エピローグ
7/3 更新2話目。
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出立の朝。
王都三ノ壁正門にて、セラとエリーは、アーシュリートの見送りに来ていた。
今日から、アーシュリートは”外”にある古代遺跡の調査に随行する。暫くは戻らない。
「アーシュ……。本当に気を付けてね」
少々涙目になったセラが、アーシュを見上げた。
「師匠も一緒だから平気だよ。それに、一応僕も”外”で活動できるギルドランクは持ってるんだから」
何を言っても不安そうな恋人を安心させようと、アーシュリートは抱き寄せて髪に口づける。すると、セラは見るまでもなく真っ赤になった。
――全く朝っぱらから、何やってるんだか。
エリーは口元に苦笑を忍ばせた。一応、先程からここにいるのに、二人の視界には入っていないらしい。
「あー、ごほん」
わざとらしく咳をしてみせると、たった今気がついたように二人は顔をあげ、即座に離れた。……まぁ多少は、自分達が羽目を外している自覚はあるらしい。
「お前らは、ほんとにどうしようもないな」
芝居がかってため息ついてみせると、
「暫く会えないんだから、少しは多めに見てくれ」
アーシュリートも苦笑で返す。
間にいるセラは真っ赤で固まったままだ。
「で、いつ帰ってくるんだ?」
「二ヶ月ぐらいかな。セラの社交界入りまでには帰ってくるつもりだよ。それまで、セラをよろしく」
「お前に言われなくても分かってる。しかし、二ヶ月か……。結構長いな。授業に影響はでないのか?」
「去年までに必須の単位は取ってる。あとは、専門課程の単位だけだし、有り難いことに、今回の遺跡調査、出席扱いにしてくれるらしい」
「なるほど……だったら、ずっと帰ってこなくて良いぞ。デビュタントのパートナーは俺が務めておいてやる」
「残念ながら、今年のセラのパートナーは僕だよ。去年から約束してるから、エリーの出る幕はない」
「……へぇ、そうかよ。なら、早く帰って来い」
「もちろん」
最近のアーシュは、師と共に研究三昧で忙しい。夢中に成るのは良いが、セラがちょっと寂しそうなのがわからないのか。
しかし、何を研究しているのだろうか。すでに、セラの”誓約”は解かれた。急ぐ必要なものはないはずなのだが。エリーは首を傾げた。
「ちゃんと食べて寝てね。アーシュは夢中になると、食べるのも寝るもの忘れちゃうんだから。疲れてても魔獣は待ってくれないから。絶対絶対、無理はしないでね」
「分かってるよ」
「ほんと?」
「うん」
「……絶対わかってないと思う。……もう一度、【代償蘇生】の魔術かけておこうかな」
「ま、待って。それだけは駄目だ。これから行く所は危険なんだから」
「……だったら、約束して。絶対無傷で帰ってきてね」
「……分かったよ」
――聞いてられない……。
エリーは頭を抱えた。
まあ、セラの心配は尤もだ。アーシュは研究に没頭するあまりに、身辺の警戒を怠る傾向がある。誰かがちゃんと見ていてやらないと。
――”梟”から手の開いてる奴に護衛を任せるか……。俺が行けないのが残念だな……。
やがて、アーシュは正門を潜り”外”へと旅立っていった。
その後ろ姿を見送りつつ、エリーは思う。
後悔はしていない。でも。
お前は自由にどこでもいける。アーシュ、俺はほんの少しだけ、それが羨ましいよ……。
*****
アーシュリートは振り返らない。
けれど、彼らがどんな思いで見送っているのか、分かっている。
セラの寂しさも、エリーの悔しさも。
――全く、何も言わないんだからな、エリーは……。
エリーは知らない。
フロワサール公爵邸地下に、膨大な「神霊」とその契約に関係する遺物、魔道書、書籍の収集物が秘蔵されている。
それが、セラとエリー、二人の呪いを解くために、父親である公爵によって十数年にわたって集められたものだということを。
エリーが今どんな境遇に落とされたか、アーシュは教えられた。
最初は、セラの為に、今はエリーの為に、彼は「奇跡」を知り契約を書き換える。
待っててくれ、エリー。
いつか必ず君を自由にしてみせる。
もう”外”に向かう僕に羨望なんてしないように。
*****
『セラ……ごめんな……約束を……お前に海を見せてやれなくて……』
兄の声を聞いたような気がしてセラフィカは振り返った。
「なにか言った? エリー兄様」
「いや、何も」
そう言いながらも、どこか寂しそうな兄が心配で、セラフィカは兄の腕にそっと自分の手を絡めた。
「大丈夫だよ」
「何が?」
「全部。きっと、アーシュは無事に帰ってくる。そして何もかも全部、上手く行くの。」
「……お前、何か知ってるのか?」
「何も知らないよ」
「ほんとか?」
「うん、ほんと。だけど、分かってるの。大丈夫、心配いらないって」
そっか、とエリーは再び黙りこんだ。けれど、その瞳にはもう哀しい色はない。
だから、セラフィカは微笑む。心から幸せそうに。
「そろそろ家に帰ろう、エリー兄。もうお腹ペコペコだよ」
◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
ある海辺の街のギルド付属の酒場にて。
「おい、兄ちゃん、ここらじゃ見ない顔だな。どこから来たんだ?」
「西」
「西ってぇと、フェロウラかい? エイデンかい?」
「どっちでもねぇよ」
「だったら……ヴィンデュス?」
「……さあな」
「へぇ、随分遠くまで来たんだな。そう言えば、ヴィンデュスの王様、この間代替わりしたんだってな」
「らしいな」
「新しい王様はどうよ」
「……いい王様だよ」
「そうかい。なんでも、最近景気がいいって噂だな。にしても、そんないい国から何でこんな辺鄙な街まで来たんだ?」
「……海」
「はぁ?」
「……海があるからだよ」
「海に用でもあったのか?」
くすんだ金髪の青年は、かぶりを振る。
「何にもねぇよ。ただ、見たかったんだ……ほんとに見れるとは思ってなかったけどな……」
<簡易版後書き(みたいなもの)>
ラスト4話分のエピソードを思いついてからほぼ1年。予定より大分遅れましたが、やっと物語が終わりました。この話はセラとアーシュの物語だけではなく、エリーとリュスラン、マリアーネの物語でもあります。彼らの成長を少しでも表現できたでしょうか。そうだったらいいなぁ、と思ってます。
拙いながら、彼らの話をかけてよかったと思っています。
そして、一人でも多くの方に楽しんでいただけたら幸いです。
この後も、後日談・番外編の投稿を予定していますが、一旦完結とさせていただきます。
今までありがとうございました。
(12/9 追記)後日談は暫く凍結させていただきます。ごめんなさい。




