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第6話

 ――ふざけるなよ。

 狙いはオレたちのはずだ。

 なのに、なのに街一つ、そこに住む連中まで巻き込みやがって。あまつさえ、テメエら人をなんだと思ってやがる。


 ――テメエらみてえなヤツらがいなくならないから、世界は……人々はいつも勇者だの英雄だのを必要としなきゃならなくなるんだ。


 ――脅かされる者たちの辛さや苦しみが、テメエらに分かるか。自分たちじゃどうしようもない、下らねえ伝説やお伽話に縋らなきゃならない惨めさが分かるか!?


 ――分かるわけねえ。分かるわけが、あるわけねえ。

 そんな、テメエらみてえのがいつまでもいつまでも……いつまでもいやがるから、オレは……オレは――!!



 ロイツォーンの巨体がベイクと共に床へと沈み込む。

 そのために生じた地鳴りが鳴り止まぬ内にも、それの体表から滲み滴り落ちた粘液が床へと落ちた瞬間じゅうと焼け石に水を掛けたような音が響いた。


 見てみると漆黒の床に粘液が染み入り、そこを泡立てていた。強い酸性かそれに近しい性質をそれは持っているらしい事が分かる。


 体表に寄生している無数の蟲と共に、ロイツォーンは粘液を洪水が如き勢いで全身から噴出。一帯をあらゆるものを溶解せしめる魔の液体で浸し、下敷きにしたベイクを確実に抹消せしめようと企んでいるのであった。


 闇夜の空間に異臭と異臭を含んだ赤い霧が立ちこめる。その霧にすら、接触したものを腐食させ痛ませる毒性があった。


 毒の海と化した空間内にて、ロイツォーンはその巨躯を蠢かせ鎌首をもたげたその頭部を振りかぶっては天井に輝く唯一の星座、己の王座がある故郷を仰ぐ。


 ――人の世のなんと脆弱なことか。

 闇の世の、偉大なりし神々が時よいざ、いざ――


 ロイツォーンの体表から剥がれ落ちた一部の蟲もまたそれに寄り添うようにしながら鎌首をもたげ、頭部に浮かぶ人面の口を開閉させ何か言語化できない声か音で謳った。


 星宿の主とその眷属らの触手が踊り、眷属の奏でる歪だが清廉な謳が厳かに流れる――


「――テメエ、ナメてんじゃねえぞ」


 じゅわじゅわと魔の海の底が照らされ、沸騰を始める。

 粛々とした雰囲気を台無しにするその出来事に、何事かと困惑するように己が星を見上げていたロイツォーンの頭が垂れ、自らの巨躯を向く。しかしそれは感じていた、熱と込み上げてやって来る力の感覚を。


 刹那、急激に熱された毒液は爆発を生じさせ、灰色をした毒の霧が辺り一帯を埋め尽くした。水蒸気爆発である。


 何ものの視界を阻む毒霧を再びの爆発と衝撃が引き裂き、そこにロイツォーンの巨体を担ぎ上げてた、紅蓮の炎が形作る異形の姿があった。


 一対の角は天へと向けて捻れながら伸び、鋭い眼孔と牙を携えた髑髏が吐き出す吐息は正しく火炎。そしてそれは無数の節で繋がった長い尾を揺らし、六対の炎の翼をその背に揃えていた。


「ぬぅ……ぁぁあっ」


 炎に焼かれるその異形は大きく開いた(あぎと)の奥の燻る炎を赤らめながら、野獣の如き雄叫びを挙げ、背に携えた翼が広がり炎の噴射と化すと浮上して行く。


 そしてロイツォーンを持ち上げる両手に備わった鋭い爪をその体表へと深々食い込ませた異形は、燃え上がる両腕を振りかぶり、再びの咆哮を轟かせながら遂にはそれの巨躯を投げ飛ばした。


 何処までも広がりを見せているように見える空間であったが、限りは有るらしい。投げ飛ばされ闇に隠れた壁面へと激突したロイツォーンはその巨体を力無く己が満たした毒の海の中に沈める。


 その様を宙に浮いたまま見下ろす異形はゆっくりと右手を持ち上げると、かつての異界への旅で知った侮蔑を意味する印をそこに結ぶ。


 握り締めた拳から唯一、中指のみを突き立てたその印を苦しみ身悶えているロイツォーンへと突き付けた異形は言った。


「――ざまァ、みやがれ」

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