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だい2わ!! 「学校とかまじ?」

 元の世界に帰れなくなった。これは本当にシャレにならないとかなたは思った。


「お前、なんでもするっていったよな?」

「うん、なんでもするよっ!」


 かなたは卑猥なお願いでもしてやろうかと思っていたが、この状況になってしまっては背に腹は変えられない。


「俺が元の世界に戻れるようになるまで、俺のことを全力でサポートしろ」


 かなたはなんでもするという少女に、しぶしぶそう言った。口調には苛立ちが含まれている。

 シェリーはきょとんとした表情で言った。


「え、そんなことでいいの? なんでもするのに。ていうか、私のせいでこの世界に閉じ込められちゃったんだから、最初からそのつもりだよ?」


 あまりにも当たり前のようにいうものだから、かなたは拍子抜けしてしまった。わざわざ言うことでもなかったか、と少し損した気分になった。


「……じゃあなんでもしてもらうっていう権利は保留。今はそれどころじゃない」


 シェリーが全力でサポートしてくれるということは、助かることに変わりない。だが、世界を移動するという果てしない目的を前にかなたは絶望していた。


「シェリー。俺はどうやったら日本に帰れるんだ」

「ニホン?」

「俺の世界の、俺の母国のことだ」


 シェリーはなるほど、と納得した様子を見せた。

 どのようにして世界を移動するのか、などということはかなたにはまったく予想もできなかったが、この謎の少女シェリーが次に突拍子もないことを言い出すのは、なんとなくわかっていた。


「戻るためには、この世界の学校を卒業する必要があるんだよね」


——ほらやっぱり。もうやだなにこの災難。学校を卒業ってなんだよ。三年とか五年とか学校に通わなきゃいけないのか?!

 かなたはげっそりした顔で質問を続けた。


「学校ってのはどのくらい通うんだ?」

「君は十八歳だから、上級部に二年間通うことになるかなー」


 二年間この世界で生活をし、この世界の学校に通わなければ帰ることができない。かなたにとってはハードルが高いことであった。そもそも自分のいた世界で学校に通ってなかったのに、よりによって異世界の学校なのだから。


「二年……。ていうか、上級部ってなんだそれ。中級とか、下級とかあるのか?」

「あるよ。下級は八歳から十五歳までで、中級が十五歳から十八歳までなんだよー」

「ふーん。年齢で区分けされてんのか」

「そうだよ! たまに飛び級の人とかいるけどね。上級部を卒業すれば、精霊石が貰えるの。それを使えば君は元の世界に帰れる」

「そうか。お前も上級部とかいうのに通ってんのか?」

「通ってるよ、まだ通い始めて一月くらいだけどね」


 どうやったら帰れるかどうかを問うた時に、一番はじめに出てきた方法が、学校の上級部を卒業すること。ということはそれが一番の近道なのだろう。むしろ、それ以外に方法がない可能性だってある。

 かなたは腹をくくることにした。ここはもう日本に帰ることが最優先だ。


「でもね、上等部はかなり卒業が難しいんだよね。通わない人だっているくらい。でも精霊石が手に入るのは、上等部を卒業するか、精霊石を買うしか……」

「買うこともできるのか?」

「うん。でも、かなり貴重な鉱物だから上等魔術師の資格を持ってないと買えない」

「ああああああ!! もうわかったよ!! 学校卒業すればいいんだろ!!」


 他に方法があると思えば上等魔術師とかいうわけもわからない条件。きっと卒業よりも難易度が高いものなのだろう。


「それで、学校ってなに勉強してんだ」

「魔法論とか実技魔法とか。下級と中級は一般教養とかも勉強するんだけど、上級は専ら魔法関係だね」

「……俺ついていけんのか……?」

「うーんたぶん無理」

「即答すんなよ!!」


 魔法論とか実技魔法とか言われても、かなたはまったく実感がわかなかった。その単語だけ聞いて難易度が高そうだなとは思ったが、当たり前のように魔法というものに触れたことは今まで一度だってないのだから、実感がわくはずもない。

 日本で魔法に触れたとか言い始めれば、かなりキマッてる人間だと思われることだろう。


「でも、下級と中級には年齢制限があるから上級から始めるしかないよ。結局授業についていけなくても、卒業試験に受かればいいんだから!」

「簡単そうにいうけど、授業理解してなきゃそれもかなわねぇだろうが。まぁ、もともと下級中級なんて通ってるほど暇じゃないからな。引きこもりだけど」


 授業が理解できないかもしれないというのは、かなり大きい不安要素ではあるが、シェリーの言う通りに学校に通い、卒業試験をパスして精霊石を手に入れることをかなたは決めた。それが一番の近道なのだから仕方ない。勝手に引きずり込まれて、勝手に閉じ込められたことに関してはかなり癪ではあるが、この際そんなことをいつまでも言っていても仕方がない。


「じゃあさっそく編入しよう! 明日にでも魔能力測定して、手続き済ませちゃおうよ」


 魔能力測定というのはかなたにはよくわからなかったが、きっと学校の編入に必要なことなのだろう。

 かなたがぐるぐると学校について考えていると、シェリーは突然かしこまった様子見せた。燃えるように真っ赤な瞳でかなたの両眼を見つめた。


「かなた」

「ん?」


「本当にごめんね……」


 いきなりシェリーが真剣に謝罪してくるものだから、かなたは反応に困った。

 こうなってしまったものは仕方ないし、あれだけ必死に世界の融合とやらを止めようとしていたのだから、もう許してやることにした。


「……ん!?」


 かなたの中に突然一つの疑問が生まれた。さっきのシェリーの言っていたことについてだ。

——精霊石がないと世界移動はできないはずなのに、なぜシェリーはそれができたのか、と。


「シェリー。なんでお前は精霊石がないのにこっちの世界に来れたんだ?」

「貯蓄した魔力をつかったからだよ。ちょうど八年分くらいかなー。もしもの時のために貯めといたんだ」

「魔力を貯蓄するとかあるのか?」


 そもそも魔力という概念が今までなかったため、かなたの頭にははてなが浮かんでいた。


「うん。魔法を極めた人なら五年分くらいで世界移動の魔法を使えると思うんだけど、そこまではさすがに無理だった」

「んー、なんかよくわからんけど、じゃあ精霊石ってなんなんだ?」

「魔力の塊だよ、簡単に言ったら。精霊の住処でしか採れない最高級の鉱石。魔力の一日の増量には個人差があるけど、精霊石は成人男性の十年分の魔力が詰まってるっていうよ」

「……じゃあその魔力をつかって世界移動をしろということか」

「ご名答!!」


 ということは、あのわけのわからない機械に魔力を吸い込まれていなければ、かなたは元の世界に戻ることが出来ていたというわけだ。なにせ、十八年分の魔力が蓄積されていたのだから。


「魔力って普通貯めないもんなのか」

「そうだね、みんな何かと魔力に頼るからその日暮らしって感じかなー」

「ふーん。ていうか、違う世界の俺も魔力持ってるものなんだな」

「どの世界の人間も持ってるよ」


 元の世界に戻るまでにあと二年は最低でもかかる。二年で帰れればうまくいったほうと言えるだろうし、かなり理不尽なことだ。しかし、魔力だとか、精霊石だとか、いままでのかなたの常識では考えられないことばかりのこの世界に、当人は少しわくわくしていた。


「まだかなたは寮の手続きもしてないから、今日はここで寝ていいよ!」


 シェリーが無邪気な笑顔でそう言った。

 健全な十八歳男子に向かってそれはやめろ、とかなたは心の中で突っ込んだが、実際問題寝泊まりする場所がないのでシェリーの言葉に甘えることにした。

 明日から異世界の学生。引きこもりが思わぬ形で解消されたが、この先に何があるのか、かなたにはまったく想像もつかないのであった。



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