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Another-6

 

「美織!」


 外に出るとかなり風が冷たかったがそんなこと気にしなかった。

 名前を呼ばれた美織はその場から顔をあげてすぐさま俺のところまで駆け寄ってきた。

 



「お前体育は。まさかすっぽかしてきたのか?」



「いや、もうゴールしたよ。8分51秒。」



「バケモンかよ。」




 当時の俺より速いじゃねぇかよ。

 美織は照れたように笑いながら頭を掻いている。




「で、どうしたんだ? 話くらいは聞いてやれる。」





 そう言うと彼女の顔が一気に曇ってしまった。

 後頭部を掻いていた腕を下ろすと俺の学ランの裾を握ってきて、ぽつりと独り言のように呟き始めた。




「みっちゃん…命子ちゃんが、ウチの学校に転入して、この間私に話しかけてきた。もしかすると、()()()()で来たのかもしれない。」



「みっちゃんって、……ああ、転校してきたのか。」



「うん。」



「それは少し気まずいな…だけど命子は家は引っ越さずに学校だけ転校したんだろ? 何がしたいんだ?」



「…それがわからないんだよ。だから、礼兄ちゃんに会いにきた。」




 そう言うと美織の学ランを握る手が強くなったのがわかった。

 歯を食い縛っている。

 どうやら悩みに悩んだ末に結果俺のところにすがりついてきたようだ。




「もしも復讐の為だったらどうしようって不安になって、みっちゃんはそんな下らない人間じゃないって分かってるけど…でも私はあの子に消えない傷を作っちゃったんだ。ありえるかもしれない。……もう頭の中がぐしゃぐしゃになってわからないんだ。」



「……美織、よく聞け。」



 美織はまだあどけなさが残る顔を上げて俺の言葉を待った。



()()はお前の所為なんかじゃない、だから悩む必要もない。命子だって、お前のこと大好きだったじゃねえか。お前に話かけて来たのも単に心配したからじゃないのか?」



「…それもあると思う。……でも、みっちゃん別人みたいになってた。別れて一年経ってないのに、それも私の所為なんだよ。あのみっちゃんを見ると、私のした過ちを思い出すから、怖くなる。」



「美織……」



 どうやら馬の耳に念仏のようだ。

 完全に()()()のことがトラウマ化してしまっている。

 どうやら命子自体ではなく、命子の姿が元凶のようだ。

 美織が俺の胸に頭を突きつけた。



 

「礼兄ちゃん…どうしたら良い? 」



「……それは紗織にも相談したのか?」



「してない、出来ない。…姉さんには滅茶苦茶迷惑かけたから。これ以上心配させたくない。苦しませたくない。」



「そっか……。」




 ため息をついた俺は美織の小さな頭に手を置いた。

 凍える冬の空間のなかなので彼女の頭が温かく感じる。




「翼には、言えないか?」



「翼にあれの詳細は言ってない。」



「美織、俺はお前の力になりたい。でも俺はそーいうのに関しては不器用だからあんまり頼りになれない…ごめんな。」



「なに今更そんなこと言ってんだよ! 礼兄ちゃんは話聞いてくれるだけで良いんだよ。」




 俺の胸から頭を離した美織はいつものように微笑んだ。




「身近な友達とかに言えないのか? 親友とか。」



「……いる。親友。」



「お」



「でも、駄目だ。アイツは駄目なんだ。」



「駄目って……なんで駄目なんだよ。性格悪いのか?」



「いや、性格は馬鹿みたいに不器用でお人好し。」



「ならなんで……」



「それは言えないんだ。礼兄ちゃんでも教えられない。」




 美織の俺を見る眼差しは察してくれと何かを強く訴えてるように直感した。

 俺が顔をうつむかせたと同時に休み時間終了のチャイムが鳴り響いた。




「っと…授業遅れるな。わりぃ美織。放課後そっちいくから、後でまた話してもいいか?」



「うん。ありがと礼兄ちゃん。」



「美織。」

 



 そう名前を呼んで俺は彼女の白い腕を自分側に引っ張って包むように抱き締めた。

 コイツを抱き締めるのは何年振りだろうか。

 自分が単に大きくなったのか、美織が縮んでしまったのかはわからない。

 ただあの時の感覚とは随分と違う。

 自分達が大人になっていっているというのを実感した。




「無理すんなよ。」



「……うん。わかってるよ。」




 そう言って美織は腕を俺の背中に回した。

 昔に戻ったかのような感覚で少しだけ懐かしい。



「ん、」



 校門から足音が聞こえた。

 美織と俺は顔をあげて足音のした校門らへんに視線を移した。




「……上杉。」



「お、綺都。」




 そこには綺都が立っていた。

 長袖ジャージを片手にしているのでおそらく美織を迎えに来たのだろう。

 綺都は俺と美織を何回も交互に見たあとに大きな瞳を俺に向けて震えた声で俺の名を発した。




「広瀬さん……?」





 彼は酷く傷ついたかのような顔をして持っていた美織のジャージを力強く握りしめていた。

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