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25.修羅場の気配を察知……!

<前回のあらすじを30文字以内で説明せよ。>


 翼 「持久走シネ。」


 綺都 (あ、苦手なんだ……。)

 ________________________


「上杉、12分06秒!」



 ゴールラインを踏み越えた綺都はそのままフゥ、と一息した。

 とりあえず水を飲もうと水道まで行くと、そこには綺都よりも先にゴールしていた雄市が真冬にも関わらず勢い良く蛇口から水を出して頭から被っていた。




「お疲れ雄市。」


「おうアヤト、お疲れな!」


「こんな真冬に水なんかかぶると風邪ひくよ。」


「ちょっと本気で走りすぎてすげー汗だくになったからさ、水で誤魔化そうと思ったんだよ。」




 そう言って蛇口を閉めた雄市はその場で中型犬のようにブルブルと頭を振った。




「どう? 神崎に勝った?」



「おう!最初は一緒くらいだったんだけどな。やっぱ男女じゃ体力違うし、だんだん離れていったよ。それでも2位だったぜアイツ。陸上部より速いとかバケモンかよww」



「野球部のお前が言うか。」



「それもそうだな。ははっ!」




 そう雄市は豪快に人当たりのよさそうに笑った。

 そういえば、と綺都はグラウンドの辺りを見渡した。

 美織の姿がさっきから見えないような気がする、自分よりも早くゴールしたのならそこら辺にいるはずなのだが……。




「神崎なら(やなぎ)に用事があるとか言ってたぜ。」



 綺都の様子に気がついた雄市はそう言ってここから見える大きな白い校舎の柳高校を指差した。

 自分達の通っている浅流(せんりゅう)中学校と柳高校は隣同士で距離は100メートルもない。




「…別に神崎探してるとか言ってないんだけども。」



「顔に書いてあったよ。」



「……そんなに俺ってわかりやすい?」


 

「うん、すごくすごくわかりやすい。」




 羞恥心に包まれた綺都は己の顔が熱くなるのを感じて雄市の方から東棟の校舎のほうへと顔をそらした。

 校舎の窓に目をやると数学科教室から偶然にも命子が見えた。

 集中して黒板を見つめながらノートを写している彼女の姿に何故だか綺都は惹き付けられてしまった。

 黒い艶の入った横髪を耳にかけた時に見える彼女の横顔が少しばかり寂しそうに見えた。

 ふと命子と視線が合わさった。

 綺都は咄嗟に控えめに彼女に小さく手を振って見せると、彼女も柔和な笑みを溢しながら嬉しそうに手を振った。




「誰に手ぇふったんだよ?」




 綺都の動作を見た雄市は目を凝らしながら校舎の窓をじっと見つめて綺都が手を振った人物を探した。




「あの人、あの眼帯の女の子。」



「あーあの子か。……なんで眼帯してんのあの子?」



「それはわかんないけど…」



「結構可愛いなあの人。名前なんて言うんだろ。」



「天津さん。つい最近6組に転校してきたんだって。」



「天津さんねぇ…何アヤト? 天津さんと仲良しなの?」



「仲良しというか、今日知り合ったばっかりで…」



「やるじゃんアヤト。両手に華だな。」




 ワハハと雄市は笑いながら綺都の背中をバンバンと叩く。




「痛い痛い…両手に華? あと一人誰かいた?」



「神崎がいるだろ。親友わすれてんじゃねーよww」



「あれは華じゃない。鼻クソだ。」



「ちょ、お前wwwwwwwwww」




 すると授業終わりの鐘が響いた。

 校舎の中から椅子が一斉に動く音が聞こえてくる。

 こちらのグラウンドにも体育教師の松沢の自慢の大きな怒号のような声が響き渡った。




「っと、行こーぜアヤト。」



「うん。……あっ、神崎呼んでこなきゃ。」



「おお、忘れてたな。」



「先生に先に終わらせとくように言っておいてほしい。」



「おう、わかった。」




 そう言って綺都は美織の置きっぱなしにされていた長袖ジャージを手にして駆け足で校門を出て隣の柳高校まで走っていった。

 冷たい風が綺都の顔を叩き付け鼻が冷たくなるのを感じた。




 柳高校の校門までたどり着いた綺都は校門の外から中を覗き込んで美織を探した。

 すると少しばかり遠くの松の木の下に美織と背の高い男子生徒の二人の姿が見えた。

 なにか話しているのだろうか。

 



「かんざ……」




 綺都は校門を入って美織の方へ駆けていき、声をかけようとしたその時―――。



 男子生徒が美織を抱き締めた。

 対する美織も抱き締められた男子生徒の背中に手を回した。

 一瞬何が起きたかわからなかった。

 向こうからきた綺都の存在に気がついた二人は同時に綺都の方へと視線を向けた。




「上杉…。」




 男子生徒の背中に回した腕を離さずに美織は驚いたかのように目を見開いて綺都を見た。




「お、綺都。」



「…広瀬さん?」




 美織を抱き締めていたのは不良に絡まれて怪我をしたときに自分を助けてくれた、翼の実兄の広瀬礼だった。

 綺都は持っていた美織のジャージをぎゅっと掴んだ。




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