第一の神装と女神ヘスティア 3
これで第1章完結です!
次回からは第2章です、かなりハチャメチャな展開になってる予定(笑)
俺たちの帰還報告から城は一瞬で騒がしくなった。
今城ではオーフェンに住む貴族や重鎮たちを集め、緊急の会議を行っている。その理由は言わずもかな、冥界の神の魂の欠片の封印が破壊されてしまったことが原因である。
「これからどうなるのかな?」
机の上にちょこんと座りながら、椅子に座る俺に心配そうな視線を送るフィン。
「さあな……ただこの国で俺たちができることはもうないからな」
頬杖をつきながら窓の外の景色を見ながら答える。
実際、旅人といしての俺がこれ以上介入できる事態ではなくなっている。むしろ守護者の排除に、ルナの護衛と尽力の限りを尽くしたと言える。
もちろんその対価として報酬を頂けるとのことで現在俺たちは城に滞在している。ただ、事態が事態なので時間がかかるのだが。
「それもだけど……今回の件ってやっぱり……」
その憂いに満ちた瞳が指し示すモノ。それは他ならぬ俺の運命のこと。
「大丈夫だよ。ありがとな、フィン」
できる限り平静を務めて、頭を撫でてやる。しかし、俺の脳裏にはある二人の人物の顔が浮かんでいる。
(……今の俺にあの二人と争う力はない、な)
今回の件に冥界の者が関わっているのか、それとも今思い浮かんでいる二人が絡んでいるのかは分からない。ただ、少なくとも今の俺に後者と戦えるだけの力が無いのは確か。
「マフユ、顔怖いよ?」
考えているうちに体中に力が入ってしまっていたらしく、ポーカーフェイスも完全に崩れている。
「……悪い、ちょっと思い出しちまってな」
「無理はしないでよ……」
切に願っているフィン。事情を知ってるだけに、どうしても考えてしまうのだろう。
こんなに心配されている自分が幸せだな、とつくづく実感する。
「少なくとも今すぐってわけじゃないさ。だから、な?」
「そうだね……うん!それよりも次はどこに行こうか?」
俺の心情を読み取って、話題を転換してくれるフィン。ありがたくその提案に乗らせてもらう。
「そうだな……次は西でも行ってみるか。のんびりと歩きながらさ」
「そうだねー、でも花蜜は買ってね?」
「ああ、もちろん最高級のを、な」
そんな何気ない今後の予定を話していると、廊下が騒がしくなった。そして俺たちの部屋をノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
我が家のような対応をしたが、まあ文句はないだろう。失礼します、と言って入ってきたのは若いメイド服の女性だった。
「お休みのところ申し訳ありません。国王様がお呼びなのですが……」
「分かった……すぐに支度する」
そうは言うがたいしてすることは無い。せいぜい枯れ草色のいつもの外套を羽織るくらいしかないのである。一応剣も携帯するが、ほとんど意味はない。単なるお飾りでしかない。
部屋を出るとレイアードも呼ばれたようで待っていた。
「おはようございます、兄貴!」
「おはよ、相変わらず今日も騎士たちと模擬戦してたのか?」
「もちろんすよ!」
ここ数日、城から出ることもできずやることがなかったせいか、レイアードは毎日のように鍛錬場に赴いては騎士たちと戦っていたらしい。俺も一度赴いたが、全員に敬礼されるという何とも居心地の悪い体験をしたのでそれ以来行っていない。
「俺は強くなって今度こそ、弟子として兄貴と戦いたいんです!」
「別に今回だって十分活躍してくれたよ、お前がいなかったらヤバかったし」
「……でも俺が気絶している間に全部終わってましたし」
俺としては見られたくないモノを見られずに済んだので良かったと思っているのだが。それでもレイアードが活躍したと言うのも確かなので、苦笑いをせずにはいられないのだが……。
「中で国王様たちがお待ちです」
そんな他愛もない話をしてていると知らぬ間に国王がいるという場所についた。
その部屋の前の扉に覚えがあり、なんとなく嫌な予感がした。
(……"たち"で、しかもこの部屋ってことは)
何となく顔が引きつっているのは気のせいではないだろう。
今いる場所は玉座の間の前。ここでは連日、お偉いさん方を招いては話し合いをしていると聞いている。そして今日もその話し合いはしているはず。そんなところに呼ばれるなんて聞いていない。
「あれ?兄貴、入らないんですか?」
扉の前で固まっている俺を不審に思ったのか、レイアードが後ろから声をかけてきた。この能天気さは羨ましいやら、見習いたくないやら複雑である。
「はぁー、行くか」
意を決して扉を開ける。相変わらずの重厚感である。
入ると正面には、前回と同様に国王が座っている。だが、今回は国王と俺たちにあるレッドカーペットの両端に装飾過多な人たちがいると言うところか。
(……家と同じだな)
自己顕示欲丸出しな貴族たちにそんな感想しか抱けない。
もちろん向こうもきっといい感想は抱いていないのだろう、思いっきり負の視線を浴びる。漏れそうになるため息をグッと堪えて、国王の前まで歩みを進める。
そこで形式通りに跪くと、国王から声がかられる。
「待っておったぞ、マフユ」
「お待たせして申し訳ありません。それでご用件は?」
ほとんど棒読みの謝罪をして、さっさと本題に入ってくれと促す。
しかしいつものことながら反感を浴びてしまう。
「一介の冒険者風情が偉そうにっ」
「何様のつもりだ!」
「小汚い格好で恥ずかしくないのか!」
俺に向かって罵詈雑言が飛び交うが、すべて無視して国王の横に控える護衛にチラッと目を向ける。
そいつは肩を上下運動させながら下を向き、必死に笑いをこらえている。
(……本当にアレが騎士団長でいいのか)
もう罵る気にもならず、呆れるしかない。
「沈まれ!!この者は此度の件の功労者であるぞ、その者を侮辱するとは何事だ」
俺が呆れた目でルドルフを見ていると、厳かな声が部屋全体を包み込み、静寂が訪れる。
貴族たちを見やると、全員が苦虫を噛み潰したような顔で俺を睨む。俺を睨むのはお門違いだと思うのだが。
「すまんな、マフユ。気を悪くしておらぬか?」
「いえ、この程度気にもなりませんので」
そう言って恭しそうに頭を下げる。それに国王はホッとしたような表情を見せた。この反応を見るに、俺に厄介ごとが舞い込んできそうなのは確実である。
(……旅人は気楽でよかったな)
遠い目をしながら、現実逃避気味にそんなことを思う。せっかくフィンとこれからの予定を話していたのに台無しである。
「まずは、マフユよ。此度は本当に大義であった、国の代表としてもう一度礼を言う。ありがとう」
「お気になさらず。冒険者として依頼をこなしたにすぎませんので。それで先ほども申しあげた通り、御用とは?」
さすがに今回は罵詈雑言は飛び交わなかったが、睨みがきつくなった気がする。国王も若干苦笑い気味だし。
(だけど俺だってこんなとこすぐに去りたいからな)
こんな居心地の悪いとこなんてすぐにおさらばしたいので、ここは引かない。今さら引けないし。
「マフユ、お主には今回の件で助力を頼みたい。この世界を周り、今回の件の首謀者を突き止めてもらいたい。もちろん、依頼として要請するから断ってくれても構わん」
「なっ!」
その言葉は俺の中でだけでなく、周囲の貴族たちの口からも漏れた。
おそらく誰もが俺に命令すると思っていたのだろう、現に俺もそうであったように。しかし、依頼と言う形で告げられた。
「国王様、それは一体どういう意味ですかっ!?」
一人の貴族が声を荒げながらそう言った。
「言葉のままだ。この件は正直言って危険すぎる、それを強要することなど儂にはできん」
「ですがっ!」
「この者はこの国の恩人である。その者の自由を奪うほどの礼儀知らずになれと言うのか?」
国王にそこまで言われては誰も反論することはできなかった。
それと同時に俺には別の重責が背負わされた。
(……過去も未来も、この件には無関係とは言えないから腹を括るしかない、か)
覚悟を決めて、国王を見やると、端にルナが控えているのが目に映った。その心中はおそらく憂いで満たされているだろうと予測し、力強く頷いて見せる。
「分かりました。国王様、その依頼受けさせてもらいます」
「それは何よりだ」
はっきりと告げると、国王は心底安心した声を出した。周りの貴族たちは相変わらず嫌そうな視線を俺に向けているが、この際気になどしない。
これでとりあえず話は終わりだと思い、安心した矢先、国王からさらに衝撃の言葉が告げられた。
「実はここでのお主への用件は終わりなのだが、神託の間へお主を寄越すように先ほどお告げあった。そうであろう、ルナ」
それを聞いた瞬間、空間が凍りついたような気がした。
神託の間は、一般人など入れていい場所ではない、神聖な場所である。それこそ、王族にしか入室は許されていないと俺は思っている。
そして、その考えを裏付けるような言葉がルナから発せられた。
「はい。通常神託の間は王族の、ヘスティア家の血筋の者しか入ることは許されません。しかし、先ほどヘスティア様よりマフユ様を神託の間に通すよう御託がありました」
俺は失礼にも、王族なんだなと感想を抱いてしまった。そこにいつもの可愛らしい姿は見られず、凛とした佇まいの王女がいた。
その凛とした姿のおかげか、貴族たちは誰も反発の声も上げることができず、口をパクパクと開いたままだった。
「そういうことだ、マフユ。すまぬがこのままルナに付いて行き、神託の間へ行ってくれ」
俺は茫然としたまま、ルナに案内されるまま玉座の間を後にした。その際、レイアードも一緒に出てきたのだが、彼は神託の間には入れないらしく、そのまま部屋に戻っていた。
前を行くルナの真紅の髪をぼんやり眺める。いつものはどことなくオドオドした感じがあるのだが、今はやはりそれがない。頼りがいのある背中とはこんな感じなのか、と何となく思う。
(これは王族だからこそ見せられるオーラなのか、それとも純粋に潜在的なものなのか)
結論的に俺にはこの背中は見せられないな、と思ってしまう。自分のためにしか戦えない俺にはこの風格はありえない。誰かのために戦える背中だからこそ逞しいのだと思う。
そんなことを考えていると、前を行くルナが振り返ってきた。
「あの……マフユさん」
「ん?なんだ?」
そこにはいつものルナがいた。一瞬、あれ?と思ったがおくびも出さない。
「その……歩きながらで難ではありますが、あの時の"お姿"のことをお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、そういえば話すと約束していたね」
腰に携える剣の柄を肘置きのようにしながら、どこまで話そうか考える。
「無理とは言いません。ただ、ここは城の中でも一番防犯には優れた場所ですので……」
俺の考える素振りをどうやら勘違いしてしまったらしく、申し訳なさそうな顔をするルナに苦笑いをしながら否定する。
「違うよ、ただどこから説明しようかと悩んでいただけさ」
「それは失礼しましたっ!!」
その慌てふためく姿はやはりルナだな、と思いつつ、ポツリと話し始める。
「俺の苗字はやっぱり言えないんだけど、かつて勇者と呼ばれた者の一部は俺、かな」
ルナの息を飲む音が聞こえた。
確かに妥当な反応だと思う。かつて冥王を討った者の素性は一切世間には知られていないのだから。しかもその者がこんな奴だったらがっかりしてしまうのも頷ける。
「こんな奴があの勇者だとか笑えちまうような……」
「そ、そんなことありません!マフユさんはそれだけの人です!!」
頭を掻きながら嘲るようにそう言うと、俺に迫りながらルナがそれを必死に否定した。俺は思わずその行動と言葉に驚きを隠せなかった。
「そう言ってもらえて光栄だよ……ただ、」
「ただ?」
俺が言いよどむと、ルナがチョコンと首を傾げる。文字通り、俺の目と鼻の先で。
どう説明するのが適切か考えた結果、視線を逸らし、空いている手で困ったように頬を掻くしかできなかった。
「?……っ!す、すいませんっ」
最初は俺が言いたいことが分からなかったようだが、すぐに察してくれたようでバッと勢いよく離れてくれた。いつものように頬に朱を散らしながら俯いている。
「えっと……それで、だ。あの姿は冥王を討った力の一端ということかな。そういうことだから他言無用で頼む」
まだ赤いままだであったが、とりあえず納得してくれたようで力強く頷いてくれた。
「さて、と。それじゃ女神さまを待たせるのも悪いから案内頼んだ」
どの口が悪いなどと言っているのか、と十二神たちが聞いていたらそう言ったに違いない。
それから神聖な空気が漂う直線の廊下を、ただ何も考えずについて行くと、取っ手がない白亜の扉が見えてきた。一見すれば行き止まりにも見えるが、ルナは躊躇いなく進んでいく。そして扉の中央に手を翳す。
「……特定の人間しか入れないようになってるのか」
以前にも何度か見た光景が浮かび上がった。
白亜の扉に王家の紋章が浮かび上がり、そして扉はスーッと消えていく。
「中へお入り下さい」
ルナに進められるがまま入る。
部屋の中央には聖火台が設置されて、その奥には見慣れた人物の肖像画がある。それ以外は別段珍しい物は見当たらない。その聖火台にも火はくべられていない。俺たちがその聖火台の前に立ち止まると、井入口に再び壁が現れた。
ルナが一歩前に出て、祈りをささげる。すると、聖火台に急にオレンジ色の温かい炎が灯る。そして白い光が部屋全体を包み込む。
「ここは……」
瞑っていた目を開けた瞬間、飛び込んできたの見覚えのある光景だった。円形の床に、巨大な十二芒星の魔法陣が浮かび上がっている。その各頂点には円柱状の台座らしきものがある。
「神々の間よ。あなたが私たちと初めて会った場所」
「ヘスティア様、今一度お会いできて光栄です」
その声がする方へルナは祈りをささげる姿勢のまま、声を出した。
「ルナ、このたびは良くやってくれたわ。ありがとう」
対座の一つに光の粒が降り注ぐ。それは次第に形となり、女性の姿となる。
真紅の長い髪に、それと同じ色の瞳、柔らかくも美しい顔立ち。女神ヘスティアである。
そのヘスティアに感謝され、ルナはものすごく恐縮そうにしている。それを微笑みながら、見守るヘスティア。傍観する俺、完全に蚊帳の外である。
「ふふっ、そんな顔しなくても平気よ」
今まで俺に見向きもしなかった女神が急にこちらを見た。過去のことがあるので思わず、腰の剣に手が伸びてしまった。
「安心して、今回あなたに力を貸してあげたでしょ。それにこれはゼウス様の意向でもあるの」
「……どういうことでしょうか?」
「あなたが警戒するのも分かるわ。私たちは過去もそして未来もきっとそういう関係になってしまう運命だから。だけど今は力を貸すわ、あの者、冥界の神ハデスの復活は我々の望むとこではないから」
「なるほど、互いの利益のためということですね」
「そうなってしまうわね……」
申し訳なさそうな表情を浮かべるヘスティア。別にこの神々を恨んでいるということは一切ない。ただどうしても警戒してしまうのもまた事実である。
「まあ、俺としてもあなた方にかつての力を貸していただけるなら吝かではありませんね。今後を考えてもこの神器の力は必要でしょうし」
そう言いながら服の下からメダルを取り出す。
「そう言ってもらえるならよかったわ。ただ、ここで渡せるのは私の力だけよ。ほかの神たちも今はほとんどこちらの世界に干渉できないから」
「それはつまり……?」
「ええ、この地で起きたことがほかでも起きているということよ。だけどそれを起こしている者の正体は分からないわ」
「そうですか……」
あわよくば、と期待したがどうやら楽は許されないらしい。
「他の力を取り戻したいなら、ルナのような姫巫女たちに会いなさい。そうすればきっと力を戻せるわ」
「はぁー、分かりました」
「そういうとこは変わったわね。さて、とりあえず私の力を渡します」
そう言うとヘスティアは両手を前にかざす。そこからオレンジ色の炎が勢いよく放たれ、俺の持つメダルに吸い込まれた。そしてメダルにある紅の宝石はかつての輝きを取り戻した。
俺は跪き、一言「ありがとうございます」と謝辞を述べた。それを感心したように見ているヘスティア。
「そういうとこは成長したのね」
「……一応歳は取ったので」
「そうね……魔力も相変わらずのようだし。ただそれのコントロールがなってないわね、昔はもっとよかったのに」
それを言われて思わずウグッ、と言葉が詰まる。俺もそこはかなり凹んでいた部分である。
「そうですね……あれから枯渇の心配がなかったので雑になってました」
「みたいね。他を加味しても神皇魔法1度で魔力切れなんておかしいもの……」
「そう言われてしまうとぐうの音も出ませんね。それに呪いの影響も一応ありますし」
「……呪いの封はほとんど意味なかったようね」
「残念ながら……なので今は制御を何とかしている状況と言いますか」
この二人の会話を傍で聞いたいた少女は、頭に疑問符を浮かべながら首を傾けていた。
「そう……まあルナもいるからこの辺で話は止めましょう。さてルナ、あなたにお告げがあります」
ヘスティアは俺との会話を切り上げ、ルナの方を再び見遣った。
「これからあなたは姫巫女として、この者に同伴し、世界の異変を探りなさい」
「え!?し、しかし」
「大丈夫よ。この地の脅威は一応去りました。加護のことも安心しなさい」
俺はその会話の重要性がいまいち分らなかったが、とりあえず俺にとって重要なことが起こったのは確かだった。俺の旅にルナが同伴する。
(これは嬉しいやら……まずいやら)
一応ルナは俺の秘密の一端を知っている。ただ全てではない、残りの部分は色々と危ないものが多くあるし。
ただ、お告げとしてルナに言い渡されてしまった以上、この国も従うだろう。そこで断るのは難しい。
ルナ本人もお告げの以上嫌とは言えないだろうし。
(……ありがたく同行してもらうしかないか)
これからのことを考えると、今までなら頭痛でも起こしていただろうが、今は不思議と気分がよかった。
「それではこれにてお告げは終わりです。二人とも頼みましたよ」
世界のために今度こそ戦わなければいけないという重い使命を胸に、俺たちは元の神託の間に戻っていた。




