第5話『金色のクマー』
「うぉっ!?」
風を纏ったパンチをギリギリで回避したユーマ。
「よく、避けれたわね」
シャヤがそう言うと、ユーマは一息吐いて落ち着いて
「不可視に近い風魔法は、たまに出る緑色のエフェクトより少し広いくらいが攻撃範囲らしいからね」
金毛のグリーンベアーの拳が当たった地面をみながらユーマが言う。そこには拳よりもあきらかに大きな攻撃痕が残っていた。
「希少種って言っても所詮はグリーンベアー、さっさと倒すとしようぜ」
そう言うとユーマは再び、風を纏った拳を繰り出してきたグリーンベアーの攻撃をステップショットで懐にもぐるように攻撃を回避しながら、至近距離で弾丸を撃ち込んだ。
「『ツインシャイン』!」
シャヤの放った2本の光の槍がグリーンベアーの頭に当たり、ダメージと牽制になる。その間にユーマは再び間合いを取った。
「ガァッ!」
グリーンベアーはシャヤを見ると口を大きく開けて
「ブレス攻撃!?」
空気の球を放った。
「っぃたぁ……」
回避行動をしたが、僅かに掠ってダメージを受けたシャヤはHPが大きく削れていた。そこにグリーンベアーは追撃しようとするが
「こっち向きな!『チャージ』『ニードルショット』!」
ユーマが、威力を底上げされた防御貫通の弾丸をグリーンベアーの後頭部へと命中させた。
「グルゥ……」
背後からの弱点部位への防御貫通攻撃は金色種グリーンベアーの体力を多く削ったが、ご当人は怒って息が荒くなっていた。
「早っ!!」
グリーンベアーはシンプルな突進をしてきたが、巨体に似合わない俊敏さで驚いたユーマは横に跳ぶようにして、なんとか回避する。
「マジか」
体勢を立て直して振り向いたユーマにグリーンベアーはすでに風を纏った拳を振りかぶっていた。
「『チェーンバインド』!」
しかし、光の鎖が腕に絡みついて動きを中断させた。
「助かった!」
その隙に拳の範囲から抜け出しながら、通常の弾丸でヘッドショットを1発入れる。
そしてチェーンバインドの効果が切れて、風の拳を外したグリーンベアーはユーマに突進するが
「『ステップショット』!」
「『ツインシャイン』!」
ユーマの回避攻撃と2本の光の槍が挟むように胴体に突き刺さり体力をさらに減らしていく。
「『チャージ』『ニードルショット』!」
そしてリキャストが終了した瞬間に、ユーマは自身の最大火力を再びグリーンベアーの頭に撃ち放つと
「グルゥ……グッ……」
金色種グリーンベアーは倒れ込んで、ポリゴンとなって霧散した。
「なんとかなったな」
ユーマはそう言いながら、リザルトを確認していく。
『称号"金色緑熊の討伐者"を獲得しました』
"取得アイテム一覧"
『金色緑熊の爪』×3
『金色緑熊の牙』×3
『金色緑熊の風毛』×4
『そよかぜの技珠』×1
レベルアップ!15→16
「やったぁ!!『緑熊の従魔結晶』ゲット!!」
ユーマがとりあえずの確認を終えると、シャヤがガッツポーズをして天を仰いでいた。
「金色種のやつじゃないんだな」
「あくまでグリーンベアーのレア個体だからじゃない?テイムのグリーンベアーが成長なりなんなりしたら金色個体になるかもだけど……ユーマも手に入ったの?」
テイムモンスターは成長すると、何かしらの変異が行われるという情報だけは街のテイムモンスターを売っているNPCから聞いていたシャヤが答えた。
「俺は『そよかぜの技珠』ってアイテムが手に入ったな」
そう言うとユーマはアイテム欄から『そよかぜの技珠』を手に取ると調べる。
『そよかぜの技珠』
小さな風の力が込められた宝珠。
使用することで、ランダムに選出された5つのスキルから1つを選択して取得することが可能。
「使用するとスキルを覚えられるらしい……」
そしてユーマは『使用する』のコマンドを押すと
『取得可能スキル一覧』
・エアナックル
・エアーショット
・エアーボム
・そよ風の盾
・エアークッション
5つのスキルが表示された。
「これは悩むな……」
「どんなスキルがあったの?」
ユーマはそれぞれのスキルを確認して呟くと、シャヤが聞く。
「弾に風属性を付与するやつに、風属性のパンチに魔法。風属性の防御魔法に高所からの落下ダメージ軽減魔法」
「銃使いなんだし、弾に属性付与で良いんじゃないの?」
何を迷う必要が?と言外に言うシャヤに
「それはそうなんだけど……防御魔法も捨て難い」
「あー!もうっ!すぐに決める必要はないんだから、街に帰りながら悩んで!」
私は早くテイムモンスターに会いたい!と言うとシャヤはそそくさと街に向かって歩き出した。
「緊急時の近接攻撃手段も良いし……」
ぶつぶつと悩みながらも、ユーマは後を追うのだった。
「じゃあ、さっそくテイム契約してくる!いつもの広場で合流ね!」
「はいよ……」
街に帰りついても悩んでいる様子のユーマに呆れながらもシャヤは、グリーンベアーをテイムするためにテイムモンスター関連のあれこれをしてくれる『バディショップ』へと駆け出した。
「こんにちは!この子と契約させて!」
バディショップに飛び込んだシャヤは『緑熊の従魔結晶』を店主に突き出した。
「は、はい」
バディショップの女主人は鬼気せまる勢いのシャヤに困惑している表情になりながらも手続きをしていく。
「では、そちらの魔法陣の上に結晶を置いてください」
そう言われたシャヤは『緑熊の従魔結晶』を指定された魔法陣に置いて、目の前に立つと
「えーと……『ここに従魔の契約を交わさん』」
シャヤが目の前に表示された詠唱文を読むと、魔結晶が輝き
「クマー!」
魔法陣の上に、魔物として戦っていたグリーンベアーよりは一回り小さいサイズのグリーンベアーが座っていた。
『バディ グリーンベアー "No name" レベル5
HP 30
MP 25
STR 5
DEF 8
MAT 5
MRC 0
MDF 8
DEX 3
LUK 3
〜スキル〜
エアナックル
「名前は"くまごろう"で……これからよろしくね!」
「クマッ!!」
シャヤが命名したことで、契約が完全に終わるとシャヤはくまごろうをテイマー専用のアクセサリーである『バディバングル』に入ってもらうとルンルンとした気分でバディショップを後にするのだった。
「で?スキルは決めたの?」
待ち合わせ場所にしていた広場でベンチに座っていたユーマに話しかけるシャヤ。
「うん、エアーショットにしたよ」
「だと思った」
こうなることが予想できていたのか、やれやれとした後
「私も契約できたよ、おいで『くまごろう』」
シャヤが呼ぶと、手首に装備していたバングルについている緑色の宝石のようなものが光りが溢れ出した。
「クマァー」
光がまとまって形を成して、グリーンベアーが現れた。
「おぉ!野生のやつよりも可愛げがあるな」
「前衛タンクよりのステータスだったから、私たちとも相性が良い」
シャヤがドヤ顔で言うと、同じようにフンスッと鼻を鳴らすくまごろう。
「くまごろうのテイム手伝ってもらったから、次はユーマの手伝いするけど」
「ひと段落ついたなら、くまごろうのレベル上げでもして次の街に向かわないか?」
ユーマは少し考えたあとにそう答えると
「じゃあ、そうしよっか」
そして、2人は準備を整えた後にくまごろうのためのレベリングへと向かうのだった。
『バディバングル』
契約したテイムモンスターを入れておくためのバングル。テイマー本人が体力0になる、またはテイムモンスターの体力が尽きるとバングルに自動で避難する。
テイムモンスターの体力が尽きた場合の復帰は放置で1日、バディショップで治療て半日。専用の復活消費アイテム使用で即座に復帰させることができる。