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雷と狼娘  作者: 花千歳
7/12

試験再度

「あらー、おかえりなさい」

 

 宗司たちが帰るとサリナが金髪を揺らして出迎えてくれた。

 

「ん…お土産」 

 

 ウルが手に抱えていた袋をずいっと差し出す。

 中には素材を売って出来たお金で買った肉や果物が詰まっている。

 

「あら、やだわ、またこんなに。そんなに気を使わなくていいのに。じゃあ、またお夕飯で食べましょうね。セリナ、カリナ、二人が帰ってきたわよ~」

 

 サリナが呼び掛けると顔を真っ赤にしたセリナとウルが帰ってきたことを喜ぶカリナが出てきた。

 カリナはウルに抱き着く。

 二人は二三話すと夕食まで遊ぶことにしたようだ。

 1日忙しかったのに元気なことである。

 

「ちょっと待っててくださいね。もう少ししたらあの人が帰ってきますから。セリナは宗司さんのお相手をしなさいな、うふふふ」

 

 小悪魔的な笑い声を残してサリナは台所へと去っていった。

 取り残された二人は黙ってリビングに入ると隣向かいに座った。

 

(き、きまずい。こういうときどういうことを話せばいいか学校で教えてほしかった)

 

 宗司は年齢が彼女いない歴とイコール。ネトゲ嫁どころか恋愛ゲームもしたことがないので画面の中の彼女もいない。いうなれば真なる童貞だ。

 顔自体は客観的には悪くない。むしろ母性本能をくすぐるのだが、それが女子からするとかえって恋愛の対象として見れない原因でもあったということを宗司は知らない。

 それにセリナは外見は大人びていても実年齢では10以上年下なのだ。

 そんな少女から好意を寄せられるなど誰が予想出来るだろう。

 

「あ、あの、試験はどうでしたか?」

「そこそこ上手くいったかな。カード見る?」

「いいんですか?」

 

 宗司は胸に下げた革袋から新品のカードを取り出した。バリホンガーの角も入っているがカードは金属製のため傷付く心配はない。

 

「失礼します。あ、え、えっ、これ本当に宗司さんの…ですよね。すごいです!」

「いや、はは」

 

 宗司は照れくさそうに頭を掻く。そこそことかっこつけて言ったが実際には職員が驚くような結果だった。

 

「冒険者と魔法ギルド、どっちもいきなりBなんて聞いたことありませんよ」

「そ、そうなのかな」

「そうですよ。Sは特別なクラスらしいのでBは実質上から2番目、ベテランとか一流って言われるクラスですよ!?」

 

 セリナがすごい勢いで捲し立てる。それほどすごいらしい。

 宗司はそこまですごいものだとは考えていなかった。精々空手や柔道の初段くらいかな?なんて勝手に考えていた。それでも十分すごいことではあるが。

 

「でも、まだBクラスになったわけじゃないからさ」

 

 今日の受けたランク試験は資格試験のようなものだ。

 Bの認定があるからといって即Bクラスになれるわけではない。クラスを上げるためにはこの認定といくつかの条件をクリアする必要があるのだ。つまり実績0の宗司は条件をクリアしているはずもなくまだFランクである。

 

「それでも、羨ましいです。私は商人も魔法もFなので今日みたいな日雇いの仕事くらいしか出来ませんから」

 

 宗司には商人のランク試験はわからないが、魔法のEランク試験は簡単な攻撃魔法と物体操作だった。宗司からすれば、なんのこともないことであったが、セリナにはそうではないようだ。

 つまり、これが教育を受けていない平民のレベルだと言える。

 宗司はテミックという師に出会えたことに感謝する。

 それとともにセリナの力になってあげたいと思った。

 宗司にも無力さを感じていた時期はある。上京したての頃がそうだった。

 そこで宗司は意を決した。

 

「それなら僕が」

「ただいまー」

 

 宗司が言いかけたところでダーマが帰宅してきた。

 ウルとカリナも一緒だ。

 

「セリナー、お父さん帰ってきたから夕食の仕度を手伝って頂戴」

「宗司さん、ごめんなさい。私、お母さんを手伝わないと」

 

 宗司の勇気は虚しくも散った。

 

 

 

 翌日の昼、二人は冒険者ギルドにいた。

 初依頼の達成報告だ。宗司たちの初依頼は足の悪いおばあさんの代わりに食料の買い出し。おつかいだった。

 昼食の時間のためかカウンターは1つしか開いていない。

 

「あ、宗司さん、ウルさん!」

 

 一人でしょぼんと座っていた受付員が、久々に人を見たとばかりに二人を出迎えた。

 

「あれ、ラージさん、一人ですか?」

「そうなんです!皆ご飯食べてる間ここはあなたに任せたわよってクールさんに頼まれたんです!でもなかなか冒険者さんが来なくて寂しかったんです…」


(それは単に乗せられただけなのに、なんで気づかないのか逆に不思議だよ)

 

「そ、そうですか。じゃあこれお願いしますね」

「はい!私、頑張ります!えーと、まずは依頼書を受け取ったら依頼者のサインを確認して、次はカードを受け取ったら討伐数と達成数を更新、ってあれ、どっちを先にやればいいんだろ」

 

 ラージは何やら机の下でこそこそと何かを見ながらのろのろと作業をしていく。

 ウルは大きな声のラージが苦手なので、併設の酒場に食べ物を買いに行ってしまった。

 

「あの、ラージさん、何をしているんですか」

「気になりますか?驚かないでくださいね。じゃじゃーん、これがクールさんにもらった受付嬢の極意その1です!あ、極意だから人に見せちゃいけないんだった!」


 ラージが取り出した薄い冊子の表には手書きで「うけつけじょうのごくいその1」と書かれていた。


(いや、どーみても遠足のしおりレベルなんですけど。むしろ、その程度すら覚えてなくてどうして就職出来たんだよ)

 

 それから30分ほどでやっと手続きが終わる。

 途中からは宗司がマニュアルを読んでラージに指示を出すというわけのわからない現象が起きていた。

 

(なんだか依頼より疲れた)

 

 宗司達は「もう帰る」と伝えるとスモールに戻ったラージを残してギルドを後にした。

 ウルはカリナと遊びたいというので小遣いに銀貨3枚を渡して先に帰した。

 昨日試験の合間にぷらぷらと歩いた感じでは銀貨は1枚当り日本円で約1000円。

 子供二人が遊ぶには十分だろう。

 冒険者ギルドから通りを2本ほど渡って右に曲がると魔法ギルドが見えてきた。

 魔法ギルドには修練所が併設されていてギルドに所属していれば自由に使うことが出来る。

 本当はギルドにある本を読みたい。テミックが残してくれたものは持っているが、宗司は出来れば現在の知識も吸収したいと思っていた。だが、本はこの世界では高級品。魔法関連のものともなれば一冊で金貨が必要なんてこともザラらしい。なので立ち読みなんてもっての他。ギルドの書物も閲覧料として銀貨20枚を取られる。

 全財産が昨日素材を売った金貨10枚ほどの宗司には暇潰しとして利用するには高すぎる。

 宗司は受付でカードを渡し、修練所に入った。

 宗司の今日のメニューは違う属性の並列発動。

 これがなかなか難しく、未だに集中しなければ成功しないため、戦闘ではまだとても使い物にならない。

 どれほど難しいかというと同じ属性の別の魔法の並列発動が両手を別々に動かすようなものだとすれば、違う属性の場合は手で文字を書きながらリフティングするようなものだ。

 短期間でとりあえずでも修得出来たのは宗司の器用さと死を感じるほどの修行のおかげだ。

 ただ、魔法というのは運動と同じでサボればあっという間に劣化する。

 逆に継続していけば、今は集中を高めなければ出来ない並列発動もいつかは意識せずとも出来るようになるだろう。

 なので街にいながら静かで集中出来るこの場所は宗司にとっては願ったり叶ったりだ。

 宗司がメニューの3周目に入ろうとしたとき、ゲラゲラと笑いながら5人ほどのグループが入ってきた。周囲で修練をしていた者達はそそくさと修練所をあとにしていく。

 

(誰も注意しないのかよ)

 

 不思議に思ってグループを見るとその理由がわかった。

 魔法学校のマントの下にはいかにもな服を着ている。

 恐らく貴族だろう。

 

(身分社会も大変なものだなぁ)

 

 だが、宗司にとってももう他人事ではない。

 面倒に巻き込まれる前に退散することにした。

 ロビーに戻ると受付にカードを返してもらいにいく。

 

「あの、魔法学校の生徒って皆あんな感じなんですか?」

 

 受付は昨日試験の時にも対応してくれたターニャというドワーフの女性だ。

 

「違いますよ!あっ…ソウジさん、ちょっと」

 

 ターニャは身を乗り出して、手招きする。

 耳を貸せということのようだ。

 

「彼らは最近この街に来たサスマ王国の貴族とその取り巻きなんですよ。なんでも留学だとか。ただ実際は本国でなにやら問題を起こして半分追い出されたようなものらしいですよ。本人はそれを理解してないでしょうけど」 

「でも、貴族だからってそんな好き勝手出来るんですか?」

「いえ、普通は出来ませんよ。この街を治めるシルベリー様なんかは私達下々にもお優しくて、貴族とは民衆の模範であるべきだって仰る方ですから。もし配下の者があんなことをすればその人はもうこの街にはいられなくなります。でもあの人達、サスマでは結構高い貴族の子息らしくてシルベリー様も扱いに困ってるって噂です」

「追い出されたとはいっても邪険に扱えば外交問題に発展するかもしれないってことですか」

「そうそう。ですからソウジさんもあまり関わらない方がいいですよ」

 

 そう言い残して、ターニャは仕事へと戻っていく。言われるまでもなく関わるのはごめんだ。

 小腹が空いたこともあって、飲食店街をぷらぷらと歩いていると突然声をかけられた。

 聞き覚えのある声、というか音量だ。

 

「ソウジさーん。ソーウージーサーン!」

 

 声の主はぶんぶんと手を振りながら駆け寄ってくる。手以外にもぶんぶんと揺れているものが道行く男性達の目を集める。

 

「ラージさん、街中で大声で呼ぶのは止めてください。恥ずかしいですから」

「ごめんなさい!次から気を付けます!」

 

 絶対に気を付ける気はないだろうが、言っても無駄な気しかしない。

 

「それで、何かようですか?まさかあの冊子をまた読んでくれなんて言わないですよね」

「まさか。あれはもうばっちりですよ。お昼から二組も対応しちゃいましたから。そんなわけで極意を修得した私にクールさんはソウジさんを探してこいってミッションを与えたわけです」


 ラージは突き出た胸を更に突き出す。

 ただ飲食店街の先にあるギルドの出入りは昼に比べて激しい。

 それを見て宗司は察した。

 

(ラージさん、それは戦力外通告ですよ)

 

「それで何か用ですか?依頼の報告はちゃんと出来てましたよね。マニュ…極意通りやりましたから」

「ええ、もちろん出来てましたよ。でもなんでかは私も聞いてません。とりあえず一緒に来てください!」

 

 公衆の面前であることも気にせずラージは宗司の腕をがっしりと掴む。意外に力が強い。

 

(なんか、面倒な気もするけど…この感触、悪くない)

 

 引きずられるようにギルドに入るとカウンターからクールさんが出てきた。

 般若の形相に宗司までスモールになってしまう。

 

「ラージさん!誰がそんなふうに連れてこいと言ったんですか!ちゃんと理由を説明してから一緒に来てもらいなさいって言ったでしょう!」

「ふぇぇ、聞いてませんよぉ」

「それはあなたが話途中で出ていくからでしょう!このおバカ!…すみません、ソウジさん。ご予定は大丈夫ですか?」

「ええ、近くをぷらぷらしてただけですので。それにしてもクールさんも大変ですね」

「わかってくれますか。ソウジさんも昼はご迷惑をかけたようで」

「なんでクールさんが大変なんですか?大変なのは怒られてる私ですよ!」

 

 宗司とクールはラージを見ると互いに目を合わせる。

 

「「はぁ」」

 

 溜め息を吐くとクールはラージをどこかに追いやった。

 

「それで何か用があったのでは?」

「あ、そうでした。立ち話もなんですから、カウンター…は空いてないので、こちらに座ってください。迷惑をおかけしましたので私が奢ります。エールでいいですか?」

 

 ソウジは酒場の片隅に腰をかける。クールはすぐにジョッキを持って戻ってきた。

 ちなみにドレーズには飲酒に関する制限はない。ただ、大人の楽しみということで就職した頃、つまり15前後から飲み始めるのが普通のようだ。

 エールは常温で日本人としてはキンキンのものが飲みたかったが、温暖なドレーズでは氷は魔法でしか入手出来ないため稀少で、冷えた食べ物はほぼ存在しない。

 それでも久々に飲む酒は美味しかった。

 

「それでソウジさんをお呼びした理由は2つあります。1つは先程も言ったお昼のことに関してお詫びとお礼です。ありがとうございました。もう1つはランクに関してです。我がギルドは協議の結果ソウジさんとウルさんの二人を特例でDランクに上げることにしました」

「え、でもランクを上げるには依頼を規定回数以上こなした上で試験や査定があるんじゃ」

「ですから特例です。お二人は最初来た際に素材を納めてくれましたよね?ですのでそれを討伐実績に加算することにしました」

「はぁ、そういうことならありがたいお話です」

「ただ、ギルドとしても特例を適用するだけの理由が必要なんです。いえ、ギルドの者は特例にするだけの能力があるとわかっています。ただ他の冒険者の方たちからはそれだけでは不満が出るでしょうから、こちらで用意した依頼をソウジさん達に受けてもらって、その実績によって特例でランクを上げた、ということにしようと考えています。それでその依頼が少し遠いところですので出来れば二日後くらいには出発して頂ければと思って急いでお呼びしたわけです。明日は準備もあるでしょうから」

「事情は理解しましたが、その依頼っていうのはなんですか?」


 クールは脇に置いていたファイルから一枚の依頼書を取り出した。

 そこにはハイハル草の採取と書いてある。


「こちらです。ただ実際にはこのハイハル草の群生地に出現していると報告が来ている巨腕熊の討伐が真の目的です」

「なるほど。わかりました。受けましょう」

「ありがとうございます。実のところ我がギルドも人手不足でして…ソウジさん達のような方を下で遊ばせておくわけにはいかないんですよ」

「そうなんですか?昨日の試験の様子ではたくさんいるように見えましたけど」

「確かに大勢の方がギルドに参加してくれますが、Bランクまでたどり着けるような方はその中でも一握りですよ?それに近年魔物の動きが活発化してますから。まだその理由も分かっていませんし」

 

 そこでクールは残りのエールを一気に流し込んだ。飲みっぷりからして酒飲みなのかもしれない。

 

「では、依頼書と案内を渡しておきますね。私は仕事に戻ります。いつまでもラージさんにカウンターを任せているわけにはいきませんので」

 

 

 

「そういうわけで明後日からは少し街を出てきます。ウルもいいね?」

「うん…わかった」

「えぇ~、ウルちゃん、行っちゃうの~」

「すぐ…戻る…はず…にーた?」

「あぁ、3日もあれば戻ってこれると思うよ。そうだ、明日は食料の買い出しもしなきゃいけないし、カリナちゃんと一緒においでよ」

「カリナ…一緒…買い物」

「わぁ、楽しみ~。ウルちゃん、なに買うか一緒に考えよ~」

 

 二人は手を繋いで外に出ていってしまった。隣の空き地は既に二人のスペースだ。

 

「そう言えばダーマさん、最近魔物が活発化しているって聞いたんですけど」

「そうだね。そこまで爆発的に増えたってわけじゃないけど商人ギルドでも行商が襲われたとか作物が被害にあったっていう話は多くなった気がするよ。まぁ、襲われた私が言えることじゃないけどね、ははは」

「お父さん、それ笑い事じゃないから」

 

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