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雷と狼娘  作者: 花千歳
8/12

闇夜の救出劇

 薄暗い部屋。灯りは蝋燭が一本。

 宗司とウルの前には背の曲がった老人。この村の村長だ。

 二人はクールから言い渡された依頼の村へとやって来ていた。現在は村長からの情報収集をしている…はずだ。

 最初は巨腕熊取について聞いていたはずが、村長が自分が若ければという話から更に飛んで、昔の今は亡き奥さんとの出合いの話になっていた。

 ウルは既に舟を漕いでいる。

 宗司も明日に備えて早く休みたいのだが、あまりにも熱を込めて話すので切り上げられずにいた。

 

「それでその時にわしは言ってやったんじゃ。そんな悪い男はわしがやっつけてやるから心配するなとな。男であればそういうべきじゃろ?」

「は、はぁ」

「だから、わしは鍬一本担いで…何事じゃ?」

 

 村長の話は熱を増し、さながら劇になってきたところで若い男が家に飛び込んできた。

 

「じ、じいさん。ナガトが、ナガトが森に入っていっちまった」

「なんじゃと!?あの聞かん坊が。あれほど森に近づいてはならんというたのに。村の若い衆を集めよ。あんな生意気坊主でも村の一員。死なせるわけにはいかん」

「でも、夜の森に入るなんて…最近はあの熊がよく出るし…」

 

 村長と若い男はやんややんやと言い合っている。

 助けに行けという村長。夜の森では無理だという男。話は平行線で終わる気配はない。

 

「ええーい、腰抜けが!ならば、わしが」

「あの、僕達が行きましょうか」

「いやしかし、お主らの依頼はハイハル草の採取じゃろう?それにわしらには依頼を出せるような金は…」

「いえ、僕たちは実は元々巨腕熊を狩りに来たんですよ。ですので、お金は必要ありません」

「いや、じゃが、言うては悪いがお主らでは頼りないのぉ」

「大丈夫だと思いますよ。えーと、どういえばいいかな。あっ、これでいいや」

 

 宗司は胸元の袋からカードを取り出すと村長に手渡した。

 

「普通の鉄のカードじゃろ。さすがにFランクでは無理じゃろ」

「い、いや、じいさん、見てみろよ。裏、裏。この人、B認定貰ってるぜ。もしかしてそっちの嬢ちゃんも…」

「同じです。分かっていただけましたか?」

 

 宗司はカードをしまうとウルの肩を強めに揺する。無理に起こすと機嫌が悪くなるので出来ればやりたくないが、今はそんなことを言っている状況ではない。

 

「にーた…何…ウル…眠い」

「ウル、ちゃんと起きてくれ。仕事だ。久々に夜の森で狩りだぞ」

 

 

 

「ったく、なんだよ、あいつら揃って。冒険者なんていなくたって、俺が熊くらい片付けてやる」

 

 森の中を青年が歩く。青年の名前はナガト。

 ドレーズの北東に位置する名もなき村で育った青年だ。

 彼は村でも1番の力の持ち主で。なにより、彼の体は頑丈だった。太い木の棒で殴れば木の方が折れ、人が殴れば殴った方が傷つく。村での喧嘩では傷一つ負ったことはない。

 だが、村の大人たちは外に出ればもっと強い奴はいくらでもいると言う。

 だから熊を退治して自分の強さを認めさせようと考えていた最中に冒険者が村に来たと聞き、先を越されまいと森に飛び込んだのだ。

 

「ちくしょう、月も隠れてなんも見えねぇ」

 

 木々が屋根となり月明かりを遮る。村での生活は日が沈めば床に入る。夜目など効くはずもない。

 足元を確かめながら歩いていると低く太い鳴き声が空気を震わす。

 

「き、来やがったな。どこからでもかかってこいよ!」

 

 熊を探して辺りを見回す。

 しかし、ナガトの目に写るのは闇だけ。パキパキと枝の折れる音だけが近付いてくる。

 微かに射し込む月明かりを頼りに音の発信源を探していると目の隅で何かが動いた気が振り返る。が既に遅かった。

 体の側面を大きく重く硬い板で殴られたような衝撃と共に体が宙に舞う。

 バキバキと骨の折れる音が聞こえる。

 

「ちくしょう、ふい打ちなんてずりぃぞ。正々堂々勝負しろ!」

 

 折れていない右手で体を支え立ち上がる。

 巨腕熊は長く太い腕で鍬を使ってナガトに向けて前進する。

 ナガトの目の前までくると巨腕熊はゆっくりと立ち上がる。立ち上がってなお爪先は地面を擦っている。

 巨腕熊から警戒心は感じられない。

 

(もう勝った気でいやがる。ちくしょうがぁ)

 

 ナガトは右手を握り、体の捻りで拳を振るった。しかし、放った拳は虚しく跳ね返った。

 

(ちくしょうが。俺は、俺は、ほんとに弱かったのか。ちくしょうが)

 

 死の恐怖よりも弱い自分への憤りが込み上げてきた。

 怒りのままにもう一度拳を振るうが結果変わらない。巨腕熊はバカにするようにゆっくりと腕を振り上げた。

 

 

 

「本当にナガトの奴めを助けてくれるのか」

「ええ、やれるだけはやります。ただ時間が経っているようなのでその時は許してください」

「当然じゃ。それはあやつ自身の責任。助けにいけぬわしらがお主らを責めることなど出来ようか。皆もわかっておる」

「では、行ってきます」

「うむ、お主らも気を付けるんじゃぞ」

 

 力強く頷くと宗司達は村を飛び出す。

 10分もかからず森の手前に広がる草原を抜け、森に着いた。

 

「ウル、追えるか?」

 

 ウルは鼻と耳をぴくぴくと動かし、痕跡を探った。すぐに動きがぴたりと止まる。

 

「臭い…あった…向こう…鳴き声…聞こえる」

「さすがだな」

 

 宗司は頭を撫でてやると[光球]を自分とウルの頭上に出現させる。

 夜目の効くウルには必要ないが、これはウルを追いかけるための目印でもある。

 敵に気付かれるのを避けるために光を絞るとそれを合図にウルは森に飛び込んでいった。

 宗司もそれに続いて飛び込んだ。

 ウルの感覚を頼りに森を駆けていると急にウルが停止した。

 

「いた…あそこ」

 

 [視覚強化]をすると確かに大きな獣が見える。その視線の先には立っているのもやっとそうな人間。

 巨腕熊はどんどんとナガトらしき人影に近づき、手前で立ち上がった。

 ナガトは腕を振るっているがパンチとも言えない勢いしかない。

 その時、熊は大きな腕を振り下ろし、ナガトを吹き飛ばす。

 

(あれはまずいな)

 

「ウル、牽制するから熊を頼む。僕はあの青年にポーションを」

 

 宗司は腕を振るい[風刃]を飛ばす。

 それと同時に横からウルの気配が消えた。

 宗司も青年に駆け寄る。背後に熊の苛立つ声が聞こえた。。

 青年の首に手を当てるととくんと動いている。まだ死んでいない。

 それに服は血で濡れているが体のどこからも血は流れておらず、外傷もないように見えた。

 だが、触診すると全身の骨が粉々で、内臓へのダメージもありそうだ。

 

「聞こえる?ポーションを飲ませるから口を開けてくれ」


 宗司が声を掛けるとナガトの瞳が微かに動いた。

 

「俺は…まだ負けて…ねぇ…俺は…弱く…ねぇ」

 

(この状態で意識があるのか?いや、これは執念か)

 

 宗司にもうっすらとだが覚えがある。

 

「あぁ君は負けてない。でも死んだら負けだ。さぁ口を」

 

 わずかに開いた口にポーションを流し込む。宗司の秘蔵のポーションだ。時間はかかるがあれでも問題なく回復するはずだ。

 宗司は飲み込んだのを確認するとナガトのもたれる木に護符を貼り、結界を展開した。

 

(これで他の魔物が来ても当分は見つかることもないはず。さてウルの加勢だ)

 

 巨腕熊の声のする方へ近づいていくと、ウルが隣に現れた。

 ウルの姿を見失った巨腕熊はなりふり構わず腕を振り回している。

 

「にーた…鉈…切れない…肉…硬い…邪魔…でも…目…一つ…やった」

「わかった。ウルはそのまま撹乱してくれ。隙を伺って僕が決める」

 

 宗司の指示通り、ウルは四方八方から巨腕熊を攻め立てる。

 巨腕熊も攻撃の来た方向へ長い腕を振るが、その時には既にウルはいない。

 その攻防が何度も繰り返されている。

 

(さてどうするか。森で火系は論外。水もこの天気じゃ集めるのに時間がかかるな。この柔らかい土では[土槍]も硬化が手間だし、風系は決定力に欠ける。となると雷系か。[雷網]はウルに飛ぶかもしれないから、接近しなきゃいけないけどあれで行こう)

 

 宗司は浮遊魔法で木の枝に登ると小さく合図を出す。

 これだけの声でウルには宗司の位置がわかる。そして宗司の下に誘導してくれる。そうやって森で狩りをしてきたのだ。

 ウルは攻撃の方向を調整し、徐々に巨腕熊を宗司の下に誘導していく。

 丁度真下に来たとき宗司は枝から飛び降りる。

 立ち上がった巨腕熊の背後に降り立つと背中に片手を当てる。

 

「ウル、退いて![雷掌]」 

 

 巨腕熊はただならぬ魔力を感じ取ったのか振り返ろうとするが、もう遅い。

 魔法を発動すると巨腕熊はぶるぶると体を震わせ、やがて焦げるような臭いを放つと倒れた。

 

「にーた…遅い…ウル…疲れた…眠い」

「はいはい、わかったよ。解体は僕がやればいいんでしょ。あっちに村の男の子が寝てるから寝るならそっちで寝てくれ」

「わかった…肉…持ってきて」

 

 そう言い残してウルはとぼとぼとナガトのほうへと歩いていった。

 宗司はナイフを握り、巨大な死体前に立つ。近くで見るとより大きく見えた。

 

「はぁ、これを持ってくって。勘弁してくれよ」

 

 本来討伐の証明は魔物の体の一部を切り取るのが普通だ。

 だが、宗司に持っていかないという選択肢はない。今回の功労賞はウルだ。もし持っていかなければ手酷い仕打ちをされるに違いない。

 

 

 

 白みだした空を宗司はふよふよと飛行している。

 彼の後ろにはすやすやと眠るウルと気を失っているナガト。

 それと巨腕熊の死体。

 なかなかナイフが通らず、ナガトを安全な場所を寝かせるためにそのまま運ぶことにしたのだ。

 浮遊魔法は重量に比例して難易度も魔力も増す。ウルとナガトはともかく、巨腕熊を運ぶのは宗司にとっても神経をすり減らす。

 

(飛んだほうが速いからいらないと思ったけど…騎獣が欲しい)

 

 騎獣は馬がやはり多いが中にはテイムした魔物を騎獣をすることもある。

 サリナが竜をテイムした騎士、竜騎士の英雄譚をウルとカリナに聞かせていたのを思い出す。

 

(でも、馬って高いんだよなぁ)

 

 老馬であればそこまで高くない。安ければ金貨数枚だろう。しかし強大な魔物から逃げることもある冒険者がいざというときに走れない老馬を連れるわけには行かない。そこそこの馬を買おうと思ったら金貨10枚単位で必要だろう。それ以上の馬や稀少な魔物であればもはやいくらするのかもわからない。

 

(それにでかい魔物に乗ってたらかっこいいよね)

 

 宗司は意外に見映えを気にするタイプなのだ。

 

(見栄えといえば…ウルに服も買ってやらないとなぁ)

 

 ウルは森で着ていた茶色のワンピースに手甲や脚甲などを着けているだけでとてもおしゃれとは言えない。宗司も今はテミックのお古の装備だ。

 

(明日は報告が終わったら1日休みにして買い物に行こう。あ、でも女の子の服とかわからないけど…セリナ達も連れていってあげよう)

 

 

 

 翌日、腹に衝撃を感じて宗司は起こされた。


「な、なに」

「にーた…起きる…買い物」

「ソージお兄ちゃん、おーきーてー」

 

 宗司は衝撃に堪えかねて起き上がると窓の外を見る。

 既に日が高い。こちらの世界に来てから日の出とともに起きるのが普通になっていたので今日は大寝坊だ。

 しかし、今日は依頼の報告と買い物以外の予定はない。

 昨日のうちに眠気を我慢しながら飛行してバーバラに戻り、そのままベッドに潜り込んだ。

 ちなみに巨腕熊は村の人に手伝ってもらいながら解体し、素材と食べる分だけ持ってきた。

 

「ソージ君、昨日はだいぶお疲れだったみたいですね。あんまり早く帰ってくるから驚いちゃったわ。はい、これ、ソージ君が持ってきてくれたお肉」

「肉?あぁ、熊の。いただきます」

 

 サリナはいろいろと話しているようだが、まだ頭が動いておらず話が入ってこない。

 

「ごちそうさまでした。あれ?サリナさんは?」

 

 やっとの思いで熊肉を飲み込む。前にはセリナが座り、サリナの姿がない。

 

「聞いてなかったんですか?お母さんはお父さんの手伝いに行きましたよ」

 

 ウルとカリナの声が外から聞こえる。いつもの空き地のようだ。またセリナと二人になってしまった。

 ただ今日は話すことがある。

 

「セリナちゃん、良ければ今日一緒に出かけない?」

「え、私ですか?」

「うん、予定がなければ。ギルドに行った後だけど服を買いにいこうと思うんだ。それで僕はよくわからないから良ければセリナちゃんに選んで欲しいなと思って」

「は、はい。もちろんです」

「じゃあ、これ片しちゃうから準備しといてよ」


 宗司が食器を片し、家を出るとそこには天使が待っていた。

 流れるような金髪に真っ白いワンピース着ている様はまさに天使。宗司はそれ以外の言葉が思い浮かばなかった。

 

「セリナちゃん、その、似合ってるよ」

「ほ、本当ですか。嬉しいです」

 

 はにかむように微笑むと頬に紅が差す。思わず宗司は見惚れてしまった。

 

「あー、お姉ちゃんおめかししてるー」

「うん…セリナ…きれー」

「もう!二人ともからかうんじゃありません。はぐれないようにしてね」

 

 

 

「あ!ソウジさんじゃないですか!」

 

 宗司たちは報告を行うために冒険者ギルドに入る。全員でカウンターに行く必要もないので三人は酒場でジュースを飲ませている。

 

「…ラージさん、今日も元気ですね」

「はい、ありがとうございます!ラージは今日も元気です!」

 

(皮肉が通じないだと…もう嫌だ)

 

「あの、クールさんはいますか」

「ちょっと待ってくださいね!クールさん!クールさーん!」

「あっ、そんなことしたら…」

 

 宗司は止めようとしたがもう遅かった。

 クールは漫画のようながに股で歩いてくるとラージに拳骨を食らわせた。

 

「大声で呼ばないであなたが来なさいって何回言ったらわかるの!」

「で、でもぉ…」

「でももしかしもありません!次やったら支部長に減給するように言いますからね!」

「そんなぁ」

 

 クールのお説教が終わるとスモールなラージは奥に消えていった。

 宗司としては減給どころか何故首にならないのが不思議である。

 

(まぁなんか憎めないキャラなんだけどさ)

 

「ソウジさん、いつもいつもすみません。ギルドの他の職員は皆ちゃんとしてるんですけど何故かソウジさんが来るときはあの子が前に出てるんですよねぇ」

「ははは」

「それにしても早かったですね。今お帰り…ではないみたいですね」

 

 クールは宗司を上から下へと眺める。今日はいつもの装備ではなく、くすんだ白のシャツにベージュのパンツだ。

 

「ええ、昨日大急ぎで帰って来たんですけど疲れて寝てしまって。あ、これ、ハイハル草と巨腕熊の爪です。一本でいいんですよね?」

「はい、確かに。ではカードをお願いします。装飾をしますので後でまた来てください」

「じゃあ、夕方にまた来ます」

 

 宗司はいつものようにカードを差し出す。もちろんウルのものも一緒にだ。

 

「ちなみにソウジさん達パーティー名は決まってますか。決まってるなら一緒に刻印しちゃいますけど」

「パーティー名?あっ」

 

 宗司は掲示板の内容を思い出す。Eクラスからはパーティーを登録することが出来、基本はそのメンバーで依頼を受けることになる。Fランクでは出来ないのはほとんどが街の中の雑用や上位のクラスに着いていくポーターなどがメインなので単純に必要ないからだ。

 このパーティー制度はメンバーに万が一があった場合そのメンバーの分とギルドに預けている貯金を残りのメンバーが受けとることが出来る仕組みだ。ちなみに仲間殺しが発覚した場合はブラックリスト入り。犯罪者の捕縛と処分を専門とする賞金首ギルドなどに追われることになる。

 

「ウル、ちょっといいかな」

 

 宗司が手招きするとウルはジョッキを抱えたままとてとてと寄ってきた。

 

「ウル、パーティー名は何か希望ある?」

「なんでも…いい」

 

 これは宗司も予想していた答えだ。しかし、聞かずに決めて臍を曲げられても困るから一応聞いたのだ。

 

「じゃあ『雷狼』なんてどう?」

「うん…かっこいい」

 

 こうして数々の偉業を為し遂げるパーティー『雷狼』は生まれた。

 しかし、今はそれを知るものはいない。

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