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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第三章 復讐のビート
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 僕は空中に両足を乗せ、刀からあらゆる方向へと空色の波動を弾き出す。波動の通過したあとにはベエルゼブブの姿は残らなかった。範囲技は堪らないな。僕はそんなことを思った。

「ペペさん。目標の数は?」

 ――ベエルゼブブが約八千だよ~――

「八千……。じゃあもう二千体は落としたんですか?」

 ――二千……? あっ、違うよ明晴。ハセガワが始めに言った『万』は『ベエルゼブブが一万体いる』って意味じゃないんだよ? あれはマモンとゼブブの総数。スタート時点ではゼブブ二千とマモン八千だったんだよ――

「ペペさんかなり狩りましたね。 ……って! ゼブブ滅茶苦茶増えてるじゃないですか!」

 ――へへっ、混線が絡んでるから仕方ないんだよ?―― 彼女は笑う。

「笑ってる場合じゃないですよ。アイツが準備できるまでに瘴気を薄くしておかないと……!」僕は同じ攻撃を続けながら、もっと効率の良い狩り方は無いかと考える。勿論、三重奏以外に思いつくことは無かったが。

 ――笑ってないと幸せが逃げちゃうんだよ? 幸せを見つけられなくなっちゃうからね~――

「そういうのは今いいですから!」刀を振るうスピードが上がる。

 ――慌てないでいいのに。ハセガワは優秀だよ? アイツは無茶をするだけで無理は絶対にしない。アイツが焦るのは百パーセントが崩れた時だけ。つまりビビリってことなんだけどね――

「そ、そうなんですか?」

 ――そうだよ? まったく分かってないよね。零パーを抉じ開けるのが楽しいのにねぇ?―― 

「いや、そんなことは無いと思いますけど」僕は続ける。「あの、情報をくれませんか? 今回僕は勝利を見据える為の情報を全然貰っていません」

 ――あぁ、そういえばハセガワ何にも言ってなかったね。知識の過剰摂取は人をネガティブにしちゃうから、それを避ける為だろうね。いいよ、何が聞きたい?――

「混線の周期と混線するゴーストの大まかな量を」

 ――周期は今までの様子を見ると平均で一分間隔。増える量は領域内のゴースト総量の一割程度だよ――

「一割……。なら一分で千くらいは狩らないと……」

 ――そんなにいっぱい要らないって~。慌てちゃダメ。明晴の二重奏だけでも分速四百は狩れてるよ? あの子が来れば余裕で減り始めるよ。なんてったってビートが四つだからね! 混線出来たってことはハセガワと二重奏を奏でながら参加してくれるだろうし、二重奏が二ペアあれば疑似四重奏空間が発動して少なくともいつもの二倍は早く動けるようになるんだよ! つまりあの子が一体も狩れなかったとしても、私らだけで八百体は狩れるようになるんだ。まっ、ハセガワが絡んで成果ゼロなんて在り得ないけど。だからリラックスだよ~――

「疑似四重奏空間……? 二倍なら確かに余裕かも……!」

 ――でっしょ~? ほらっ! あの子が来たよっ!――

 ペペさんの意識が僕の注意を連れていき、僕の視点は下方向へと移動する。視界の先にはすばやくこちらに接近する光があった。

「おぉ! 綱介か⁉」僕は叫ぶ。

「あったぼうよぉぉぉぉ!」聞き慣れた叫びが耳へと届くと、その光は僕の隣をひゅんとすり抜け、僕のいる座標より更に上空へと昇って行った。

「止まんねえええええええええええええ!」ヒーローは叫ぶ。

「綱介ぇぇ! 止まるイメージをしろおおおお!」光の飛んでいった青空に向けて、両手を口元に添え、僕も彼に負けじと全力でそう叫んだ。

 声が届いたのか、はたまたハセガワさんのレクチャーがあったのか、上空より再び光がこちらへと接近する。光のスピードは先程と全く変わることはなかったが、今度はしっかりと僕の傍らで止まることができた。

「よう明晴。怪我は無いか?」発光がフッと止むと、そこには彼のいつもの弾けるような笑顔が映し出された。体がふわっと軽くなる。

「怪我なんてするかよ。一度通り過ぎたくせにカッコつけてんじゃねーぞ」

「仕方ないだろ! なんだよこの無茶苦茶な世界は……」

「なんだ。気に入らないのか?」

「まさか! 最高だろ!」綱介はこちらを見て笑う。

「そう言うと思ったぜヒーロー……!」彼のように無邪気なものではなかっただろうが、僕もつられて笑顔になる。お互いに笑顔を確認すると、綱介は眼光を鋭くして蠅達の方に向き直る。

「そんじゃあ。悪の軍団を片付けようぜ!」

「悪の軍団? ハセガワさんはそう言ったのか?」

「違うのか? オイ! 違うのかハセガワ! ……合ってるみたいだぞ?」彼は右手の刀に話し掛け、自分自身で答えを出す。

 なるほどそうか。ハセガワさんはそう言っているのか。

 僕は一度目を閉じて、彼の疑問に僕なりの答えを出す。

「いいや、大正解だよ。他人に迷惑を掛ける最低な奴等だ……!」

 彼は静かに笑い、刀の峰で自分の肩をトントンと叩く。

「そうか……。そんじゃあ、遠慮なくぶち殺していいなァ! 蠅野郎ォ!」彼は雄々しく蠅の群れに刀を向ける。

 蠅達は依然羽音を鳴らすばかり。

 綱介の刀は二重奏。わかる。いける。楽勝だ。

「頼むぜ相棒。ちなみにその刀、テレビゲームみたいに波動が出るぞ!」刀を構える彼を置き去りにし、僕は先に蠅の群れの中へと飛び込む。

「マジかよ! ほんと最ッ高だなあああああああああああああ!」

 やかましい羽音の中、背後から綱介の叫喚が届く。

 まったく底なしに愉快な奴だ。

 僕の口角は自然と上がっていた。その日の闇は酷く快適だった。


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