表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍神の詩7 - 嵐雨の銀鈴  作者: 白楠 月玻
七章 霧雲
38/79

七章四節 - 炎狐の意志

「そう、か……」


 とっさに良い言葉が思いつかず、絡柳(らくりゅう)はそうつぶやいた。


「お前を楽にしてやりたい、お前を守りたいという気持ちは本当なんだがな。中州のためにも、乱舞(らんぶ)のためにも、お前のためにも――」


「申し訳ありませんが、余計なお世話、です」


 与羽(よう)の口調は丁寧だったが、そこには明確な拒絶があって――。


「弱ったな……」


 思わずそんなつぶやきが漏れた。


「少しでもお前の気を晴らしてやりたいが、どうすればいいか全くわからない」


「私自身にも最善手が思い浮かばないのに、先輩にわかるはずないじゃないですか」


 与羽の言葉は冷たい。


「自分にも、わからないのか……」


 絡柳の言葉に、与羽は浅くうなずく。


 容姿が違うことは大きな悩みだ。

 しかし、龍の血を継ぐ自分の姿かたちには、誇りを持っている。なのに、それを心から好きでいられない。

 人から奇異の目で見られるのが怖い。誇りであるはずの龍の血を受け入れきれない。


「与羽」


 辰海(たつみ)がやさしくその名を呼んだ。


「あんたにも私の気持ちの全部が理解できるとは思わん」


 与羽はそれに冷たく応じる。

 なぜこれほどつっけんどんな態度をとってしまうのか、自分でもよくわからない。理解できないにもかかわらず、理解しようと話しかけてくる彼らに嫌気がさしているのだろうか。


「そうだね。君が話してくれればある程度はわかるかもしれないけど、全部は難しいかも」


 辰海は口元に困ったような笑みを浮かべた。


「だから、代わりに僕の気持ちを話すよ」


 そう言って、辰海は絡柳に軽く目くばせする。

 絡柳は片眉をあげてそれを見た。辰海が淡く笑んでうなずくと、彼の意図を察した絡柳が立ち上がる。


「あとは、任せるぞ」


「はい」


 隅に控えていた竜月たちを引き連れて、絡柳が部屋をあとにする。残されたのは与羽と辰海だけだ。


「与羽」


 辰海はもう一度呼びかけた。


「…………」


 与羽は再び黙り込んでしまっている。しかし、辰海はそれを気にせず話しはじめた。


「僕は今結構怒ってる。もちろん君に対してじゃないよ。君を傷つけるようなことをする奴らに、ね。もしかしたら、そこに僕や先輩たちも含まれるのかもしれないけど、一緒だ。君を傷つける奴はみんなむかつく」


 いつもより少し汚い言葉遣いになっている自覚はあったが、気にしない。


「君をこんなに苦しめて、嫌な思いをさせて――。君を泣かせるような奴なんて、みんな消してしまいたい。ううん。君が望むなら、いくらでも消してあげる。古狐(ふるぎつね)は城主一族の望みをかなえるためにいるんだから。

 まぁ、城主一族が道を踏み外した時にそれを諌めるのも、僕たちの仕事なんだろうけどね。たぶん、僕にそれはできない。どれだけ道に外れた行為で手を汚すことになっても、君が望む世界を作ってあげる。まぁ、今の君がそんなこと求めてないのは分かるよ。これは、君が本当につらくなって、何もかもがどうでもいいってなった時の話。

 僕に君の気持ちを全部理解することはできない。でも、つらくなったらいつでも言って。何でもしてあげる。黒羽(こくう)も中州も何もかも関係ないところで、ひっそり暮らすのもいいかもね。誰とも付き合わずに、山奥で――。誰にも姿を見られることなく、誰にも傷つけられることなく」


 今の与羽がそんなことを望んでいないのは分かっている。それでも、もし与羽が耐え切れなくなったとき、辰海は迷いなく今言った通りにするだろう。


「…………」


 与羽はわずかに顔をあげて、辰海の様子を見た。泣いているのかと思ったが、与羽の目は乾いている。そこには、予想外に強い光が宿っていた。

 しかし辰海もやさしく穏やかでありながら、ゆるぎない瞳で見返す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ