九話 大量生産?何それ美味しいの?いいえ、不味かったです。
……はっ!?
ど、どうもアリスです!
リビング・メイルに作らせたらあまりにも開放的すぎる家になってしまったので、ちょっと呆然としてました。
お花摘みから帰ってきたら、何故か外観と内観が全く一致していない小屋が完成していて、ちょっと困惑しているアリスです。
家具とか無いのは別にいいんだけど、壁も何にもないというのは、いやはや予想外過ぎてなんとも言えませんね……。
……もしかして、俺だけじゃなくて召喚獣まで頭おかしくなったのか?
「あ、そういやリビング・メイルには脳みそなかったな!
アハハハハハ………虚し」
俺はとりあえずまぁ寝ることはできるんだし、ここに長くいるつもりもないので、今日は我慢することにした。
「明日はきっと、いいキャンプ場を探してやる……!」
俺はそう決心すると、それでは早速とばかりにMP回復ポーションの作成に取りかかることにした。
「……けど、ちょっとその前にトイレ行ってこよ」
俺は回れ右をすると、そこの扉を開けて小屋を後にした。
小屋を出て、俺は近くの茂みへと足を踏み入れて行く。
索敵スキルを使って、周囲に動物や魔物が居ないかを確認すると、近くについ数時間ほど前に倒した覚えのあるブラックスネイクの反応があった。
「いちいち倒しに行くのめんどくさいな」
俺はそう呟くと、召喚魔法を行使して、リビング・メイルを一体召喚した。
「リビング・メイル。倒してきて」
命中補正スキルを併用して召喚獣にそう命令すると、リビング・メイルは一度だけ頷いてから、ガシャガシャと音を立ててブラックスネイクの方へと向かっていった。
「ふぅ。
それにしても、ほんとに召喚魔法は便利なのか不便なのかわからないな……。
こういうときはちょっと便利だけどさ」
俺は土魔法の《クラフト》を使ってスコップを作ると、手頃な木の根本に穴を掘って、簡易トイレを作った。
「これでよし」
俺はスコップを鋼材に変えて、手に付いた泥を《ウォーターボール》で綺麗に流すと、パンツを脱いで穴に自分の股を向けた。
「……そういえば、女の子のおしっこってどこから出るんだろ?」
妹がいたけど、流石に妹のトイレしてるところなんて見たことないしな……。
「……ま、出せばわかるか」
俺はスカートを捲し上げると、とりあえずどこに飛んでもいいように身構えておいた。
⚪⚫○●⚪⚫○●
「おしっこって、あんなところから出てたんだな……。
いや、びっくりだわ」
一通り用を足した俺は、裁縫スキルでパパッと作った手ぬぐいで股間に付いた水滴を拭き取ると、装備メニューからパンツを再装備して、穴を《クラフト》でもう一回作ったスコップで埋めた。
(スコップはトイレのとき必要だし、ストレージに保管しておこう)
俺はついでに股を拭いた布も、水魔法の《ウォーターボール》で洗って《炎熱操作》で乾かしてからストレージに放り込んだ。
それから俺は、ブラックスネイクの死体を素材変換スキルで処理してから、キャンプ場に戻ることにした。
「さて、早速ポーション作りを開始しましょうかね……っと」
キャンプ場の小屋に入ると、俺は相変わらずの何もない大部屋のど真ん中に腰を下ろして、薬品作成スキルのメニューウィンドウを開き、ポーションの作成を開始した。
頭の中には、某マヨネーズの3分間クッキングの曲が流れている。
「えーっと、紅玉草紅玉草……」
メニューのボタンをポチポチと弄りながら、淡々と回復薬の制作を続ける。
サブキャラとして作成したこのアバターは、魔法系のスキル以外にも、生産系のスキルを獲得している。
主にメインキャラには戦闘特化のパラメータに設定しているので、もしメインキャラでこの世界に放り出されていたら早速詰んでいたかも知れない。
「転移したのがサブキャラでよかったよ、ほんとに」
俺は苦笑いを浮かべながら、慣れた手付きで窓を操作していく。
薬品作成スキルは、調合師レベル1で獲得できるスキルだ。
俺の現在のJOBはウィザード。
メイジの派生ジョブで、魔法に特化した職業だ。
俺のジョブレベルが300/100となっていたのは、同じ系列のジョブレベル(つまり、メイジとマジシャンのレベル)が合算されているからだ。
……え?
なぜ調合師のスキルを獲得しているかって?
終末世界オンラインは、メインキャラとサブキャラのアイテムストレージが同期してるからな。
一つのキャラが習得できるジョブの量にも制限があるし、何より作った方が安い。
ちなみにジョブは一種類しか表示されない。
あと、レベル表示も、同じ系列のものしか表示されないので、ステータスではジョブが一つしかないように見えるんだ。
ちなみに俺の今まで獲得してきたジョブはこんな感じ。
⚪⚫○●⚪⚫○●
裁縫師 100/100
鍛冶師 100/100
調合師 100/100
メイジ 100/100
マジシャン 100/100
ウィザード 100/100
⚪⚫○●⚪⚫○●
終末世界オンラインでは、ジョブレベルが10上がる毎にステータスレベルが1上昇する。
つまり俺のステータスレベル85のうちの60レベルは、ジョブレベルで稼いだものなのだ。
ジョブがなければ、俺のステータスレベルは今頃25辺りだっただろうね。
さて、そんな話をしている間に、MP回復ポーションが完成した。
「やっぱり、この世界は変なところがゲームのままだよね……」
俺は完成したMP回復ポーションを目の前にぶらつかせると、苦笑いを浮かべた。
MP回復ポーションは、三角フラスコみたいな形状をした容器に、赤い液体が入ったビジュアルをしているアイテムだ。
ゲームの時は味覚が設定されていなかったが、このゲームがリアルになってからというもの、味覚まで再現されるようになった。
「さて、このポーションはどんな味がするのやら」
見た目だけなら、いちごジュースと言われんでもない。
軽く目の前で振ってみれば、サラサラした液体なのはわかるし、トマトジュースとは違うだろうな。
「HP回復ポーションは、たしか甘酸っぱいって設定をよく見るけど……。
MP回復ポーションはどうなんだろ?
色が赤いし、やっぱり辛いのかな?」
俺、辛いの苦手なんだけどな……。
俺はステータス画面を開くと、魔力の残量を確認した。
「約15万か……。
今までの魔法の行使で5万も使ってたのか、俺?」
そんなに使ったつもりは無いんだけどな……。
もしMPが三桁だったら、早速俺気絶なりなんなりしてるところだったぞ……。
「この異常な減り具合の理由も、いつか確かめないとな……」
俺は心の中に書き込むと、MP回復ポーションの栓を抜いて、一気に中身を呷った。
「んく……っ!?」
が、しかし、次の瞬間。
俺はそれをすべて吹き出した。
「けほっ、けほっ……っ!?
何これ不味!?」
口の中に入った瞬間、感じたのは咽るような苦味。
同時に舌を覆う、激しい甘味。
口の中でそれが瞬時に混ざり合って、変な渋みが渦を巻いて、喉を通る頃には強烈な酸味に変わる。
一気に呷ったせいか、それらが一瞬にして同時に起こったのだ……。
「うへぇ……気持ち悪い……」
とても飲めるものじゃなかった。
いや、そもそもこれは飲んでも大丈夫なものなのか!?
俺は口から滴り落ちた液体をメイジローブ(改)の袖で拭うと、まだ少しだけ残っている瓶を床に置いた。
「うぅ……。
まだ喉の方に酸っぱいの残ってるし……」
最悪だ。
作らなきゃ良かった……。
「どうして俺は、味も確認せずにこんなの大量に作ってしまったんだろう……」
ストレージを開けば、そこには『MP回復ポーション ×98』の文字が、欄の最上部について君臨している。
「俺、これもう二度と作らないようにしよ……」
そう決めた俺は、その文字列をドラッグして、ストレージの最下層へとドロップさせるのだった。