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ファンキー・ビート!  作者: 十山 
第三章 復讐のビート
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「ラスイチぃ!」そう言って蠅に空色の波動を飛ばそうとすると、炎のように紅い波動が目標の蠅を切り裂いた。

「残念。トドメは俺だ!」波動の飛んできた方向には、綱介の憎たらしい笑顔があった。

「いやまあ……、別にいいけどさ」

「ハハッ! 片付いたなぁ明晴!」彼は左手を添えて霊域中を見回す。

「あぁ、ありがとうな」

「良いって事よ。で、結局この世界は何なんだ?」お、

「あ~……」僕は彼から目を逸らす。これは果たして喋っていいことなのだろうか。きっと彼らの判断を仰ぐべきだ。

 ――一回地上に降りて明晴。ここじゃあ私ら抜け出せないよ。二重奏でいないと落ちちゃうもん―― ペペさんが意識を飛ばす。

「よし綱介。一回降りるぞ」

「あぁ、ハセガワもそう言ってる」

 僕らは地上へと頭を向けて、空の底へと潜っていく。


 地上に到達する寸前に体を縦方向に半回転させ、両足を地上にどっしりと落とす。

「よ~し到着ぅ……! ほら! 説明しろ!」綱介は言う。

 僕の持つ刀から光の球が分離したかと思うと、僕の中から何かが抜け落ち、代わりに彼女の姿が現出する。いつの間にか彼女のバッジも無くなっていた。

「そんなにこの世界のことが知りたい?」ペペさんは綱介に言う。

「おわっ! さっきの女!」

「そう、さっきの女だよ! さっきは助けてくれてありがとうね!」

「た、助けた? ……そ、そう! 助けたんだ! いやいや構わないよお姉さん……。俺はみんなのヒーローだからね」

「謝るんじゃなかったのか?」綱介の持つ刀からも光の球が解き放たれ、彼の頭の上にハセガワさんの姿が現出する。

「お、おう、当たり前だ。えっと……、さっきはいきなり殴ってすいませんでした」綱介は頭を下げる。

「いやいやいや! あれが無かったらヤバかったんだんだって~……。いや~、参ったな~」彼の行動が予想外だったのか、彼女は慌てふためく。

「素直でいいビートだ。面白い友人を持っているじゃないか明晴」

「いいでしょう? 退屈しなくて」

「気に食わない言い方だな……。ま、退屈な奴と言われるよりかは全然いいか。それで? この世界の話は? 俺は誰の口から聞いても構わないぜ?」

「それじゃあ私が話すよ」口を開いたのはペペさんだった。

「お、アンタが喋ってくれるのか。丁寧に頼みますよ、お姉さん」

 彼女達の問答にハセガワさんは動かない。

 なんだ、話していいのか、と僕は思う。

 しかしその反面、本当にいいのか? とも僕は思う。

 そもそも彼女らが僕を選んだ理由は僕が使える人間だからということではなかったか。僕が『能動的生命体(モーター)』と呼ばれる存在だから、ここまで強く僕に接触してきたのではなかったか。

 ましてや未来の情報など、彼女らにとっては一番の秘密ではないのか。

「……ペペさん、話しても大丈夫なんですか? もしかしてこいつも『能動的生命体(モーター)』なんですか?」僕は一応彼女に問う。不安からの質問であるのは勿論だったが、反対に未来の事を彼に話しても安全だと判定される仕掛けも知りたかった。

「いいや、『受動的生命体(ギア)』だよ。この子が私達と接触したことを認知すれば時間が無くなる」彼女はそれが重要なことでもないかのようにそう言った。

「時間が無くなっちゃダメなんじゃ……?」

「うん。時間軸が無くなれば世界は終わり。誰かの夢だったかのように世界自体がフッと消えるよ」彼女の表情は動かない。

 それこそ時間が止まったかのようだった。

 脳が止まる。彼女の意図が理解できない。

「モーター? ギア? なんで機械の話になるんだ? この世界は誰かの夢なのか? もうちょっとわかるように喋ってくれって……」

「ごめんね少年。この続きは外で話すよ。君の知ってるいつもの世界でね」

「帰る? なんだ。世界自体がこうなっちまった訳じゃなかったのか……」

 綱介の言葉には何故だか落胆が透けて見えた。

 ここにいる誰の意図も汲み取れない。僕は彼らに見限られてしまったかのように感じた。

「じゃ、じゃあ外に出るってことでいいんですね?」僕は思考の読めない彼らをよそに、綱介の頭上のハセガワさんに話し掛ける。

 ハセガワさんはこちらを向くと、「ん? あぁ、そうしようか」とだけ口にし、ビーヅの巻かれた右の翼で空間にするりと亀裂を入れる。

 円形に切り取られた空間は広がり、すっかり見慣れた大きなワームホールとなった。

「さぁ開いたぞ。その穴に入るのだ綱介」ハセガワさんは空間を引き裂いた翼でそのまま穴の方を指し示す。

「この先には、どんな世界があるんだハセガワ」綱介はぼんやりと言う。

「どんな世界がいい?」ハセガワさんは返す。

「そうだな……」綱介は穴に二、三歩近づいた後、上空の青空に目を向けた。「こんな世界が良いな。力がそのまま証明されて、その力が自分の手足以上の距離まで届く世界が……」その時の綱介の笑顔からは、先程のような弾けるような印象は受け取ることが出来なかった。何かを諦めたような、夢の世界が終わる時のような、それはそんな微笑みだった。

「ならば君の望む世界はこの先にある。今はゆっくりおやすみ、綱介」

「……そっか。あぁ、おやすみハセガワ」綱介は何かを理解したようだった。綱介とハセガワさんは、人の眠りを見送る時に発するはずの言葉を口にし、穴の中へと消えていった。

「本当に綱介に未来の事を話すんですか?」二人きりの空間の中、僕はペペさんに再度疑問を投げかける。

「話せないよ? あの子はどこに帰ると思ってるの?」

「……どこに帰るんですか?」

「ありゃりゃ、明晴が呼んだのに明晴が解らないの? ……あ~、まぁ解らないか。えっとね、三次元状態の人間の混線は寝てる時にしか起こせないの。これで解るでしょ?」ペペさんは微笑む。僕の理解力を試しているのだろうか。

「……綱介の夢が絡まったということですか?」

「ピンポ~ン! 明晴はいい子だね~。そう! 明晴が呼んだのは夢の中を泳いでいたあの子なの。こんなことは呼ぶ人と呼ばれる人のビートの属性が限りなく近くなきゃ絶対に起こらない現象なんだけどね」

「……限りなく近かったんですか?」 

「いいや、言うほどでもないよ。確かに彼のビートは、私らのファンクと同系統のアフロビートだった。でも混線を起こせる程近くは無いよ」

「じゃあなんで?」

「君が『能動的生命体(モーター)』だからだよ。『能動的生命体(モーター)』から発される世界への命令を、世界はある程度甘く認めるんだ」

「……つまり?」

「奇跡を起こしやすいってこと」ペペさんはニッコリと笑う。「もしかしたら、君はこの世界の主人公なのかもしれないね」

「それは言い過ぎですよ。『能動的生命体(モーター)』は僕以外にもいるんでしょう?」

「フフッ」ペペさんは子供のように笑うと「私がそう思っただけだよっ」と言って穴の中へとぴょんと飛び込んだ。

 空間には僕一人となった。

 空を見上げると、彼女の創った青空が依然としてそこにあった。

「僕が、こんなに綺麗な世界の主人公な筈無いですよ」

 僕は霊域に独り言をぽつりと落とし、穴の中へと入っていった。


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