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英雄にはならなかったとある冒険者  作者: 二月 愁
第二章 止水の舞姫
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第二の神装 1

お待たせした上に、かなり短いです。

しかも次回まで延期するという……全然書けない。

困ったな……

 唯一誇れる無駄な魔力量を左手に握る大太刀に篭め、そのまま一気に水平に振り抜く。

 身体がボロボロということもあり、その大太刀の重さに思わずバランスを崩しそうになる。


「うぐっ……」


 大太刀に引っ張られる身体を無理やりこらえたために思わず声が漏れる。だが耐えた甲斐もあり、空間を歪めるほどの熱量を誇る爆炎が地を這うことしか許されなくなった黒龍の動きを一時的に止めてくれる。

 その様子に安堵の息を漏らすしてると――――。


「マフユーーっ!!」


 背後から相棒の歓喜に満ちた声が聞こえてきた。

 いつもなら弾丸のようにぶつかってくるが、満身創痍の俺に気を使ってかフィンはふわりと俺の右肩に乗り、頬に寄り添うように体重を預けてくる。


「……悪いな。心配かけたか?」


 相棒の温もり、そしてその小さい横顔を伝う滴の熱を感じてしまうとどうにも罪悪感にかられてしまい、思わず謝罪の言葉を紡いでしまう。


「ううん。大丈夫だよ、だってマフユはどんな相手でも勝っちゃうもん!」

「ははは……、そんな信頼されてるとはな」


 相棒のその言葉に思わず空笑いを浮かべてしまう。

 確かに過去の俺ならその信頼に応えるには十二分な力があっただろう。だが今はその力の半分もない。そんな状態で目の前の翼を失った黒龍を倒せる気がしない……そうさっきまではそう思っていただろう。だが今は違う。


「はい……ここにいる私たち、そしてレイアードさん、みんなマフユ様を信じています」


 折れて感覚を失っていたはずの右腕が突然暖かい何かに包まれ、そのやわらかい感触を確かに感じた。チラッと視線を向けると今の俺と同じように燃えるような真紅の髪をした少女が動かない腕をいたわる様に優しく抱きかかえていた。


「ルナ……」

「ごめんなさい……。ここに来ても足手まといにしかならないと理解していたのですが、どうしても来たくて来てしまいました」


 俺が愛しそうにその名を呼ぶと、ルナは俯き謝罪の言葉を述べた。

 その頬を止めどなく濡らす滴を見て、俺は本当に愛さていて幸せだなと実感する。大太刀を地面に差し、空いた左の指先でそっと涙を拭ってやる。


「来てくれてありがとな。助かったよ」


 俺の正直な気持ちをルナに言葉として伝える。本当は抱きしめたいのだが、いかんせん身体が血で濡れておりこんな状態ではルナを不快にさせてしまう。加えてこれ以上左腕を大太刀の柄から放しておくのもいい判断とは言えない。

 しかしそんな俺の判断を無視するように血だらけの俺にギュッとルナは抱き着いてきた。


「る、ルナ?」


 するのと、されるのでは違うようで俺はあからさまに狼狽する。


「すみません……でもこのほうが治癒魔法をかけやすいので」


 その言葉でこれが治療行為だとようやく気が付く俺。確かにルナがそうしてくれた途端に身体の気怠さが和らぎ始めている気がする。

 なんとなく気恥ずかしい気もするが、これはあくまでも治療行為だと俺は自分に言い聞かせる。そんなよく分からない葛藤を繰り広げながらルナを見ると彼女は俺の胸に顔を埋めている。そのせいで表情が見えないのだが、耳が赤くなっているところから推測するに彼女も気恥ずかしさを感じているのだろう。

 なんとなく同じ気持ちでいることにうれしさを感じてしまう。


「あらあら、お熱いわね。なんか羨ましいわ……」

「……フィリアーナ」


 フィリアーナのおどけたような、でもどこか本心を感じさせるような声に釣られ、視線だけ彼女の方に向ける。

 その紫色の髪は相変わらず艶っぽく左肩から垂れ流され、その踊り子装束は彼女の褐色で豊満な肢体をこれ以上なく色っぽく際立たせている。

 ここまでかなりの魔物を屠ってきたということをその返り血の量がありありと物語っているのだが、なぜだかそのグロテスクさでさえも彼女の魅力の一つであるかのように視線を奪われそうになってしまう。


(疲れてるんだろうけど……なんか生き生きとしてるよな。まあそれがフィリアーナらしさなんだろうけどな)


 多少の呼吸の乱れが疲労を感じさせるのだが、爛々と輝く瞳が疲れてなどいないといっているかのように見えてしまう。


「……あくまでも治療の一環だよ」


 気恥ずかしさを覚える心とは裏腹に肩を竦めて見せる。幸か不幸か、出血のおかげで顔が赤くなる心配はないから照れているようには見えていない……と思う。

 現にフィリアーナも、ふーん、と納得してくれたようだし。

 そのことに心の中で安堵の息を漏らしていると、不意に放たれた言葉に思わず耳を疑った。


「……えっと、今なんて?」


 呆けたように聞き返す俺にフィリアーナは恥ずかしそうにしながらも、どこか嬉しそうにもう一度その言葉を発した。


「それなら、私が貴方に口づけするのも補助サポートの一環として許容されるわよね、って言ったのよ」

「……全くもって理解ができないのは俺が鈍すぎるのが原因ってわけじゃないよな?」


 俺とフィリアーナが口づけを交わすのが補助サポートの一環?いや、確かにこんな美女とそういうことをすればやる気も出るかもしれんが、それはどうなんだ?と訳のわからない問答を心の中で繰り返す俺。

 知らぬ間に思索の海に溺れそうになっていたが、不意に身体を包み込む暖かさの感触が強くなったことでハッと我に返った。

 視線の先にいるのは真紅の髪をした婚約者であるルナ。


(そうだっ!俺にはルナがいるんだし……多少残念には思うが断らないと、な)


 己の業の深さに多少辟易としながらも、ルナのことを理由にその魅惑の提案を断ろうと口を開こうとした矢先、俺よりも早くルナが口を開いた。


「フィリアさん、それじゃあマフユ様も困ってしまいますよ。ちゃんと理由を説明しないと」


 あれ?と俺は首を捻る。

 ルナのおかげで身体の痛みが和らいでいたが、それでも多少は痛いはずなのに、なぜかそれを感じない。それほどまでに俺は混乱している。


(……まるで口づけを容認しているような、というかすることが前提の言葉に聞こえたのは俺の気のせいか?)


 そう思い、もう一度ルナの言葉を思い出す。

 ……うん、やはり俺とフィリアーナの口づけは確定事項にしか聞こえない。いや、別に嫌じゃないし、むしろうれしいと思ってしまうのはやはり男のさがなのだろう。だが、婚約者であるルナにそれを容認されているというのはどうなんだ、と疑問にも思う。

 そんな葛藤とでもいえるべきことをしていると、フィリアーナが、そういえばそうね、と言いたげな表情を浮かべた。


「姫巫女としてあなたの力を取り戻す補助サポートのためよ。そのためにわが女神・ミネルヴァからもそのまりょくをいただいてきたから。それをあなたに渡すために必要な儀式」


 そういえば今纏っている神装(このちから)が戻った時もルナの口づけのおかげだったな、と思い出しつつも、若干苦い顔になってしまう。

 そしてそんな俺の表情を見て、フィリアーナはかぶるを振る。


「確かに姫巫女としての役割を全うするための、って意味もあるわ。だけど、それ以上に私が、その口づけしたいって思うからするのよ。だからそんな表情かおしないで」


 そう言い切ると、フィリアーナは滑らかな動きで俺に歩み寄り、ルナのいない左側から抱き着きながら唇を重ねてきた。

 ルナとは違った、甘く成熟した女性の香り。そしてその確固たる存在感を放つ肉体の柔らかさ。

 両サイドから別々の美女に抱きしめられるというかつてない経験に思わず思考が停止する。

 そんな状態とは裏腹に、口から身体の中に力強い確かな魔力そんざいが流れ込んでくるを感じた。それは懐かしく、遠い日の力。


"全く、君はいつからそんな女たらしになったんだ。嘆かわしいぞ……"

(そんなつもりはないんですけどね……)


 懐かしき戦女神の、呆れたような叱るような声に苦笑いを浮かべ否定をしつつ、頭の奥底で眠っていた聖句を一字一句噛み締めるにしながら呟いた。


「知と武を極めし都市の守護者よ、盟約の元に氷の鋳薔薇イバラを築き、死者への手向けとして華を咲かせ、我に降りて我が身を纏え――――ミネルヴァ」


 俺の聖句が唱え終わるのを待っていたかのように、黒龍はその身を捕られる爆炎を怒りの咆哮で霧散させ、知性と野生がせめぎ合う瞳でこちらを睨む。

 しかし、その瞳に移る俺の姿は先ほどまでの俺ではない。姿、格好の変わった俺に多少の戸惑いを見せる黒龍だが、そんなもの関係ないとばかりに大きく遠雷のような咆哮を今一度上げる。


「……さあ、これで終わりだ」


 怒気に満ちた黒龍とは正反対の、どこまでも冷たく感情のないアルト声が俺の口から紡がれた。







 純白無垢な濃霧とでもいうべき、魔力が吹き荒れ周囲を覆い尽くす。

 灰塵と化した灰色の大地には青白い彫像のような荊が無数に生え、そこから青い薔薇の華が美しく咲き誇る。

 一言で表すならまさに、氷の世界。

 そんな青い薔薇の楽園の中心に、いくつかの女性のようなシルエットが浮かぶ。

 空を飛ぶ妖精の少女はその懐かしい光景に目を細め、真紅の髪をした美少女はその美しい空間に驚き言葉を失う。

 もう一人の紫色の髪をした褐色の美女は周囲を包む、己の女神に近い魔力に心地よさを感じつつ、自分とはけた違いの魔力の余波にやはり驚きを隠せていない。

 そんな驚く美少女・美女に挟まれる格好の女性寄りの中性的な顔立ちをした者は己の姿・格好を不思議そうに、だが懐かしそうに眺めている。


 梟の羽を模したような両刃の直剣に氷のような金属でできた丸盾。

 青を基調とした軽鎧ライト・アーマを身にまとい、左側にいる美女のような紫色の髪を三つ編みにして背中から垂らしている。

 そんな己の格好を一しきり確認して、ふぅー、と色っぽさのあるため息を白くさせながら空に向かって吐き出した。

すごく関係ありませんが、新しい小説を投稿し始めています。

タイトルは幸せな人生を異世界に求めるのは難しすぎる、です。

三人称で書いてるのでこちらとは違った作風になってるかと思います。

よければ読んでみてください。

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