表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第四章 うねり狂うビート
52/62

52

 ――自らの領域に招き入れるとは大したものだ―― 歪んだ視界の中、ハセガワさんの声が響く。

「領、域?」焦点がどこにも合わない状態のまま僕は言葉を落す。

 ――しっかりしろ明晴。レディを待たすんじゃない――

「あらら、びっくりさせちゃったかな? こっちはバトルする気満々なんだけど……。どれどれ」織媛の声が耳に届くと同時に、僕の両の頬を人肌の温もりがなぞる。

「明晴、私を見て?」段々と目の前の世界に焦点が合い始め、僕の瞳は彼女の笑顔を捉える。彼女の顔があまりにも至近距離にあったため不快感を覚えたが、僕は先程の温もりにすっかり骨抜きにされてしまったようで、彼女を強く拒否することが出来なかった。

「なんだよ、間接キスじゃあ足りなかったか……?」

「足りないよ。でも私からはキスはしないから」彼女はそう言うと両手を僕の頬から外し、僕に背中を向けて領域の中を泳ぎ出す。

「なんだよその足。随分と便利そうじゃないか」

 彼女の下半身に人間の足は無かった。泳ぐというのは比喩では無い。彼女は魚の尾ヒレで優雅に領域の中を泳いでいるのだ。

「いいでしょ。私はここでは自由なんだ。空なんていらない。海の中ならどこまでだって飛べるんだから」霊域を覆う青はペペさんの創るそれとは違い、随分と深い色をしていた。

「人魚姫。幼稚園の頃よく読んでたよな」僕は犬のように頭を振り、麻酔のかかった意識を研ぎ澄ませる。

「明晴も少しは憶えてるんだ、昔の事」

「中学生に昔もなにもあるかよ」

「あるよ。ね、私の明晴……」彼女はそう言って上空を泳ぎ、十字架に磔にされた二人の小学生の頬をそれぞれの手で撫でた。

「なんでもう一人増えてるんだよ……」僕は悔しさと怒りから歯をギリギリと鳴らす。

「本物の明晴は多い方がいいから」彼女は二人の少年の首筋に順番にキスをする。

 ――型は嫉妬型のリヴァイアサンで間違いは無い。しかし彼女にはまだなにかある――

「嫉妬型? 織媛! お前なにか嫉妬してるのか!」

「嫉妬? してないよ? 私はただひたすらに正しいだけ」

 ――あの状態では満足な会話は期待できないぞ。会話の為には人は仮面を被らなければならないのだ。今の彼女にそれは無い――

「ねぇ、早く闘おうよ! 私は偽物の明晴を殺さなきゃならないんだから!」織媛は右手を体の前に出すと、何もない空間から仰々しいデザインのダガーを一本取り出し、それを握った。

 ――ブルース……。やはりビートも扱えるのか――

「お前と闘う気はない。僕はお前を殺したくない。ただお前に、人を殺すのを止めて欲しいだけだ」

「なら、私は止められないよ。私を殺してよ明晴」彼女はナイフを構える。

 ――来るぞ――

「みたいですね。バリアと視力と三半規管、お願いします」僕はそう言って右手に刀を生成する。策を考えながら適当に闘うしかない。とりあえず今はそれで……。

 ――了解した―― 薄い空色の膜が僕の周りを包む。視力が格段に上昇し、彼女の姿を細部まで観察できるようになる。

「それじゃあ行くからね。絶対に殺してやるんだから」

「お前なんかに殺されねえよ」

「ふふっ、行くよ王子様」

 彼女は瞳孔を爬虫類のそれのように縦長に引き伸ばし、尾ヒレを使ってこちらへと急速に接近する。

 接近のさなか、彼女はダガーの柄に左手を添え、両手持ちに変更する。殺意が露わになっていく。

 護身の為に刀を出したはいいが、僕にはこの決闘の意味が解らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ