35.「怪我している子供を無視するほど俺は外道ではないぞ。」
<前回のあらすじを30文字以内で説明せよ。>
翼 「やあ君たち!今日も良い天気だねっ!」
綺都「うわああああああああ!!!」
命子「ぎゃああああああああ!!!」
翼 「冗談ぞ。(´・ω・`)」
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「ごめん綺都くん、待った?」
「ううん全然。俺も今来たばっかりだから。」
そう笑いながら綺都は読んでいた文庫本にしおりを挟んだ。
終礼が終わったあと、校門で待ち合わせしていた二人はそのまま校舎の方に目を向けた。
「…広瀬はまだ校舎にいるんだよね?」
「うん。…一人で帰るって言ったら舌打ちされたよ。」
「そこら辺はちゃんといつもの広瀬なんだ。」
「どーする? とりあえず待ち伏せしとく?」
「そうだね。記念碑辺りで広瀬が来るまで観察しておこう。」
二人は鞄を手にして大きな記念碑の裏側の岩に腰かけて翼が校舎から出てくるのを待った。
5分程たった頃、校舎から翼らしき人間が出てくるのが見えたので綺都と命子は顔を見合わせた。
「あの薄緑のパーカーは、間違いなく広瀬だよね?」
「うん。校門を出たらあとをつけていこうか。」
校門を出て独り我が家へと向かって歩いていく翼を二人は目で追いかける。
その後ろ姿はどことなく哀愁を漂わせていた。
本人に気づかれないように20m程離れて見失わないように後をつけていく。
「…というか科学部は今日部活ないの?」
「うん、科学部は週に2回しか活動しないから。…あっ!でも翼は個人で色々な薬を作ってるから放課後はほとんど科学室に入り浸ってるね。私も月曜日以外は翼の付き添いしてるよ。」
「なんの薬を作ってるの……。」
「親指の第一関節が外側に90°曲がるようになる薬。」
「それ誰が得するの……、あっ」
命子は驚いたように声を上げた綺都の視線の先を追いかけた。
彼女の視界に入ったのは転倒したのだろう、膝を怪我した小学生くらいの少年が独りで泣きながらしゃがみこんでいた。
「ありゃー…転んじゃったのか。」
「どうする? 助ける?」
「いつもなら助けてたけど…翼にバレちゃうかr……」
「っっ!?」
二人は驚愕した。
あの翼が、すぐさま少年に駆け寄っていたからだ。
綺都は己の目を疑った。
あの湯葉のように人徳の薄い彼が、泣いていた少年を見つけてすぐさま駆けつけていくだなんて誰が予想したのだろう。
綺都と命子は口を開けて彼らの様子を見ていた。
微かにだが翼の話し声が聞こえてきた。
「おい大丈夫か。少しばかり痛むが我慢しててくれよ。」
そう言って翼は鞄の中から瑠璃紺色のポーチを取り出して消毒液と霧吹きとガーゼを取り出した。
少年の膝に水を吹き掛けて消毒液を垂らす。
30秒も経たない内に翼は手当てを終わらせてしまった。
「他に怪我をしたところはないか。」
「うん……大丈夫。」
「そうか。気をつけて帰るんだぞ。」
「うん。ありがとうお兄ちゃん。」
照れくさそうにお礼を述べた少年は翼に手を振りながら歩いて行ってしまった。
少年が見えなくなると翼は再び歩き始めた。
草影に隠れていた二人は互いに驚いた顔を見合わせた。
「尾行する人を間違えたかな…? 」
「いや、広瀬本人で間違えないと思うけど……」
「でもあの翼が人助けしたんだよ!!? やっぱり私のせいなのかなぁどうしよう……!!」
「い、いやでもある意味結果オーライなのかもしれない!だってほらっ!ちゃんと思いやりの心持てるようになったし?」
「しかも手作りの変な薬じゃなくてちゃんとした市販の医療薬を使ったあたりとかすごく人間だよ……!」
「何をそこまで広瀬を変えさせたのか…あの非人道の塊から一気に善人になってしまうだなんて。」
「……貴様らさっきからどーいうつもりだ。」
「「うわぁああああああああああ!!!?」」
突如響き渡った第三者の声。
その声の主…尾行対象にしていた広瀬翼が眉間にシワを寄せながら二人の目の前で仁王立ちをしていた。
「何コソコソしているかと思えば…命子、用事とはこの事だったのか? おお?」
「いやその……!……ハイ、ゴメンナサイコノタメデシタ」
咄嗟に言い訳をしようとした命子だったが翼の凍える視線に負けて彼女はショボンと項垂れた。
その凍える視線は隣にいた綺都にも向けられた。
可憐な容姿にはとても似つかないドスの効いた声音で翼は綺都に質問した。
「貴様は何故命子に同行してきた…?帰り道真逆だろう。」
「聞きたくないだろうが訳を言わせてくれ。広瀬を尾行してたのは最近お前の様子がおかしかったからなんだ。」
「…おかしかっただと?」
翼のシャープな眉がピクリと動く。
「今日みっちゃんが相談してきたんだ…お前が最近優しくて怖いって。いつもの外道の塊がどこにも見当たらないって。」
「酷い言われようだな。」
「だから、心配だったから今日独りで帰らせて様子を見てみようと思ったんだ。…不快な気分にさせたのは謝るよ。ごめん。」
「ちょっ、綺都くんは悪くないって! 大体言い出したのは私であって綺都くんは付き添ってくれたというか……だから翼、怒るなら私だけ怒って! いや、私だけじゃないと駄目!」
そう言って命子は守るようにして綺都の前に立つ。
その様子をみた翼は一瞬動きが止まったあと、呆れたかのように大きく息を吐いた。
「俺が悪者みたいになっているではないか…別に怒るつもりは毛頭ない。お前達の言うとおり、俺も最近自分で様子がおかしいと思っていたからな。」
「やっぱりそうだったんだ。…私が怒ったから?」
「それも一理ある……が。」
翼は頭を掻きながら命子の隣にいた、綺都の方に視線を向けた。
そして突如彼は綺都の手首をガシリと掴んで自分の方へと乱暴に引き寄せた。
「命子、少し上杉を借りるぞ。10分くらいで終わる。」
「え? ちょっ、何広瀬……」
「いいから。」
そう言って翼は綺都を引きずりながら川の流れている川原へと下りていく。
掴んでいたその手は、心なしか震えているように感じた。




