第4話 キャンプの星空・蛇の夢
ありゃ?動けない。
すると、前を歩いていたノブが、何かに躓いたのか、前転しながらこけた。
「・・いって!」
「だっせ!俺のことを面白がってからかったりするからだ」
ここぞとばかりに、言い返す俺。ははは。
「それじゃ、僕はトウシのこと、面白がってからかったりしてないってことだね」
「曲解するな。これからなんかあるかもしれんし」
「えー」
「ってぇ。何もないぞ。何もないところで、転んだ」
転んだことに心底驚いているノブに、
「言い訳、言い訳」
と返す、マコ。
確かに、そうだよな。ノブって結構運動神経いいはずだけど、なんで転んだのだろう。
まあ、考えてみればここは、普段と違う夜の山道だし、猿も木から落ちるっていうし。たまにはそんなこともあるのだろう。あのまま歩いていたら確実に俺が代わりに転んでいた。ぬかるみに突っ込んだ挙句、転ぶなんてごめんだ。
「うぅ、いってー」
「おいおい、大丈夫か?」
ノブは左足を捻ったが、けがの程度は声の調子から察すると軽いようだ。
「ほらほら、歩かないと帰れないよー」
マコは、マイペースのままだ。
そんなこんなを言い合いながら、俺たちはキャンプ施設側であろう方に戻っていく。ぐるりと1周回っている道だったから、歩いていれば元の場所にたどり着く。
帰る途中、空を覆っていた木々が途切れた。ふと、明るくなった気がして見上げると、
―――満点の星空。
ビーズを漆黒のビロードの布一面にばら撒いたような、無数の星が目の前にあった。
「うわぁ」
「すげぇ」
ノブとマコも同じように感動した様子で空を見ている。俺も今までの恐怖なんて忘れて夢中で見ていた。
「あれ天の川じゃね?」
「ホントだ!すげー。初めて見た・・」
「・・写真みたい」
俺たちは、しばらく立ち止まって星空を見つめていた。
肝試しは、もううんざりだが、この神秘的な夜空を見られたことは、良かったと心から思った。
◇◆◇◆◇◆
皆が言うには、どうも俺たちが帰ってくるのが異常に遅かったらしい。
相当、心配をかけたらしく、事態は、担任がもう少しで警察に連絡するところまで行っていたようだ。ほかの組の奴らは俺たちを追い抜いて先にゴールしていた。やっぱり俺たちは違う道を進んだのかな。誰も俺らを追い抜いていかなかったし。
肝試しを言いだしたのが、担任だった所為もあり、こっぴどくまでは怒られなかった。そして、「直ぐに寝ろ」、ということになり、テントに入って、寝袋に包まれた。テントのごつごつした底面の上の寝袋だから、お世辞にも寝心地がいいと言えるものではなかったが、それが気にならないくらい、俺は思ったよりくたくただった。
あー、すっげぇ歩いた気がする。疲れて横になったときの、あの地面の中に沈み込むような感覚に襲われながら俺は、眠りについた。
そして、俺は。
不気味、だけど、忘れてはいけないような。
そんな、夢を見た。
俺は、静かな湖の淵に立っていた。
周りからは、何の音も聞こえない。静かすぎて逆に耳が痛い。水面に波は立ってなくて、まるでガラスのようで上を歩けそうな位だ。空は、霧のような雲が立ち込めていて薄ぼんやりとしている。
俺の気持ちもこの風景と同じで、静かで穏やかだった。
俺から少し、離れたところの湖の中に、針葉樹が立っていた。それは、現実にあるような木だったが、異彩を放っていた。
幻想的な風景に見とれていると、水面に、さざ波が立ち始めた。
俺は、それから目を離すこともなく、当然のように見つめていた。
そして、いよいよ波が大きくなってくると、暗い灰色をした大きな蛇が姿を現した。尻尾で体を支え、頭をもたげている。巨大な蛇を前にしても、俺の心に恐怖はなかった。
太さが立派な丸太の木くらいあるから、全長はちょっとした船くらいありそうだ。
これだけ大きな蛇が水面から出てきたのに、やはり水がしたたり落ちる音などは全くなく、無音だ。
俺と、蛇は。
視線を合わせていた。何を話すでもなく。何をするでもなく。
そこにいることが、そこに在ることが、当たり前のように感じていた。
そのことを不思議に思うこともなかったが、
何故だか、
俺は悲しい気持ちになっていた。
毎日16:00頃、更新しています。