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だい3わ!! 「いきなり言われても……」

「それじゃさっそく、攻撃魔法を僕に放ってくれるかな。どんなものでもいいよ」


 好青年風の若い教師であろう人物が、当たり前のように言う。

 さも当然のように魔法を使えと言われても、かなたにはできるはずがなかった。


「え……」


 かなたが戸惑ったような表情を浮かべると、教師は何かに気づいたように付け足した。


「……あっ、心配しなくても大丈夫だよ。僕は中上等魔術師の資格持ってるから、遠慮しないで。死んだりしないからさ。結構多いんだ、上級まできた生徒だとその心配すること」

「いや、そういうことじゃなく……魔法使えないんですけど……」


 好青年風の教師は、へ? とすっとんきょうな声をあげた。

 シェリーの話を考慮すると、全く魔法が使えない人なんてこの世界にはいない。それこそ、教育を受けれなかったとかでない限り。いや、教育をまともに受けてなくても使えるに違いない。

 魔法が使えないというだけでも驚きの事実なはずなのに、そのまま上級部に入ろうなんて、正気じゃないと思われているに違いない。


「お、驚いたなぁ。魔法が全く使えないのに、上級部に入学するなんて……。卒業できるとは限らないよ? ていうより、二年で卒業はかなり厳しいと思うよ……?」

「はい、わかってます。でも後に引けないので」


 かなたがあまりにも真面目な顔で言うものなので、教師は思わず笑ってしまった。


「さらに驚いたなぁ。その実力でそこまで覚悟できてるなんて。結果は報告しておくね。今日の夜に君のところにクラス分けの書類送るね。あ、あとこれ」


 かなたが渡されたのは、男子寮までの地図と部屋の番号が書かれた紙、そして鍵だった。


「いい学校生活を」

 

★★★★



 年頃の男女が一晩同じ部屋で寝泊まりを共にするということは、常識的に考えれば何かしら起こってもおかしくないものである。しかし、かなたは昨日の非現実的な出来事と突然の異世界での生活の始まりにひどく動揺していたので、そんなことに欲を向けている余裕もなく眠ってしまった。


 目をさますと、かなたの横にまだすやすやと寝息を立てているシェリーがいた。

——いつのまに眠ってたんだ。確かシェリーが部屋に晩飯を持ってきてくれて……そっからあんまり覚えてないってことは飯食ってすぐ寝たのか、俺。

 

「ふつーに、可愛いよな……こいつ」


 かなたはぽつりとつぶやいた。

 同じベッドに美少女と二人きりで寝るなんて、死ぬまで一生ないと思っていたがこんな形で叶ってしまったので、かなたはなんだかおかしな気分になった。

——いままで奥手でろくに彼女もできたことないのに、なんか面白いなこのシチュエーション。

 無防備に寝顔を見せるシェリーの前髪をかなたは指でなぞった。


「ん……」


 いきなりシェリーが反応を見せたので、かなたはすぐに手を引っ込めた。


「びっくりした、寝てるんじゃなかったのかよ……」

「んんんー……」


 シェリーは半開きの目でかなたのことを凝視した。まだ寝ぼけているみたいだ。

 あまりにもあどけない表情をするので、かなたは不覚にもどきどきした。

——昨晩襲わなかったのが奇跡だなこれ。

 しばらく寝ぼけたシェリーの姿をかなたは堪能していたが、そのうち完全に意識を取り戻した。


「はっ! ごめん、朝弱くて。大体リノが起こしに来てくれるんだけど……」

「リノ? 同じ学校の友達か誰かか?」

「うん。下級部からずっと一緒で、仲いいんだ」


 シェリーの部屋のドアがコンコンと音を立てた。きっとリノという友達が起こしに来たのだろう。

 しばらくノックし続けて、反応がないことを確認した後ドアが開いた。

 リノが起こしにくることを見越して夜は鍵をかけていないのだろうが、少し無防備すぎないか、とかなたは思った。

 部屋に入ってきたシェリーの昔からの友人リノは、小動物のように小柄で華奢な女の子だった。肩くらいまである金色の髪を横で結いていて、眠たそうな眼をしている。


「シェリー、朝」


 そういってベッドの方を見やると、リノは固まった。状況が把握できないのだろう。無理もない、見ず知らずの男が親友と同じベッドにいるのだから。


「シェリー、ごめん。邪魔した」


 無表情でそう言うと、リノは部屋から出ようとした。


「え!? リノ、ちょっと待って誤解!!! そういうのじゃないよ!!」

「……大丈夫。誰にも言わない」

「違うってば!!!」


 シェリーの言葉を聞き入れるそぶりも見せず、リノという少女は部屋を出て行った。

 かなたはなんとなく居た堪れない気持ちになった。


「なんか、わりい」

「いや、かなたのせいじゃないから! あの子ああいう子だから。それよりも早く学校行こ。はい制服!」

「俺の制服もうあるのか」

「昨日パパがすぐに手続きしてくれたからね。よし、早く着替えようか!」


 渡されたのはシェリーが昨日着ていた白いローブのようなものだった。


「おう。でも部屋一つしかないから着替えはどうす——」


 男女同じ空間で着替えるのはまずいだろ、とかなたは思ったが、シェリーの手が光ると同時に二人の着替えは終わっていた。手元にはシェリーに渡された制服ではなく、先ほどまで着ていた洋服があった。


「私もちゃんと魔法使いだよー」


 シェリーはどうだ、と言わんばかりのドヤ顔で言った。


★★★★


 女子寮は学校から歩いて五分ほどにあることがわかった。小さな林のようなものを挟んで向かい側には男子寮がそびえ立っている。


 学校までの道は、かなたは正直あまりおぼえられなかった。こちらの世界は建物があまり多くないし、ましてや新宿のように高層ビルや目印になる建物もほとんどないからだ。

 

「はい到着! 近いでしょ? 寮から学校まで!」

「そうだな、でもあんまし道覚えられなかったわ」

「そっかぁ。通学時間はみんなについていけばいいから大丈夫だよ!」


 それもそうか、とかなたは思った。

 校舎は城のような外見をしていて、校門もさながら城門だ。

——この世界の建物はやたらと城みたいなのが多いな。あのよくわからない研究所といい……。

 シェリーに言われるがままについていくと、かなたは校舎の裏にある校庭のようなところに連れてこられていた。


「ここで測定するんだよ! 魔法の能力を測定して、クラス分けをする。五個ある各クラスのバランスを保つようにね」


——なるほど、じゃあランク順とかのクラス分けではないのか。まあその方がいいかもしれないな。最低のクラスにいるだけでバカにされるということもないし。


「ていうか、五個しかクラスがないのか?」

「うん。上級部だからね。一クラス三十人で一学年百五十人くらいかな。だから三百人くらいしかこの学校に生徒はいないんだよ」

「まじかよ……そん中の一人が俺かよ……」

「それだけじゃなくて、上級部まである学校は、国に三から五校しかないんだよ。このオルビス国には三校しかないから、大体国に千人くらいかなー」


 かなたは、オルビス国というこの国にいる数多の魔法使いの中でも洗練された千人の中に紛れ込むということに、ひどく不安を感じた。

——そりゃ卒業どころか授業にもついていけないわけだ。どうすんだよこれまじで……。

 

「そろそろ授業始まるからいくね! じゃあがんばって!」

「おう……」


 かなたはしばらく、何もないグラウンドのようなところで突っ立っていた。

 千人に一人の魔法使いと同じ土俵で学習する奴が、魔法が使えない。そんなことがわかったら世間はどんな眼で自分を見るのだろう、とそんなことをぼーっと考えていた。

 すると、担当であろう人物が現れた。かなり若かったので一瞬他の生徒かとも思ったが、制服を着ていないので教師で間違いないだろう。


「初めまして、イオリ・カナタくん。インフェル学園上級部にようこそ。測定担当兼攻撃魔法科兼編入担当のアラン・ウィルノだよ」


 いったい役職を何個兼任しているんだ、と突っ込みたくなったかなたであったが、我慢した。

 短く切られた緑色の髪と、すらっとしてそれでいて筋肉質の身体。平凡といえば平凡だが、圧倒的な爽やかさを発する男性だった。


 そして、冒頭のやり取りになるわけである。


——ますます先が思いやられてきた……。元の世界にもどるまでいったい何十年かかるんだ……。



 

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