Another-4
『ピンポーン』
私が丁度家を出ようとローファーを履いたと同時に我が家のインターホンが鳴り響いた。
はーい、と外用の愛想のいい声音で玄関のドアを開けるとそこには先程学校へと家を出ていった筈の弟の綺都が罰の悪そうな顔でたっていた。
「綺都?どうしたの?」
「いやまぁ、ちょっと……ね。後頭部怪我しちゃって。」
「後頭部怪我したの!? 目眩とかしないの大丈夫!?」
「少しする…、だから助けてもらったんだ。」
そう言って綺都は後ろの表札を指差した。
男の人の人影が見える。
彼が綺都を助けてくれたと直感した私はすぐさまお礼を言おうと彼の元へ駆けた。
「あの、弟を助けてくださりありがとうございました。」
「……その子上杉の弟だったのか。」
聞き覚えのある低い声だった。
驚いた私は深々と下げていた頭を勢いよくあげるとそこにいたのは広瀬くんだった。
彼は寒そうに肩を縮ませて鼻を赤くさせていた。
「ひ、ひひひ広瀬どん!?」
「おうおはよう。広瀬どんだぞ。」
「なんでこんなところに!!」
「この辺、通学路だから…驚いた。案外家近かったんだな。」
俺の家はあれ、と広瀬くんは我が家の4軒先くらいのモダンな今時の家を指差した。
ホントに近いじゃないですか。
「とりあえず傷口見なきゃ。ほら綺都早く上がって。広瀬くんも、お礼というほどはないけどお茶飲んでいって。」
「おう、わりぃな。」
「でも姉さん、遅刻……」
「ちゃんと中学校に電話しとくから大丈夫だよ。」
「……ん。」
首を小さく縦に動かして綺都は一足早く、そそくさと家の中へ入っていった。
そんな弟の小動物の様な行動を微笑ましく眺めていた私の隣で広瀬くんが「可愛いな。」と呟いた。
「うちにもあれくらいの弟がいるけどとジャンルが違う。」
「弟いるんだね。」
「ああ、かなり変人。」
「そ、そーなんだ……。」
苦笑いをしながらリビングに入ると綺都はすでに救急箱を片手に持ってカーペットの上に座っていた。
広瀬くんをソファーに座るようにうながして私は綺都の後ろに座って傷口を確認した。
それほど大きな怪我ではないが結構出血している。
まずこれはお風呂は大変そうだな、と思った。
「大丈夫?やっぱ痛む?」
「怪我した直後は痛かったけど…今はそんなに。」
「血は止まってるけどガーゼ当てといた方がいいね。」
「うん。お願い。」
救急箱からガーゼと包帯を取り出した所で再びインターホンが鳴り響いた。
今日はお客が多いな、とおもいながら立ち上がろうとすると広瀬くんが「俺が出るからいいよ」と言ってソファーから立ち上がって玄関へと足を運んで行った。
頼りになるなぁ、と思いながら綺都の頭にガーゼをはる。
すると綺都が口を開いた。
「この怪我、事故じゃないんだ。」
「え?」
「登校してたとき高校生の食べようとしてたおでんをぶつかって零しちゃったら路地裏まで連れていかれて絡まれた。」
え?おでんだけで?
今時の高校生って心狭すぎない??
綺都は淡々と機械のように語り続ける。
「謝り続けたけど拉致があかなかったから頭下げて謝って戻ろうとしたら、コンクリートブロックで殴られた。」
「コッ……なぐっ……!!!?」
「で苛ついたからやり返そうとしたら広瀬さんが内申書に響くからやめとけ、って言って高校生を代わりに殴ってくれた。」
駄目だ、私の日常と生きる世界が違いすぎる。
「それ、警察にちゃんと連絡した?」
「……あっ。」
綺都がやべっ、と言うような顔で私を見てくる。
まさか高校生の残骸をそのままにしてきたというのだろうか、それはそれで騒ぎになってしまう。
「……あーやーと?」
「ま、まあ路地裏だし。通るのは猫くらいだし。」
「そうだけど……こんな真冬の中気絶してたら万が一のことはあるでしょう? まあ、飢え死にさせていいんじゃないの。綺都に怪我させた人達だから。」
そう言うと綺都は静かに私を見てごくりと息を呑んだ。
こんな可愛い弟を殴るなど、しかもゴツゴツのコンクリートブロックで殴るなんて許せない。
私が綺都の頭を優しく撫でると彼は照れ臭そうに「もう子供じゃないからやめてよ」と言った。
その割には手をどかさない辺りがまだ子供だ。
「そういえば、広瀬さん。あの人……――。」
綺都が言おうとしたのと同時だった。
いきなりリビングの扉が勢いよくバン!と開いた。
何事かと私と綺都はリビングの入り口に視線を向けるとそこにはダッフルコートに身を包んだ細身の中性的な少年が仁王立ちして不適な笑みを浮かべながら立っていた。
彼の姿を見た瞬間綺都は隣で「げっ!」といかにも嫌そうな表情を浮かべた。
「えっ、知り合いなの綺都?」
「知り合いというか、同級生……。」
「そーなの?なんでうちに……。」
「いや、実はあいつ広瀬さんの弟なんだよ。」
「えっ!」
驚いた私は再び少年の方に目を向けた。
中学生の割には高めの背丈に大人びた雰囲気。
長めの前髪から覗く切れ長の瞳と白磁のような肌と真っ直ぐ筋の通った鼻、筆で書いたような眉毛に小さく結ばれた唇。
女をやめたくなるほどの美少年だ。
そんな儚気な雰囲気を台無しにしている仁王立ちをする彼は片方の横髪をうざったそうに耳にかけながら口を開いた。
「この俺が援助しに参ったぞ上杉ぃぃいいいい!!!」
『ああ、かなり変人。』
私は先程の広瀬くんの会話を思い出していた。
この世に完璧な人なんて本当にいないんだね。




