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第零章 第零話 終わりの始まり

 ――ズブリ――


「ああああーーーーーーー!!!!!!!!」


 それは、誰の声だったのだろうか。


 悲鳴というにはあまりにも重く、

 絶望という言葉すら生ぬるい音が、戦場に響き渡った。


 それは――

 メアの機体に、敵である『ヤマタノオロチ』の剣が、深々と突き立てられた音だった。


 音の鳴った場所から、推測するまでもない。

 それが致命傷であることは、誰にでも明らかだった。

 金属と装甲、そして生命そのものを貫いた、あまりにも深く、重い音。


「臨界点突破――『ファルファラ』の孵化は、避けられないな」


 冷淡な声が、戦場に落ちる。

 俺のコックピットの片隅に表示されていたゲージは、既に限界値を超えていた。

 警告色に染まった数値が、否応なく現実を突きつけてくる。


 ――これで終わりだ。


 目の前の『ヤマタノオロチ』との戦いに勝とうが負けようが、もはや関係はない。

 こちら側の敗北。

 そして、それは即ち――世界の終わりを意味していた。


久郎(くろう)、やっぱり駄目だよ……もう、どうにもならないよ……」


 相棒である結希(ゆうき)の通信が、微かなノイズ混じりに届く。


 彼の機体は既に満身創痍だった。

 だが、それ以上に痛々しいのは、彼の象徴とも言える剣が、無残に折れていることだった。


 剣の破損。

 それは単なる武装の喪失ではない。

 ――彼の戦う意志そのものが、折れてしまった証だった。


 結希の肩にあるのは、一体のフィギュア。

 俺たちの担任、(まい)先生。

 肉体を失い、魂をフィギュアに移して決戦に参加した。

 陽気な彼女も、もはや声もなく、ただうつむいている。


 視界を巡らせる。

 他の仲間たちの状態も、目を覆うばかりだった。


 (あきら)の機体は、両肩のブースターが完全に沈黙している。

 (れん)の機体は、両腕を喪失。

 みかんの機体に至っては、両脚を失い、浮遊することすらできず、ただ大地に横たわっていた。


 誰がどう見ても、全滅。

 否定しようのない、完全な敗北だった。


「まだ……終わりではない……」


 か細い声が、通信回線を震わせる。


 メアだった。


 荒い息遣い。

 それでも、奇跡的に――辛うじて命を繋いでいる。


「最後の一回、発動……『うつしよ』……魂を、巻き戻して……!」


 次の瞬間。


 メアの力が発動し、俺たちの機体が淡い青色の光に包まれた。

 それは温度のない光でありながら、不思議と拒絶感のない輝きだった。


 視界が、青に染まっていく。

 輪郭が溶け、音が遠ざかり――


 そこで、俺の意識は途絶えた。


 ――――――


「けっ。なんだよ。まだ諦めていないのか?」


 士郎(しろう)が、メアに向けて声を投げかけた。


「てめえももう、限界だろう。これ以上は体と脳のギャップに耐えられない。それでもまだ、続けるってのか?」


 その問いに、最期の意志を振り絞るように、メアが応えた。


「今回は、かなり良い所まで行った。さらに、舞がループ構造を知った。……ならば、次こそは運命の先へたどり着くはず」


 沈黙ののち、呆れたような吐息が漏れる。


「胸糞悪い話だ……A計画。そのために、もう一度、彼女を殺さなければならないとはな」


 その言葉に、既に返事は返ってこなかった。


「さて……世界が終わる前に、一杯だけ飲むとするか」


 士郎は、コックピットに持ち込んでいた酒を口にする。

 背後では、ファルファラによって、静かに――しかし確実に「世界の終わり」が広がり始めていた。


「次で最後か……その時は、最高の日本酒を持ち込むことにするか。もっとも――飲まずに済むに越したことはないのだが、な」


 歪み、崩れ、広がっていく終焉。

 それはやがて士郎の乗る『ヤマタノオロチ』を包み込み、

 抵抗も許さぬまま、すべてを覆い尽くす。


 そして――

 世界そのものを、飲み込んで消滅させた。


 これは、終わりの始まり。

 ループする物語の、最後の一回を描いたものである。

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