第四百三十三話:使者からの手紙
船の中にポータルを作り、城へと帰還する。
ナボリスさんには真っ先に報告を上げた。しばらく留守にしちゃったからね。
また怒られてしまったけど、フェラトゥスやフェニックスのことを紹介したら、苦笑いを浮かべていた。
何気に人外多くなって来たよね。
リヴァイアサンのシュエに、フェニックスのノクトさん、それにリッチのフェラトゥス。
本来、魔物と人族は相いれないもののはずなのだ。一応、その中でも幻獣であるリヴァイアサンやフェニックスはまだ扱いはいい方だけど、リッチは完全に敵側である。
それが、こんな風に仲間になっていくのは、普通は受け入れられない光景なのだろう。
他の二人はともかく、フェラトゥスに関しては少し注意した方がいいかもしれない。
見た目は人と変わらない魔女ですら、迫害の対象になっているのだから、見た目骸骨のフェラトゥスなら、いったいどんな邪法を使ったのかと教会から問い詰められることになるだろう。
この国では、教会はいないようなもんだけど、もし目をつけられるようなことがあったら厄介だし、気を付けておいた方がいいかも。
うん、フェラトゥスには悪いけど、常にローブを着ていてもらうとしよう。
「それで、また行くおつもりですか?」
「うん。まだ調べなきゃいけないことが残っているの」
「無事に戻ってきてくださるなら無理に止めはしませんが、王としての責務もお忘れなきよう」
「それはわかってるの。そう言えば、あの後誰か来客はあったの?」
「ええ、まさにそれですね」
どうやら、俺が霊峰に挑んでいる間に、来客があったようである。それも、いつもの商人とかではなく、国の使者だったようだ。
「どこからなの?」
「アフラーク王国ですね。なんでも、剣聖の件でお話があるとか」
「ああ、そういう……」
アフラーク王国とは、以前シュライグ君の件で揉めた国である。
揉めたと言っても、殺されそうになっていたシュライグ君を救出し、剣聖に仕立て上げた上で、すべてを丸投げして連れて帰ってきただけなんだけど。
いや、剣聖は国にとって重要な意味を持つ役職だし、それを引き抜かれたとあってはバッシングは免れないから結構やばいことではあるけどね。
でも、そうされても文句言えないくらいのことしたのはあちらだし、選んだのはシュライグ君自身だから、俺がとやかく言う必要はない。
あれから一年ちょっと経っているけど、距離的にかなり離れているし、今使者が来たってことは、それなりに前に送り出したってことなのかな?
聞かなくても内容がわかるし、会わなくていいんじゃないだろうか。
「その使者は今もいるの?」
「陛下は不在だと言ったら、手紙を置いていきました。シュライグ様に会わせろとも言っていましたが、そのあたりは断っておきました」
「それは助かるの。手紙、今見るの」
「こちらです」
そう言って、懐から手紙を取り出す。
さて、内容は……うん、まあ、予想通りだ。
アフラーク王国は、元々剣聖をでっちあげようとして失敗した国だ。
事の発端は、グレイスさんが特異な力を発揮したという話で、例の【レベルドレイン】によって強くなったグレイスさんを見た雇い主が、彼は剣聖の座に相応しいと国に報告したのが始まりだった。
確かに、グレイスさんの能力は強力だし、その気になれば剣聖にもなれたかもしれない。けれど、グレイスさん自身と、雇い主の娘であるアーミラさんはそれに納得せず、国を逃げ出した。
普通なら、剣聖候補とはなったが、逃げだしたことによってそれも取り消され、ただグレイスさんが悪く言われるだけで済んだだろうが、国はグレイスさんの意思とは関係なく、グレイスさんを剣聖として各国に発表してしまった。
その結果どうなったかというと、剣聖に逃げられた国として、各国からバッシングを浴びることになったわけだ。
俺はそれを何とかしてあげようと、シュライグ君を剣聖と呼べるにふさわしいくらいに鍛え上げ、本人の希望もあって、この子どうですかと国に紹介した。だが、国王はシュライグ君ではなく、もう一人の王子であるアレクトール君を可愛がるあまり、シュライグ君を突き放した。
それによって、シュライグ君は父である国王を見限り、国を捨ててこちらに来てくれたわけである。
その時、シュライグ君の活躍は周辺諸国の外交官に目撃させ、きちんと剣聖がいると印象付けていた。だから、各国にとっては、いざとなったら剣聖が助けてくれると思っているわけである。
しかし、実際にはシュライグ君はこちらに来てしまっているわけで、他国はおろか、自国ですら剣聖の力を借りられない状況だ。
しばらくの間は、後始末もあるからと何もしなくても何も言われないだろうが、一年も経てばそろそろ手を貸してくれないかと要請が来る頃である。いや、もしかしたらもっと早く来ていてもおかしくはないかもしれない。
実際、手紙には、シュライグ君を返すように何度も何度も書かれていた。
ただ、まだ立場というものをわかっていないのか、かなり高圧的な文章である。
なぜ、シュライグ君が国を見限ったのかを理解していない。自国の、ひいては自分の利益しか目に入らず、大事な息子の感情をないがしろにしたことに気づいていない。
もちろん、シュライグ君とて、国が滅ぶことは望んでいないだろう。危険な魔物が出れば討伐に行くし、国民が助けを求めればそれに応えるはずだ。
だけど、父親である国王だけにはそれは適用されない。
各国へのアピールのために城にいてほしい、各国の信頼のために遠征してほしい、そんな願いしか言えない人にシュライグ君は靡かない。
まあ、危険な魔物が現れたと嘘を使って呼び出すことはできるかもしれないけど、果たしてどこまで通用するかね?
「これ、返事書かなきゃダメなの?」
「陛下の返事だという証拠が必要ですから、できることなら正式な手紙として書く必要があるでしょうね」
「面倒くさいの。ま、でも、しばらくさぼったんだから、それくらいはやらなきゃなの」
と言っても、返す言葉なんて決まっているけどね。
いや、一応シュライグ君にも意見は聞くけど、多分頷かないだろうし、お断りしますの一言で十分だと思う。
まあ、仮にも正式な書類になるから、一応定型文は書くけど、インクの無駄にしかならないだろうね。
「書き終わったら私に渡してくだされば、後は使者に渡しておきます。できることなら、お会いしてほしいとは思いますが、それは望まないのでしょう?」
「誠意をもって会いに来てくれた人ならまだしも、こちらを舐めてかかってくるような奴に会う気はないの。まあ、気が向いたら会ってもいいけど、今は忙しいの。そっちが手紙で済ますなら、こっちも手紙で済ますの」
恐らく、今頃アフラーク王国は剣聖の要請が大量に届いていることだろう。
この手紙を持った使者を送り出した時点でどうだったかはわからないが、この調子だとしばらくしたらまた来そうな予感がする。
まあ、せいぜいシュライグ君のご機嫌を取ることだ。あの国の存続はもう、シュライグ君の采配次第で決まるのだから。
俺は手紙をナボリスさんに返し、部屋に戻る。
さっさと返事を書いて、霊峰の捜索に戻らないとね。
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