だい8わ!! 「あと半月で」
「じゃあ、今月の魔能力測定を始めるよ」
アランが声を張る。
もう見慣れてきたグラウンドだ。授業で使う頻度も高いので、かなたはもう見飽きたと言っても過言ではなかった。
かなたがこの世界に来てから、一ヶ月が過ぎた。
あと半月もすれば学校対抗模擬戦が始まる。それが終わったらすぐ地獄のキャンプが始まり、冬はまた行事があるらしいが、かなたは詳しくは知らない。どんだけ多忙な学校なんだ、とかなたは思った。
「一列に並んで、順番に測定していくね。みんな並んで!」
三組の面々が一つの列を作る。その中にはカイルもいた。本当に魔能力測定の時しか顔を出さないようだ。普段はなにをしているか全くもって謎である。
いつも補習生として、アノンとマーリーとともに別室で授業を受けているため、クラスの人たちと同じ空間で魔法を使うというのは、かなたにとっては新鮮だった。
——この一ヶ月でまあまあましになってきたとは言え、ここにいる学生たちは魔法使いの中でもエリート集団。さすがについていけなさそうだな。
順番に測定が行われていくが、やはりレベルが段違いだと、かなたは思った。魔法のキレ、速さ、正確さ、威力。どれを取ってもかなたは彼らの足元に及ばず、だ。マーリーやアノンは中級魔法を少し使えるとはいえ、それでも上級部生の平均の足元にしか届いていないようだ。
そもそも、補習生の中でもトップクラスに程度が低いかなたが、彼らと肩を並べる日が来るのだろうか。シェリーですら落ちこぼれと言われるような環境なのに。
——本当に元の世界に帰れないかもしれねぇ……。
かなたの番が回ってきた。初級魔法で測定に挑むことにした。中級魔法に関しては、失敗することの方が多いので、ろくに使い物にならない。中級魔法は、魔法陣の完全記憶も難しいが、魔力調節がかなり難易度を要するのだ。上級魔法に至れば、習得までどんな苦しみを味わうことになるのだろう。かなたは考えるだけで気が遠くなりそうだった。
「さて、かなたくん。なにかしらの攻撃魔法を僕に打ってくれるかい?」
「はい、アラン先生」
一ヶ月前、初めて魔能力測定をしたとき、魔法が使えないと言って棄権したことをかなたは思い出していた。でも今は違う。毎日の授業とシェリーの稽古で練習した魔法を、使うときが来たのだ。
——未完成だけど、複合魔法を使ってみるか。
複合魔法。二つ以上の魔法を一度に繰り出す方法である。複数の魔法陣を頭に思い浮かべ、それぞれの魔力調節をしなければならないので、初級魔法でやろうとしたとしても難しい技術だ。
かなたは右の掌をアランに向ける。二つの魔法陣を頭に浮かべ、魔力を集中させた。
空間に二つの魔法陣が浮かび上がり、白く光りだした。
複合魔法を使おうとすると、このように魔法陣が浮かび上がるので、周りにいる人間はすぐにわかる。シェリー、リノ、そしてアノンとマーリーが緊迫した様子でそれを見ている。
「はあああ!!」
左右の魔法陣から、水と雷が発現した。レーザービームのようにまっすぐ力強く進む水に、雷が混ざり合う。電気を帯びた水は勢いよくアランを目掛けて襲いかかった。
——よっしゃ! 半分くらいの確率で失敗するやつだけど成功した!
アランは透明のバリアでそれを弾く。何事もなかったかのような顔をしながら。
「はい、おっけー。複合魔法、うまくなったねかなたくん」
「ありがとうございます」
複合魔法がうまくいったのは嬉しいが、所詮は初級魔法だ。まだまだ補習生から抜け出すことは難しいだろう。
魔能力測定は無事終わり、解散となった。測定の日は授業がないため終わり次第自由時間になるのだ。
「かなたー! 一緒に帰ろ!」
シェリーとリノだ。他の生徒に劣らず、この二人の測定もやはり、凄まじかった。リノには少し劣るが、シェリーも上級魔法を軽々と使いこなしていたし、リノは上級魔法を二つ複合させていた。
そしてさらに目を引いたのが、カイルだった。彼の魔法は、上等魔術師と言っても引け目を取らないくらい、正確で丁寧だった。上級魔法の中でも複雑な魔法陣を持つ魔法を完璧に発現させていた。アランもカイルの魔法を止めるのが少しきつそうだったくらいだ。
かなたは補習生のレベルの低さを改めて思い知らされ、少し落ちこんでいた。
——まあ、ゼロからスタートで一ヶ月ならこんなもんなんだろうけど、やっぱ凹むな。
「かなた? きいてる?」
かなたの顔を覗き込むようにシェリーが再び話しかける。
「あ、わりぃ。考え事してた」
「なにそれ、なんのこと?」
「きっとシェリーとあんなことやこんなことを……」
リノは身体を引いて、軽蔑した顔を浮かべた。シェリーは苦笑いでその様子を見ていた。
「ちげえ!!! リノはいつもそういう話にするのやめなさい」
「じゃあかなたの空っぽな頭で他になにを考えるの」
リノはいつも表情を変えずにそんなことを言うので、かなたは調子を狂わされそうになる。
「俺にも色々考えることがあるんだよ。魔法のことについてだよ」
「魔法のこと?」
シェリーが首を傾げた。リノもまた、よくわからないといった顔だ。
「模擬戦あるだろ、それだけじゃなくてキャンプも。冬にもなんかあるみたいだし、もっと魔法習得のペースをあげないとやばい気がしてさ」
引きこもりだったころでは想像できないほど、いまのかなたには向上心があった。魔法という新しい道に足を踏み入れ、世界の広さを知ってしまったからだ。危機感も含まれているのだろう。
「そうだね、この調子だとキャンプが危ないかもね。あと、冬はただのクラス旅行だよ」
「あ、そうなのか? てっきりまた魔法関係のイベントかと思ってた」
「ちょっと前にアラン先生が説明してたじゃんー」
「あれ、そうだったけか」
魔法の授業以外の時は、練習や魔力消費の疲れなどで寝てしまっているので、その話はかなたの耳に入っていなかった。
「それに、早く補習生抜け出さないと元の世界に帰れないからな」
「……そうだね。全力でサポートするから、がんばろ!」
「おう!」
この日もまた、サボることなくシェリーの稽古が始まった。魔法を覚え、鍛え、模擬戦をするというのが定例になってきていた。
寮と寮の間にある林はいやというほど見慣れたものだ。かなたたちの他にも練習に励んでいる生徒が最近はちらほら見られるので、手合わせをしたりしていた。そして、アノンやマーリーも稽古に参加したりするようになっていた。
——思ったより、この学校自主練してるやつが少ない気がするな。ここの林じゃないところでやってるのか……?
「シェリー、一旦休憩」
「わかった!」
「かなた、あんたやる気あるの。軟弱者」
「リノがスパルタなんですけど、助けてくださいシェリー様」
「まあまあ、リノも休憩しよ」
シェリーが言うと、リノは素直にうん、と返事をした。かなたはなんとも言えない気分になった。
今日は林で自主練習をしている生徒は見当たらなかった。閑散とした林の中に三人しかいない。
「今日アノンもマーリーもこないのかなー?」
「んー、なんかあいつら今日は街に出かけるっていってたけど」
「そうなんだ。デートかな?」
「あいつらに限ってそれはねーだろーなー。そういえば、林で魔法の練習してるやつってあんまり多くないよな。なんでなんだ?」
「多分、みんな勉強に必死」
リノが答えた。
「卒業試験の筆記が難易度高いらしいからねー、魔法の練習ばっかりしてられないんだと思うよ」
「そう……なのか」
ということはかなたも勉強を進めなければいけないのだが。しかし、魔法が恐ろしく低レベルなので、そこから改善していかなければいけないのは明らかだ。
「なあ、俺たちも街行かないか?」
「さぼる気? ゴミかなた」
「たまには息抜きしないと死にそうなんだ
あとゴミかなたはやめろ。チビリノ」
リノの手が光を放ち出したが、シェリーがリノの頭頂部に手刀を落としたと同時に光は消えた。
「二人とも喧嘩しないでくれるかなー。街に行くのもありだね! かなた街に出たことあんまりないでしょ?」
「そーだな、通学中に通るくらいしか」
「じゃあ行こっか!」
「悪くない」
というわけで、かなたたちは練習の息抜きに街に繰り出すことになった。
——さて、息抜きもそうだが、マーリーとアノンを尾行しに行くか。




