第二章 封鎖区画の調査
前回は列車の爆発で謎が深まりましたが、今回はさらに核心に迫ります。
封鎖された区画で何が起きたのか……フィオナたちの推理をぜひ一緒に追ってみてください!
ルミナリアは速度を落とすことなく、青とオレンジの光粒を尾に流しながら疾走していた。爆発した場所より前方の一角は厚い隔壁と封鎖用の魔法障壁で完全に区切られ、時折、焦げた匂いと微かな煙が漏れ、空気にはざらつく魔力のノイズが混じっている。
「ほら見ろ、完全に閉められておるではないか」
ノアールが尻尾をぱたぱたさせる。
「何がだめなのだ! 我はただ、ちょっと覗き見たいだけなのだぞ」
「あのね、それが一番怪しいの」
「むぅ……好奇心という名の探究心を否定するとは、嘆かわしい」
「あっ、でも、こっち側からなら……」
フィオナが指差す。
「おぉ、大人しく帰るのか」
「…え?帰らないよ!」
「そっちは来た道じゃ」
「……あ、そっか」
ノアールは呆れたようにため息をついた。
「方向音痴以前の問題じゃな」
そんな押し問答をしていると、背後から落ち着いた低い声が響いた。
「……何を騒いでいる」
振り返ると、白髪のような銀髪のような髪に黒の筋が混じった長髪を後ろで結び、眼鏡越しにこちらを見ている男が立っていた。
「あれ、フェルナーじゃない」クロエが笑みを浮かべる。
「おや、クロエか。ずいぶん派手な登場だな。現場の空気が一段とうるさくなった」
「それ、褒め言葉として受け取っておくわ」
「好きにしろ」フェルナーは肩をすくめる。
「で、そっちは……また面倒事に首突っ込んでる最中か?」
「そっちはどうせまた現場で機械いじって遊んでたんでしょ?」
「遊びじゃない、仕事だ。……まあ似たようなもんだがな」
軽口を交わしていた二人だが、クロエが視線を炉心区画の奥へ向ける。
「今回の爆発、普通の事故じゃないかもしれないの」
「……普通の事故じゃないかもしれない? どういうことだ?」
「さっき残留魔力を見たの。そしたら腰まである長い髪の誰かが何かを抱えて走り去ってた」
「誰かが?」フェルナーが繰り返す。
「で、中を調べさせてもらえない?」
フェルナーは少し目を細め、何かを考えているように黙り込む。
「すまんな、関係者以外立ち入り禁止だ」
「おお、フェルナー、こちらのお嬢さん達は?」
年配の技師が歩み寄ってくる。
「昔からの知り合いですよ」フェルナーが答える。
「クロエ・マルヴェール、技術者兼魔法調査員です」
「フィオナ・クロフォード、探偵です」
「えっ、探偵だったの?!」
「最初に言ったでしょ?」
「聞いてないわよ?!」
「言ってないな」ノアールが尻尾を揺らして口を挟む。
「あら?」フィオナは不思議そうに首を傾げる。
「探偵なら調査してもらったらどうだ。金は出せんが、腕は確かなんだろ?」
「え、えぇ、もちろん!」フィオナが即答する。
その元気な声にクロエが小さく笑い、手にしていた甘い飴をポケットにいれるのを見ていた。
「……分かった。中に入れてやってくれ」フェルナーが衛兵に指示し、衛兵が封鎖を解いた。
⸻
歩きながら、フェルナーが話し始めた。
「本来、この区画は許可なく立ち入りできない。だが今回の爆発で責任者が負傷してな。臨時で私が対応を任されている」
フェルナーは説明を続ける。
「ルミナリアは魔力で浮上し、機械機構で推進するハイブリッドだ。事故が起きた際には魔法と機械の力で爆発の影響を最小限に抑え、走行を維持できる。だから今もこうして走り続けられている」
フィオナは短く頷いたが、その手にはいつの間にか小さな菓子包みが握られ食べられるタイミングを待っていた。
「……今、それ食べるのか?」ノアールがじとっとした目を向ける。
「こ、こういう時こそ糖分が大事なの!」
「ふむ、一理ある」
ただ、今ではないという視線を隠さなかった。
「俺は魔力炉の修理にかかる。調査は任せた。声の届く範囲で頼む」
「了解」フィオナが返し、壁や床の痕跡を見て歩く。
⸻
通路の先、炉心部へ続く最後の障壁が解けると、重厚な台座を囲う結界膜がぱっと薄くなる。通常なら眩いコアの光が中心に宿っているはず——だった。
「……ない」
フェルナーが息を飲む。
「コアが……ないぞ!」
その声に、後ろの衛兵と補助員たちがざわつく。
責任者格の技師が青ざめて叫ぶ。
「コアがないと……列車は制御できない! 暴走するぞ!」
フェルナーの目が一瞬だけ揺れ、短く息を吸った。
クロエがフィオナに視線を投げ、小さく頷く。
「……少し時間をちょうだい」
「何をする気だ?」フェルナーが尋ねる。
「残った魔力の映像を引き出す魔法で、事故の前後に何があったか見られるわ」
「そんなことをしてる場合じゃ——」
「すぐ終わる」クロエは腰のポーチから掌サイズの砂時計を取り出し、魔法陣が薄く刻まれた床の上にそっと置いた。砂の多い方を下にして、両手で一度、静かに息を整える。
そして短く唱える。
「リヴァース・クロニクル・グレイン」
瞬間、砂時計の周りに淡い光がふわりと灯り、青とオレンジの粒子が舞い上がる。砂は逆向きに流れ始め、結界膜の内側、台座の上に“過去の残響”が像を結んだ。
映ったのは、白髪のような銀髪のような髪が光を受けて揺れる人物。その人物は台座からコアを持ち上げた……ように見えるが、何をしているかは魔力が乱れてよく分からない。
「何をしてるんだろ」フィオナが呟く。
映像はそこで途切れた。クロエは砂時計を回収し、結界膜の縁に指先を当てる。
「残留魔力は強い。プロの術式」
「ねえフェルナー」クロエが呼びかける。
「電磁結界の層、いつもより一枚多い? 応急で重ねた?」
「応急だ。爆発で一部が死んだ。上書きして持たせている。……長くは保てん」
「了解。じゃ、私たちは一旦ここを離れて聞き込みと足取りの確認を」
「助かる」フェルナーは工具箱の留め具を外し、計器を接続する。その手元から、金属の付け外しの乾いた音、締め付けを緩める低い軋み、そして空気の中に小さく波打つ魔力のざわめきが、間欠的に聞こえてきた。
退室の前、フィオナは台座にもう一度目をやる。
思考の端で、窓外へと流れる光の帯を意識する。ルミナリアはなお、滑らかに、だがどこか焦ったように走り続けている。
「行こう」
「うむ」ノアールが肩に跳び乗る。「我の嗅覚に、今度こそパン以外の手掛かりを期待するがよい」
「……期待してる」
二人と一匹は足早に区画を後にした。背後では、予備系統の低い唸り音と、青とオレンジの粒子が結界膜に沿って淡く流れる光だけが、静かに状況の切迫を告げていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
フェルナーが登場して、事件のスケールも少し広がってきました。
次はいよいよコアをめぐる謎が本格化します。どうぞお楽しみに!




