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だい1わ!! 「なに言ってんだこいつ」

——日常に嫌気がさし始めたのはいつからだろうか。毎日が同じことの繰り返し。それなりに友達もいたし、重大なコンプレックスがあるわけでもなかったが、いつしか学校に行かなくなっていた。特に理由はない。理由があるほど毎日に刺激はなかった。ただただ、惰性だけで過ごす毎日が、嫌になった。


「かなたー、ご飯部屋の前に置いておくねー」


 母親の声だ。こんなしょうもない息子のために、懲りずにいつも食事を作ってくれる。なんてありがたいことなんだろう、とかなたは思った。

 かなたは母親に申し訳なさを感じすぎていて、いつしか目も合わせられなくなっていた。いつも仕事に出て行く母親を確認してから部屋の外に出るようにしているくらいだった。


 引きこもって三年。最初の方は学校に行かないでテレビやネットをする生活が、楽しくてしょうがなかった。しかし、日に日にその生活にも惰性の影が落ち始めた。

 なにをしたら毎日に退屈を感じなくなるのか、なんのために生きているのか。そんなことを考えているうちに、かなたは世界に絶望すら感じるようになっていた。


 母親に負い目を感じて、まともな生活を送ろうと試みた時期もあったが、引きこもり生活が長すぎたせいか、全然うまくいかなかった。あとに引けない状態になったかなたはずるずるとこの生活を引き延ばしていた。

 友達とも疎遠になり、会話はネトゲのボイスチャットくらいで、気の許せる友人など一人もいない。


「俺は……なにをやってんだろ……」


 そう呟いた途端、部屋の勉強机の引き出しが、がたがたと音を立てはじめた。何事かと思い、机に目をやった。

 ポルターガイストのように勝手に引き出しが全開になり、中から——



——少女が現れた。



  かなたは目を丸くした。なにが起こったのか把握することができない。勉強机の引き出しから、少女が出てくることなど普通に生きていれば絶対に体験することがないはずだ。


 背中まである青色のストレートヘア。カラーコンタクトでもしているかのような真っ赤な瞳。すらっと細長い体型に、みたことのないローブのような白い衣装。明らかに普通の人ではなさそうだ。


——胸もなかなか……じゃなくて!! なんでこんな現象が起きてんだ!? これは夢? いや、夢じゃなきゃ俺の頭が引きこもりすぎておかしくなったか!?


 机からゆっくり部屋の絨毯に降り立つと、少女はかなたを見つめながら言った。


「$♪☆○$°%*☆♪$♪○€¥」


 なにを言っているのか、全く理解できない。かなたが顔をしかめていると、少女は閃いたような顔をした。

 少女の手が突然光ったと思えば、次はかなたの身体が光り始めた。

 なにをした?! とかなたが問おうとしたのを遮って、少女は再び言った。


「こっちの世界とあっちの世界の融合を、止めてほしいのっ!!」

「は?」


——なに言ってんだこいつ。世界の融合をとめる? ていうかなんで机から出てきたんだ!? 猫型ロボットかよ……。そしていきなり言葉が通じるようになったのも謎すぎる……。

 かなたの頭はパンク寸前であった。いきなり少女が現れ、引きこもりの自分に世界を救ってほしい的なニュアンスの発言。創作物ばかり見ていたせいか、幻覚でも見えるようになったのだろうか。


「い、いや……まじで意味がわからないんだけど……」

「だ!か!ら! 世界の融合を止めてほしいの!! 時間がないから、早く決断して! もし成功したらなんでもするから!!」


——なん……でも……? じゃなくて!! どうすりゃいいんだこれは!


「決断……って……」

「やってくれるの!? やってくれないの!?」


——あああああ、もう何が何だかわからないけど、引きこもりに未来なんてないんだ。どうにでもなっちまえ!!


「よくわかんないけど、引き受けた!!」


 ありがとう!! と安堵の表情を見せた少女はかなたの手を引き、引き出しへとダイブした。信じられないことに、かなたと少女はすんなりと引き出しを抜けてさらに奥の空間へと落ちていった。その空間の光が眩しすぎて、かなたは目を開けることができなかった。


 しばらく目を閉じ続けていると、突然重力を感じた。


「いてっ!」

「いたっ!」


 二人は地面に尻もちをついた。

 目を開けると、現実離れした光景が広がっていた。空を飛び交う竜のような生き物や、車を引く恐竜のような獣。奇妙な形をした建物や、初めて見るような服装。完全にファンタジーの世界と言っていいだろう。


「なんだ……ここ……」

「ここは私たちの世界だよ。君たちの住んでいる世界とまた別の世界。さ、急いで! 融合を止めに行かなきゃ!」


 状況を把握するまえに、かなたは少女に引きずられるようにして連れて行かれてしまった。


「どういうことなんだ、融合って」

「世界と世界の隔たりが薄くなるのを感じて、魔防隊が騒ぎ始めたの。世界と世界が近づいていて、最終的に世界どうしが重なると、気の乱れでどちらも破滅の一途を辿ることになっちゃうの。だから君を——」

「悪いんだけど、なに言ってんのか全然わからない」

「んー、だから! 世界がヤバいから君を連れてきたの!!」


——なるほど。と思いそうになったけど、世界がヤバイから俺を連れてくるっていうのが本当に意味不明だ。ていうか、本当にこれ夢じゃないよな!?


 少女に手を引かれるままに足を動かし続けていると、ある建物の前に着いていた。

 建物の外観は見た感じ城のようなものであるが、一階建てであった。

 正門の前には門番であろう人物が佇んでいて、鎧と剣で武装していた。

 口を開けてその光景をかなたがぼーっと眺めていると、少女が隣から言った。


「ここが魔防隊異世界支部の基地だよ。さあこっち」

 

 何をいっているのか全く理解出来なかったが、かなたは言われるがままについていくことにした。

 門番に扉を開けてもらい、正門をくぐり、建物の真ん中の通りを抜け、この施設で一番大きい部屋にたどり着いた。よくわからない機械がたくさん設置されていてる。研究員のような風貌の人が何人もいる。


「シェリー、連れてきたのかい」

「うん、パパ」


——この青い髪の女の子がシェリーで、この禿げた中年太りのアホそうな人が父親か。似ても似つかないって感じだな。


「君、何歳だい? 魔力を使った経歴は?」


 突然シェリーの父親が、かなたに問うた。


「え……一八歳です。魔力……? そんなものは使った覚えないですけど……」

「本当かい! 十八年間蓄積した魔力を使えば、世界の融合を阻止できる!!!」


 そう言い放つと突然かなたの腕に糸のようなものを巻きつけ始めた。子供も親も揃って唐突な一家だな、とかなたは呆れた。

 腕に巻きつけられた糸。それがなにかなど説明する間も無く、シェリーの父親がなにやらよくわからない合図を出す。

 かなたの脳に強烈な衝撃が走り、そのまま気を失った。


★★★★


 目を覚ますと、次はかなたはベッドの上にいた。場面が急転しすぎで、もうなにがなんだかわからなくなっていた。

 さっきの機械のせいか、気だるくなった身体を起こし、周りを見渡すと部屋の椅子にシェリーが座っているのが見えた。

 かなたが起きたのを確認すると、シェリーは口角を上げた。


「おはよう。自己紹介がまだだったね。私の名前はシェリー。シェリー・エルセスだよ、よろしくね!」

「ん……。俺は伊織かなた。……ていうかここどこ……ていうか何が何だか……」

「そうだね、いきなりすぎたもんね。ごめんねかなた。ここは私の部屋。女子寮だからあんまり大きな声出しちゃだめだよ」


——寮ってことは学生かなにかなのか。てか、だんだんとこのよくわからない世界を現実として受け入れつつあるな、俺。


「結論から言うと、世界の融合は防げました!

 ありがとう!」

 

 満面の笑みでシェリーは言った。

 世界の融合というものがいまいちかなたはよくわかっていなかったが、成功してなによりだ。そしてということは目の前にいるこの、シェリーという美少女がなんでもしてくれるということだ。そうだ。なんでも……。


「じゃあ俺と——」


 融合してくれないか、と言おうとしたと同時にシェリーが爆弾発言。



「でもかなたが元の世界に戻れなくなっちゃった」



「は?」


 世界の融合という現象は無事に防ぐことができたが、皮肉なことにもそれを成した張本人がもう一つの世界と融合してしまったのだ。


——おいおい、冗談きつくないか? どうすんだよこれ……。


 かなたはいままでにない絶望感と元の世界に戻らなくなったという言葉に果てしない響きを感じた。




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