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プロローグ 揺らぐ始まり+第一章 魔道列車ルミナリア

はじめまして!ioriです☺️

初めての長編投稿になります。

魔科学×探偵×ちょっとした冒険ファンタジーを目指して書いてみました。


探偵フィオナと黒猫ノアールの掛け合いや、

「黒幕は誰なのか?」というミステリー感を楽しんでいただけたら嬉しいです!


では、本編どうぞ!

──あの日、私はこの物語の本当の黒幕は自分だったのだと知ることになった……


 夜の空気は、張り詰めた糸のように冷たかった。

 光を落とした整備区画の一角で、長い髪の女性が無音のまま佇んでいる。腰まで届くその髪は暗がりに溶け、顔立ちや髪色を判別することはできない。ただ、小柄な肩の線と、落ち着いた立ち振る舞いが、彼女が女性であることを示していた。


 彼女の足元には、巨大な魔力結晶——ルミナリアの心臓部たる「コア」が鎮座している。

 女性はそれを抱え上げ、静かに息を吐いた。


「……あの結末は、変えてみせる」


 彼女はすぐそばの装置へと手を伸ばし、同じ形状の結晶をそこへ収める。

 本物と見分けがつかないその結晶——だが、内に宿す魔力は比べものにならないほど乏しい。


 コアを覆う保護膜が静かに閉じられると、女性はコートの裾を翻し、闇へと溶けるように姿を消した。


⸻


第一章 魔道列車ルミナリア


 昼下がりの街は、陽光と人の声で満ちていた。

 石畳の大通りを、馬車や自動魔導車がゆるやかに行き交い、街角には露店の呼び込みの声が響く。

 その一角、古びたレンガ造りの建物の二階に「フィオナ探偵事務所」と金文字で書かれた看板が掛かっていた。


「……で、この依頼、本当に受けるの?」

 机の端で尻尾を揺らしていた黒猫ノアールが、ひときわ古風な響きで答える。

「うむ、受けねばなるまい。世に必要とされる者は、呼ばれた時に立つものぞ」

「呼ばれたって……まだ詳しい内容は聞かされてないんだけど」

「詳細は現地で明かす――それもまた依頼主の趣向というやつじゃな」


 フィオナは地図を広げて確認しようとするが、方角がいまいち分からず首をかしげる。

「えーと、北は……こっちで合ってるよね?」

「そっちは東じゃな」

「……あ、そうか」

 ノアールはため息をつき、前足で正しい方向を指し示す。

「探偵が方向音痴とは、前途多難じゃのう」

「いいの、現場に着けばなんとかなるし!」

 その自信は、どこから来ているのか本人にも分かっていない。


 ノアールはくるりと背を向け、窓辺に飛び乗った。

 外の通りの向こう、遠くの高架を一本の光が走るのが見える。

 青とオレンジの粒子がきらめき、空中を一直線に伸びていた。


「あれが、噂の新型魔道列車《ルミナリア》か」

「そう。せっかくだから、これで現地まで行こうと思って」

 フィオナは帽子を手に取り、上着の襟を整える。

「うむ、道中の景色も楽しめよう。…それに、あれに乗ればパンの旅もできる」

「……パンの旅って何よ」

「むしろ、甘味の旅と呼ぶべきかもしれん」

 フィオナは一瞬だけ、机の引き出しに隠してあるクッキー缶のことを思い出し、無意識ににやけそうになる。

 しかしノアールの視線に気づき、慌てて咳払いでごまかした。


⸻


 駅のホームに立つと、ルミナリアは思わず息を呑むほど美しかった。

 流線型の車体は金属の滑らかさと魔法紋の柔らかな輝きを併せ持ち、加速時には青とオレンジの光粒が車体を包む。

 動力は魔力と科学の融合——魔力で浮上し、機械機構で推進するハイブリッド。

 それは「未来」と「幻想」を同時に体現する存在だった。


 乗り込んだ車内は広々としており、座席の背もたれには魔法陣が刻まれ、乗客の疲れを軽減する仕組みが組み込まれている。

 フィオナは窓際の席に腰を下ろし、ノアールはその隣の座席で器用に丸くなった。


 やがて発車の合図が響き、ルミナリアは音もなくホームを離れた。

 窓の外では魔力の光路が流れ、都市の屋根が次々と後方へ過ぎ去っていく。


「いやぁ…実に見事な造りだのう。この揺れなき滑らかさ、車窓に映る風景の移ろい…」

 ノアールが窓に前足をかけ、感嘆の声を上げる。

「……そして、この香り!」

 耳がぴんと立ち、視線が通路の向こうへ吸い寄せられる。

 軽食ワゴンの車掌が近づいてきており、焼き立てのパンの香りがふわりと漂ってきた。


「フィオナよ、我輩は決して食いしん坊ではない。だが、あのパンは義務として味わうべきだと思うのだ!」

「……義務って何よ」

 仕方なく銀貨を取り出し、二人分のパンを注文する。


 袋を抱えて満足そうなノアールを横目に、フィオナは手帳を開き、依頼のための資料をざっと眺めた。

(今日は事件なんて起きず、このまま終点まで行けたらいいんだけど)

 そう思った瞬間だった。


 ——ドォン!


 車体が大きく揺れ、天井の照明が一瞬だけ明滅する。

 客たちの悲鳴が響き、数人が座席から投げ出された。

「爆発音…! 列車の前方だ!」

 フィオナは立ち上がり、ノアールを肩に飛び乗らせる。

「ふむ、あの響き…魔力の揺らぎも感じるぞ。普通の事故ではないな」

「だろうね。行くよ!」


⸻


 爆発の現場には煙の匂いと、焦げた魔力の残滓が漂っていた。

 その場に、掌サイズの砂時計を手にした若い女性がいた。短めの茶髪を後ろで無造作にまとめ、額にはゴーグル。腰には工具ポーチを下げている。


 彼女は砂の多い方を下にして砂時計を地面へ置き、短く呪文を唱える。


「リヴァース・クロニクル・グレイン」


 淡い青とオレンジの光粒が舞い、砂がゆっくりと逆流を始めた。

 砂の中に揺らめく像——腰までの髪、小柄な肩、おそらく女性。何かを抱えて素早く視界の外へ消えていく。


 女性——クロエはふと顔を上げ、フィオナに気づき、わずかに目を見開いた。

「……これ、あなたに似てない?」

 しかしすぐに眉をひそめ、「でも服装も違うし……ごめんなさい」と小さく頭を下げた。


「これって、この場所の過去の記憶? 私はここに来たのは初めてだし、私じゃないよ」

 フィオナはそう答え、視線を砂時計に向ける。

 不思議そうに見つめるフィオナに、クロエは一呼吸おいて名乗った。


「私はクロエ。魔導調査局の技術班よ」

「フィオナ。こっちはノアール」

「……猫?」

「猫だ。パン好きのな」

 ノアールは胸を張り、誇らしげに言った。

ここまで読んでくださりありがとうございます!


フィオナとノアールの旅はまだ始まったばかり。

次回から本格的に事件が動き出しますので、お楽しみに✨


感想や応援コメントをいただけると、とても励みになります!

どうぞよろしくお願いします☺️

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