8.せっかく持ってきてくれたのに実は赤飯が苦手だなんて絶対言えない
<前回のあらすじを30文字以内で説明せよ>
綺都「今日雄市が赤飯持ってうちに来ます。」
美織「信じるのも友。裏切るのもまた友。」
__________________________
「…じゃあホントに違うのか……。」
「だからずっとそう言ってたじゃん。」
「そうか……なんか、わりぃな。」
皆さんこんにちは上杉綺都です。
今やっと、雄市の誤解を解くことに成功しました。
あのあと部活動をいつもよりも早めに終わらせた雄市は自宅で大急ぎで赤飯を作ってうちに持ってきました。
今それを自分の部屋で二人で食べています。
「それにしてもびっくりしたわホントに。」
雄市は赤飯を大きな口にかきこみながらそう言った。
彼とは対称的に赤飯をチマチマと小さく食べる綺都は顔をしかめながら雄市を箸で指差した。
「というかまず、俺には好きな人がいない。」
「なんで?お前と一緒にいる神崎とか可愛いじゃん。」
「黙っとけばね。」
「まあ、黙っとけばだよな。」
「あんなゴリラ女を恋愛対象に見る奴なんていないよ。」
そう言って綺都と雄市は大きな声で笑い合う。
流石幼なじみ。思ってることは紙一重のようだ。
箸を止めることなく赤飯を食べ続ける雄市はよほどお腹が空いているのだろう。
元から少食気味の綺都は気をつかって残りの赤飯も食べていいように雄市に言い聞かせる。
嬉しそうに赤飯を受けとる彼の姿を見て、綺都はふと思い付いた。
「もしかして雄市は神崎のことが好きなの?」
その発言に対して雄市はぽかんと口を開けた。
「俺が神崎のこと好きって言ったら、お前どうすんの?」
「どうって……そんなの、どうすべきなのかな。」
「そこは応援するだろ。お前。」
雄市はふふっ、と薄ら笑いをする。
その笑いの意味がわからなくて綺都は首を傾げる。
「まあ、これからだよアヤトは。」
「何がこれからなのさ。」
「恋愛。」
綺都は自分に無縁のその言葉を聞いて飲んでいた緑茶を勢いよく吹き出した。
「うわっ、きったねお前。」
しかめ面をしながらも雄市は布巾で綺都のテーブルの所を拭いてあげた。
一方綺都は器官に入った為まだむせている。
「ごほっ……れ、恋愛とかしたこと、ないし……げほっ」
「へっ、ガキだなお前は。」
と雄市は勝ち誇ったかのように鼻で笑う。
そんな彼の態度に対して綺都はムッとして席から立ち上がって雄市を指差した。
「ガキ!? なら雄市は好きな人いるのかよ!?」
「女子はめんどくさいからやだ。」
「雄市もガキじゃん!!」
「ばっか俺は彼女いたときあったからいいんだよ!!」
「意味わからん!!」
これ以上は何を言っても効果がないと感じた綺都はうんざりして諦めてその場に座る。
しばらくして雄市が口を開いた。
「でもさーここのところ本当にお前と神崎付き合ってるのかと思ってたよ。ほら、お前ら最近よく一緒にいるじゃん?」
「はっ??」
「クラスの皆もそう言ってたぜ。一緒に昼御飯食べてるし、放課後も待ち合わせして帰ってるし。今まで接点なかったくせに先週くらいから毎日一緒にいるじゃん。それに恋人同士がする事ばっかりしてるし。完全に噂になってるぞお前ら。」
「嘘でしょ……。」
「俺が嘘をつくと思うか?」
雄市の発言に綺都は目を白黒させる。
まさかこの一週間ちょっとで周りからそんな誤解を生んでいるとは思いもよらなかった。
あまりの事実に呆けたようにきょとんとして口を半開きにした綺都の表情を見た雄市は苦笑いをしてなだめた。
「まあ噂だしな。すぐにおさまるから大丈夫だって。」
「……うん。」
「お前そんなに神崎とが嫌だったのかよ。」
違う。神崎が嫌なわけではない。
勝手に自分とそんな関係にさせられている彼女に申し訳ないのだ。
こんな何も出来ない木偶人形のような自分と彼女が周囲からそんな風に認識されている。それだけで罪悪感しか出てこない。
しかもつい自分はこの間までーー。
「どうした?アヤト?」
心配そうに伺う雄市の声で綺都は水をかけられたかのようにはっと意識を取り戻した。
「赤飯、食い過ぎたか?」
「いや違うよ大丈夫。」
そう言って誤魔化すかのように綺都は口元にかかる横髪を耳にかけた。
雄市はそんな朧気な綺都の様子を見て一度察したのだろう、けどあえて何も気づかないふりをして「そっか」と呟いた。
「でもお前、最近ちょっと変わったよな。」
「へ?」
意外な雄市の発言に綺都は思わず彼を二度見した。
「なんかこう、変な言い方だけど『人間らしくなった』みたいな? 前のアヤトは精密機械みたいで作り笑いみたいなのが多かった気がするんだよな。でも今はかなり表情豊かな感じがするよ。もしかして神崎のおかげなのかもな。」
「精密機械て…そんな風に見えてた?俺。」
「うん。なんでも出来すぎてつまんないって顔してた。」
「すごい嫌な奴じゃん俺。」
「ははは!ホントそれな!」
雄市は太腿も叩きながら近所迷惑になりそうなほどの声量で豪快に笑う。
綺都もつられて微笑した。
もしも雄市の言った通り本当に自分が変わったのなら
もしもそれがアイツのおかげだとしたら
大切にしていいだろうか
友達になってもいいだろうか
こんな自分を、アイツは友達にしてくれるのだろうか
そんなことを思いながら綺都は窓の外の向こうを見つめた。
早く明日になってほしいと思った。