーリウス様に相談するのは何か違う気がしたからだ。
そしてフェリシア様が私がいなくても大丈夫な時を見計らい、私はアルノルド様の元へと通い出した。




