料理研究部同好会
今にして思うとセレブ設定はちょっと無理があったかなと後悔。でもいいもん、やってみたかったから。
オリジナル小説ってやっぱり難しいですね。(´・ω・)
白鷺学園の特色を挙げるとすればポイント制なるものが導入されていること。これは成績とは全くの別物で普通に過ごすなら気にするようなものでもない。
ただ、大半の生徒はこのポイント制を活用しているのが現実だ。というのもこのポイント制、学校行事や部活動、更には自主的な活動によって溜まるものでポイント毎に学園側から特典がもらえる。
クラス委員長の立候補、定期試験で上位に入る、大会で好成績を残す、体育祭で優勝する、新人漫画賞の受賞、エトセトラ……。
こうした自主活動によってポイントは溜まり、様々な特典と交換できる。その特典というのは部費の割り増しだったり学食を安くしてもらったり(これは俺も狙ってるがまだポイントが足りない)学校主催の夜会の招待券が貰えたり……まぁ大きく分けるとそんなところだ。中でもダントツ人気なのはさっき言った夜会。出席するだけで学園全体の注目を浴びるのは勿論だが、上手く取り入れば将来の取引先に……なんてこともある。もっとも、この招待券を獲得するには三百ポイントという高いハードルをクリアする必要があるから毎年、出席できる人間は一人か二人。それだけ、学校側主催の夜会は特別な場所なのだ。(因みにこのノルマをクリアするなら中間・期末でほぼ満点に近い成績を取らなければ無理と言われてるぐらい難しい)
そんな一風変わったシステムを導入しているせいか、ここの学園生たちは他校と比べると非常に自主性が高い。勿論、ポイントに興味のない生徒だっているけど半数の生徒(当然その半数の大半がセレブ)は夜会の招待券目当てに日夜ポイント稼ぎに必死になっている。勿論、最終的にポイントにしていい活動かどうかは理事長の独断で決めることだけど。
……とまぁ、つまらない話はこのぐらいでいいな。俺もこんな話してても面白いとは思わないし。
「ごきげんよう。弥生さん」
教室に入ってくるなり、耳障りの良い声が届く。うーむ、入学してから随分経つけど未だに彼女だけは慣れないんだよなぁ。さっきの挨拶といい、全身から滲み出るオーラといい……。
「弥生さん、どうしました?」
ほらな。俺が一人で勝手に悩んでいると親身になってくる。……いや、別に避けてたりとか嫌ったりしてる訳じゃないぞ? ただその、なんつーか……慣れないんだよな。彼女の仕草とか。
「あぁゴメン雫さん、おはよう。少しぼんやりしてたよ」
「寝不足ですか?」
「そんなところ」
彼女の問いかけに答えつつ自分の席に付く。
彼女は相原雫。いわゆる女友達ってやつだ。元を辿れば華族という何とも雅な経歴を持つ古風な家柄。現在は投資家として経済界を影から支えている……というのが周りの風評。生まれがどうこうってわけじゃないけど雫さんの育ちの良さは本物だ。あと、先に断っておくと彼女とは本当にただの友達だ。幼馴染みとか腐れ縁とかそういうありふれた設定なんてない、本当に高校に入ってから知り合った間柄なんだが──
「そういえば先日、弥生さんが言っていたドラマ、私も見ましたわ」
ご覧の通り、彼女は俺に対して好印象をお持ちのようです。そして彼女のお陰で俺もこの学校の常識に馴染めたりしたのもまた事実。ただ、お互い距離が近いこともあってクラスメイトからは『いつまでも告白しないカップル』とか言われてる。
「あのドラマ、見たのか?」
「はい。ああいうお話は今まで見たことがなかったので新鮮味があって大変面白かったです。ストーリーの方も良く作られていましたから来週がとても待ち遠しいです」
そう言う雫さんの顔はお世辞でも何でもない、本当に俺が勧めたドラマを気に入ったみたいだ。内容は凄腕の探偵が狡猾な犯人と頭脳戦を繰り広げるサスペンスもの。サスペンスだから犯人は最初から分かっているんだが犯人と探偵とのやり取りが実に面白かったから娯楽物をあまり見ないという彼女に気紛れで勧めてみたところ、アタリだったみたいだ。
「また今度、面白いものがありましたら教えて下さいませ」
そう言い残すと雫さんは異性なら誰もが見惚れるような笑顔を見せてから自分の席へと向かっていく。流麗、とでも言うんだろうな。手の動かし方一つ取っても粗がない。伊達に箱入りはしてなかったってことか。
「………………」
さて。いい加減構ってやらないと騒ぎ出しそうな奴が側に居るし、構ってやるとするか。
「いつまで拗ねてるんだ水瀬」
「拗ねてるだって? 失礼なことを言うなっ! キミと僕とでは勝負にすらならないんだ。これは……そう! 高みの見物ってヤツさ!」
いやお前、そう弁解してる時点で拗ねてるの丸分かりだから。
「しかし、前から思ってたんだがキミという男は随分大胆だな。僕と雫は幼馴染みだからまだしも、彼女があんな風に異性と話すのはキミと僕だけだということを知ってるか?」
「いや、知らないな。……あとお前、雫さんと幼馴染みだったのか?」
「やれやれ……本当、庶民というのは周りの情報に疎いね。少しは僕のように周りにアンテナを立てるとかそのぐらいの努力をしたらどうなんだい? それ以前に僕と雫が幼馴染みなのはこの学園じゃ一般常識だ」
「…………」
相変わらず嫌味満載な言い回しだな。と言ってもこいつの場合、邪気がないから言うほど腹を立てることもないから俺も露骨に突っかかったりはしねーけど。
……あぁそうだ。こいつの自己紹介、すっかり忘れてたな。このナルシスな野郎の名前は水瀬哲也。セレブであることに違いないが家の方針で庶民とそう変わらない環境で育てられた。あまり公言したくはないが中学が同じだったこともあるし三年以上も付き合いがあれば自然と友人と呼べる関係となるんだが……友達と呼んでいいかどうかは正直微妙なトコだな。
補足すれば今朝、ヘリで登校してきた生徒の正体はこの男だったりする。こう見えて水瀬は有事の際に当主代理を務めるほどの力を持ってるらしい。まっ、当主代理とか言われても俺は生徒として振る舞ってる水瀬しか知らないから実感ないけど。
「キミも知っての通り相原家は元を辿れば華族だが、僕の家もまた昔は華族だった。しかも家は両隣! ならば僕と雫が幼馴染みなのは当然と言える!」
そういうモノなのか? うちのお隣さんは俺と歳は変わらないけど幼馴染みって間柄じゃないぞ? それにお前の場合はたんに昔から付き合いがあっただけだと思うぞ?
「だからこそ雫が白鷺学園を受験すると聞いた時は我が耳を疑ったね。相原家の規則はキミが思ってる以上に厳しい。本来なら雫はお嬢様専門の女子校に通わせて大和撫子にする予定だったそうだ」
「ここも充分立派なところじゃないか。共学だけど」
「ふっ……その貧困過ぎる発想は如何にも庶民だな」
庶民で悪かったな。どうせ特待生で入学しただけのハリボテセレブですよ。
「いいか庶民? 白鷺学園はセレブの子息・息女らが多く通うところだが──同時にキミのような庶民生まれの奨学生が一クラスに一人二人ぐらいは居る。そしてここはセレブが通う学園特有の世間から隔離された空間……という感じがない。つまり、本物の金持ちたちからすれば白鷺学園など、ただの滑り止めでしかない! それでもここを第一志望に選ぶセレブは僕のような家庭の事情を抱えている人間ぐらいだろうねッ!」
水瀬の言い分によればそうらしい。確かに白鷺学園は世間のど真ん中にあるセレブ向けの学園だ。校門から出て五分と歩かない距離にコンビニはあるし、もう少し足を伸ばせば主婦たちで賑わう商店街やらゲーセンなんかがあるから悪影響(あくまで金持ちの主観でだが)を与える要素は充分にある。何故そういう俗物が上流階級の人間に悪影響を及ぼすのか未だに分からないけど。
「その雫がわざわざこの学園を選んだのは恐らく社会勉強の一環だと僕は推測する。ご両親が折れたのか、それとも親の勧めで入ったかは定かではないにしろ、彼女は望んでここへ来た。……まぁ、入学当初は随分とキミみたいな庶民に頼っていたようだがね」
「それは──」
「僕は中学時代に嫌というほど庶民の生活を知ったが雫は違う。キミも思わず頭を抱えるような場面に遭遇したことぐらいあるだろう?」
「…………」
そんなことはない──とは否定はできなかった。流石にニュースで報道されている程度の芸能人は知っているみたいだけど年間で数える程度しか外食をしたことがないってのは凄く意外だった。なんでも食事は極力、お抱えのシェフが作ったものを食べるようにしているらしく、昼食が必要な時は弁当まで作らせるというから本当驚いた。
……あぁそうだ。そういえば俺と雫さんが知り合いになった切っ掛けってのもその辺りなんだよな。
「何を考えてるんだキミは?」
俺の回想は水瀬の言葉によって遮断し、無遠慮に顔を覗き込む。近づかれるまで気付けなかったので思わず椅子を引く俺。そのせいか、水瀬はますます探るように注視してくる。
「まさか、雫をダシにやましいことでも考えてるのかね?」
「べつに大したことじゃねーよ」
「そうかな? 人間というのは大したことを考えているときほどそういう受け答えをする傾向が強く見られる。さしずめ、どうやって彼女を口説き落とそうか考えてたところだろう」
「んなこと考えるかっ。大体俺はお前みたいに街に出てナンパとかしねーんだって」
「それはつまり、自分は身が固いんだという雫へのアピールかね?」
だからどうしてそういう方向性に話が進む?
「キミは彼女のことをただの友達だと言ってるが周囲の評価はそれとは違う。いくら良家のお嬢様とはいえ、毎朝『弥生さん、ごきげんよう……』なんて親しげに挨拶する場面を見れば誰でもそう思う!」
うぐっ。また痛いところを……。
この男の言う通り、雫さんはクラスの男子生徒のことを苗字で呼ぶけど俺だけは名前で呼んでるし俺も彼女のことは名前で呼んでる。オーケー、その点は認めよう。同学年の男子生徒の中じゃ俺が親しい人間だってことも認める。だがな──
「呼び方なんて人それぞれだろ?」
雫さんが俺をどんな風に呼ぼうが俺たちの関係は変わらないし、親しいからと言って互いの名前を呼び捨てで呼ぶ関係になるとも限らない。少なくとも俺はそう思ってる。
「ふむ、庶民にしてはなかなかの切り口だ。……しかしそれはあくまでキミ個人の考え方だ。もとより、呼び方というのは相手との距離感を表す重要なファクターだ。少なくとも互いを苗字で呼び合うよりも名前で呼び合えば親密度が高いように見えるのもまた事実」
水瀬の言葉に呼応するように周りで聞き耳を立ててた野郎たちが一同ウンウンと頷く。
……えーっと、なに? 俺ひょっとしてクラスの男子を敵に回しちゃってる感じ?
これから一方的な尋問でもされるかと思った矢先、奥のドアがガラガラと音を立てながら開いた。
「ほらほら皆さん、席に着いて下さい。本鈴が鳴ってから着席するのではなく、きちんと着席した状態で気持ちを構えて本鈴を聞くのが学生としての正しい在り方ですよ」
クラス担任の登場でそれまで騒然としてた教室に静寂が小波のように広がっていく。去り際に水瀬が『続きは後で訊こう……』なんて毒づいていたのはきっと気のせいだと自分に言い聞かせる。
うちのクラスの担任を勤める先生の名は柊隆一。爽やかな笑顔で人当たりもよく、生徒一人一人を大事にしていることもあって男女共に人気のある先生だ。(因みに教科は現代文)
柊先生の言葉を皮切りに学校全体に本鈴が響き渡る。その頃にはもう校門前で貰ったチラシのことはすっかり忘れていた。
滞りなく授業を進めていき、あっという間に昼休みを迎える。そうなると普通の高校なら開幕ダッシュならぬ学食ダッシュが校内で起きるものだろうがここではそんなのは起きない。家柄云々じゃなくて、たんに減点行為に入るから。それでも稀にやって風紀委員に注意されるのを見かけるのはやはりお決まりというのだろう。
いや、そんなことはどうでもいい。今日はテスト明けということもあるしたまの贅沢ということで学食でも活用するか。普段はコンビニで買ったパンだったり節約の一環で作る手作り弁当だったりするがたまにはこういう贅沢をしてもバチは当たるまい。
大方の人は既に予想してるかも知れないが当然、この学園の食堂にはいわゆる『B級グルメ』的なメニューが存在しない。辛うじて庶民の俺でも知ってるようなパスタは存在するがそれにもトリュフが使われてたりする。他にはフォアグラテリーヌだとか懐石料理だの日替わりフルコースとまーとにかく色んな意味でスゴイところだ。ここだけ聞けば当然、俺みたいな庶民には手が出ないように思えるかも知れないが一応、この学校は俺みたいな庶民出身の特待生のことも配慮して庶民でもお求め安い価格で提供している。
学食の券売機で紙幣を入れて小慣れた手付きでボタンを押す。本日のメニュー、オーソドックスなスパゲティの大盛り。これで五百円の出費で済むのだから有り難い。町中にある外食店で同じものを食べようとすれば普通に千円は超えるからどれだけ安いかが良く分かる。(因みに最初に言ったトリュフのスパゲティは八百五十円で食べられる)
受け取り口で中年のおばちゃんからスパゲティの乗ったトレーを受け取って適当に空いている席を見繕って座る。俺が人影に気付いたのは椅子に座った直後のことだった。
「この席、空いてますか?」
「勿論、空いてるわよ」
そう訊かれたから何も考えずに答える。別に一人で食事をしたいとかそういう変な願望はないし、来る者を拒むほど野暮な人間じゃない。
「あれ? キミもしかして今朝校門前でチラシ拾ってた子?」
ん? 校門前でチラシ?
………………。
あー、そう言えばそんなもの拾ったっけ。言われるまですっかり忘れたな。
少し気になったので相手の顔を見てみると確かに今朝、校門前でチラシを配っていた女子生徒だった。朝の時点ではまともに顔も見なかったけど顔つきが日本人離れしている。人の目を引く銀髪に古典的な欧州美人、そしてモデルのような体躯。我ながらよくぞこんな美女を素通りしたものだ。
「どうして俺だって分かったんですか?」
「ん~、なんとなく目に付いたからね。それにチラシに興味を持ってくれた人は本当に片手で数えられる程度しかいなかったってこともあるから、かな?」
なるほど。それなら顔を覚えられるのも不思議じゃない。それにしても昨今のセレブはチラシもまともに受け取らないのか? そう思うと急に先輩が配っていたチラシが街頭で行き交う人々に渡すポケットティッシュと同等に見えてきた……。
「ここで会ったのも何かの縁だし、自己紹介でもしよっか。私は三年生の桐生玲子。今では同好会となった料理研究部の部長よ。キミは?」
「一年の紅瀬弥生です。ところで今では同好会となった、と言ってましたが以前はちゃんとした部活だったんですか?」
つい好奇心からそんなことを訊いてしまい、すぐにまずいと思った。これじゃあどう見ても脈アリって反応にしか見えねーじゃねぇか。完全に選択ミスったな、俺。
「うん。実は料理研究部は一昨年まではちゃんとした部活だったんだけど私が入部した時期は一年が私だけで後はみんな三年生だったの。で、去年は見事に新入部員がゼロだから事実上料理研究部は同好会に降格。ちゃんとした部として認められるには最低でも三人は部員が必要なの。そして普通の部活のように部費が欲しければ更に二人、計五人の部員さんがいないと駄目って訳」
なるほど。だからあんなに熱心に勧誘してたのか。しかも部費が欲しければある程度の部員数を確保する必要があるのか。部活勧誘も大変だな。
「大変そうですね」
と、さして興味なさそうに言ってスパゲティを食べる俺。そんな俺の反応が意外だったのか、それとも単純にさっきとは対照的な反応だったからか、桐生先輩は目を丸くして俺の方を見ていた。
「キミ、入部希望者じゃないの?」
「えぇ。チラシが舞い踊っていたのが偶然目に止まってそれを読んで同好会があると知っただけですし、俺には入部する余裕もありませんので」
放課後は買い物するなり朝出来なかった家事仕事を片付けたりしなきゃならないから部活なんかしてたら家の仕事が滞ってしまう。世の中家事仕事を甘く見ている野郎共が多いが家事ってのは突き詰めれば体力と忍耐がモノを言う世界だから決して楽な仕事じゃない。うちは親父と二人暮しだからまだ負担が少なくて助かっているけど。
「う~……じゃあさ、部活見学だけでもしていかない? 今時男の子も料理できないと色々不憫でしょ?」
「はぁ……」
料理ぐらい普通に出来る──と言おうと思ったけど流石にそれは相手を侮辱するような気がしたので俺は曖昧に返事をした。個人的にはその、家事尽くしの生活は嫌だから今すぐにでも断りたい。
断りたい──のだが、どうしてか俺は困っている人間が居ると衝動的に構いたくなってしまう節がある。いわゆる、『頼まれたら断れない』タイプの人間って奴だ。と言っても俺自身、生活があるから安受けはできないけど──
(中途半端な気持ちで頷いちゃったらまずいよな)
勿論、相手ではなく俺がまずいという意味で。このまま話の流れで見学すれば多分……というか八割方入部してしまいそうな流れになる。なんかないか、上手く断る方法。
「あ、勿論無理にとは言わないよ? 紅瀬君にも考える時間は必要だから今は返事しなくていいから。……でももし見学だけでもしてくれるっていうなら放課後、家庭科室前まで来てね。私の家に案内するから」
「家? 部室じゃないんですか?」
「うん。さっき言ったように今の料理研究部は同好会だから部室が与えられてないの。だから実習は私の家ってことになるの」
あー、そういうことね。確かに部でもないところに部室を貸し与えたら他の部や同好会に示しが付かないよな。それでも部になったからと言って良い部室が貰えるとは限らないけど。
「そういうことだから入部、前向き考えといてね♪」
話はそれで終わったのか、先輩はようやく自分の分の昼食を摂り始めた。やはり先輩もイイトコ育ちなんだろう、よどみない動作でナイフとフォークを操ってハンバーグ定食を食べていく。食器の使い方が綺麗で気付きにくいがこの人、何気に俺より食べるの早いな。俺がスパゲティを半分ほど食べ終えた頃には既にハンバーグ定食を食べきっていた。
「ご馳走様」
「えっと、お粗末様でした……?」
待て俺。律儀に答える必要あったか? しかも最後、疑問系になってるぞッ!
「面白いね、紅瀬君って」
「いやいや、俺なんて面白くともなんともないですよ」
俺が面白いというなら水瀬なんかはもっと面白い部類に入るぞ。自分を格好良いと思い込んでるけど実際、やる気だけが空回りするタイプのキャラだし。……あくまで俺基準の話だが。
「…………」
桐生先輩はもう食べるものがないので何気なく俺の方を見ている。別に気にならなくはないがこうも真正面からじぃ~っと見られたまま食事をするってのは落ち着かない。しかも相手はテーブルマナーが行き届いた人間。にわか程度しか知らない俺の食べ方なんて汚く見えるに違いない。先輩がそう言った訳じゃないけど、やっぱりそういう人間を前にすると意識してしまう。
「あはっ、さっきまで普通にしてたのにどうして急に緊張しちゃうの?」
「どうしてって……」
先輩がお嬢様っぽく見えるから──なんて軽率な発言が出来るほど俺は空気の読めない人間じゃない。金持ちに対して劣等感を抱いているというよりも自分の庶民っぷりにちょっとへこむというか……まぁそんなとこだ。雫さんや水瀬が居なかったら今頃はきっと変なコンプレックス抱えて塞ぎ込んだままの日々を過ごしていたに違いない。
「…………」
無言で俺のことを見る先輩。なんかさっきまでのフランクな感じから一転してシリアスな雰囲気を匂わせる。観察というより相手を見定めるように目を細めて何度か頷く。……あれ? 俺、今の流れで何か失言でもしたか?
「あの、先輩……もしかして何か気に障ることを言ってしまいましたか?」
原因は分からないが桐生先輩の様子から言って俺に非があるという予想は付く。俺としてもこのまま気まずい空気の中で食事はしたくないからさっさと謝っておきたい。……が、先輩の口から出た言葉は俺が予想していたものとは少し違ったものだった。
「別にキミが悪い訳じゃないわ。私の方こそ空気悪くしてごめんね」
「…………」
言葉ではそう言っているものの、声色には僅かに不機嫌さが混ざっていた。
もしかしてあれか? 昨日テレビでやっていたけど、どうも女ってのは男の些細な行動で幻滅するって言ってたな。……もしや、俺はそれを無意識のうちにやってしまったというオチか?
もしそうなら彼女の態度には非常に納得がいくし、これ以上俺が藪を突けば先輩の機嫌を損ねるのは明白だ。だから俺はそれ以上、言及せずに黙ってスパゲティを食べることにした。さっきよりもいくらか緊張は解けたけど、やっぱり気まずい雰囲気だけは振り払えなかった。




