表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/61

〈胎動:継承される光と銀の執着〉

ステイルの独占欲は、アヤナーラが新しい命を宿してからも相変わらずだった。いや、むしろ以前より増しているかもしれない。


「アヤ、今日はもう横になりなさい。……また、その子を見ているのか?」


ステイルは、慈しむような眼差しで自分のお腹を見つめるアヤナーラを見て、胸の奥が少しだけざわつくのを感じていた。

以前の彼は、彼女の視線の先にいる男たちに嫉妬していた。だが今は、まだ見ぬ我が子にさえ「自分に向けられるはずの愛情」を奪われているような、子供じみた嫉妬を感じてしまうのだ。


「ステイル。ふふ。……そんなに怖い顔をなさらないで。この子は、私たちの愛の証なのですよ?」


アヤナーラが困ったように笑い、ステイルの手を取って自分のお腹へと導いた。

「ほら、触れてみてください」

ステイルが大きな掌を、大きくなった彼女のお腹にそっと置く。その瞬間、手のひらに「トン」と力強い感触が伝わった。


「っ……今、動いたのか?」

「ええ。お父様が来たのが分かったのでしょうね。元気な子ですわ」


ステイルは息を呑んだ。


その小さな、けれど確かな衝撃は、彼がかつて知っていた「王家の血筋」や「後継者」といった無機質な言葉を、一瞬で「愛おしい命」へと塗り替えてしまった。

(ああ、そうか……。この子は、私の一部であり、アヤの一部なのだ)


アヤナーラが自分に向ける優しい視線。それが、自分と彼女の半分ずつを分け合ったこの命に向けられている。そう気づいた時、ステイルの中にあった刺々しい嫉妬心は、温かな「父性」という名の情熱へと溶けていった。


「……アヤ。この子が生まれたら、私は君だけでなく、この子も…二人を愛してしまいそうだ」


ステイルは跪き、彼女のお腹にそっと唇を寄せた。

「元気に生まれておいで。……お前の母上を一番愛しているのは私だが、二番目にお前を愛するのは、私の役目だ。でもアヤは渡さないからな。」


アヤナーラはその言葉を聞き、ステイルの頭を優しく抱きしめた。

「ステイル……。きっと、賑やかな家族になりますね」

その様子をドアの隙間から覗き見していたルカヌスが、「兄上、ついに赤ん坊にまで宣戦布告か。相変わらず重たいねぇ」と呆れ顔で囁き、隣にいたユリウスが静かに頷く。


銀色の世界で孤独だった王子は、今、愛する妻と、まだ見ぬ我が子、そして口うるさい家族に囲まれ、本当の「幸福」の意味を知るのだった。



「そろそろ、いいかな」


幸せな余韻に浸る部屋の外、聞き覚えのある重厚な声が響いた。盗み見をしていたルカヌスとユリウスは、心臓が跳ね上がるほど驚き、その場で飛び上がった。


「父上!」「国王陛下!」


そこには、現国王が愉快そうに目を細めて立っていた。


「いや、すまない。驚かせるつもりはなかったんだ。……ステイルも随分と変わったな。あんなに顔を緩ませるとは。これなら、そろそろ王位を譲っても良さそうだ」


「父上、それは……もう少し待たれた方がよろしいかと思います」

ルカヌスが引き攣った笑顔で即座に否定した。


「なぜだ? ステイルは立派に成長したじゃないか」


「……お腹の中の赤子にすら、宣戦布告するような男ですよ? これで子供が産まれ、姉上が付きっきりになったらどうなるか。……間違いなく手がつけられなくなります」


ルカヌスが肩をすくめると、隣でユリウスも深く頷き、側近としての苦言を呈した。


「陛下、進言をお許しください。私も同感です。以前のように、アヤナーラ様を幽閉するような真似は流石にしないと信じたいですが……嫉妬に狂って政務や公務が完全に止まる恐れがあります。せめて、子供が少し大きくなるまでは、陛下が抑え役として君臨されるべきかと」


「なるほど、一理あるな……」


国王は顎に手を当て、深くため息をついた。


「では、もうしばらくは私が王でいよう。私も早く引退して、フリーダ(王妃)と二人きりで静かに過ごしたいのだがな……」


その瞬間、ルカヌスとユリウスの体が石のように硬直した。


「父上……。今さらですが、まさか……。母上と二人きりになりたくて、僕たちを別居させて乳母や教師に任せっきりにした……なんてことはないですよね?」


「ん? まあ、それもあるぞ。私とフリーダの時間は、誰にも邪魔されたくないからな。ガハハ!」


豪快に笑い飛ばして去っていく父の背中を見送り、二人は天を仰いだ。


「……全て悟ったよ。兄上のあの病的な独占欲は、間違いなく父上譲りだ」


「……血は争えませんね。これは将来、産まれてくるお子様も苦労されるでしょう」


二人は、部屋の中でまだアヤナーラのお腹に甘えている「次期国王」の将来を思い、静かに遠い目をした。


ユリウスは、ステイルが嫉妬で我を忘れ、アルベルト王子を殺そうとしていることを王に進言に行った時のことを思い出した。

(……あの時の、「愛に狂ったか」と言われていたのは何だったんだろうな。……親譲りだったわけか)と深い溜息をついた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ