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誓いの書 ~これってほんとにあのゲーム?~  作者: ウィズココ
最終章 エンディングの、その先
84/85

第76話

7/3 更新1話目。

 

リュスラン殿下に指示に従って、隠し通路を抜けた。

 仄暗い通路から夏の庭にでて、一瞬目がくらむ。


 青くて高い夏空が広がっていた。


 白とピンクのペチュニアや星形の(ペンタス)が風に揺れている。

 王城の裏庭(バックヤード)の一角は、静かで全く人気がなかった。


「あれ? ここって」


 ここは私が殿下と初めてであった場所だった。

 懐かしさと、少しだけ心の痛みを感じながら、ライラックの木陰のベンチに腰を下ろした。


「チ、チチッ」


 上空から私を見つけたチーちゃんがふわり通りてきて、私の腕に止まった。

 私を見て、不思議そうに、首を傾げる。


「うん、チーちゃん。……もう使わなくてよくなったの。待機してくれてたのに、ごめんね」


 心配そうにチチチと鳴くチーちゃんにそう言った。ひらりと飛び上がって、私のまわりを旋回するチーちゃん。でも、すぐに降りてきてまた不思議そうにこてんと首を傾げた。


「大丈夫、私は元気だよ。心配しないで」


 チチチ、チーちゃんは鳴き止まない。


「うん。殿下との婚約は無くなったの。私はもう自由なんだって……」


 ピピ、ピルル。チーちゃんが応える。


「……嬉しい……よ。嬉しんだけど……。思っちゃうの。もう遅いって。あと一日早かったら、あんな魔術使わなかった……」


 殿下に告げられた「自由」の言葉。

 聞いた瞬間は、感情がついていかなくて、頭が真っ白になった。そして、パニックが過ぎてみると、嬉しさがこみ上げてきた。けれど……すぐに思いだした。

 一日、遅かった。

 私は過ちを犯した。私の大切な人の心から私の存在を消し去ってしまった。(アーシュ)の心にはもう私はいない。


「私が馬鹿なの。誰も悪くないの。そんなの分かってる。でも、でも、何で今日だったの? 昨日じゃ駄目だったの?」


 私が奇跡を使えたら。

 時間を巻き戻して私を止めたい。


 チェルシーが私の胸をの当たりを突く。

 鎖を長くして見えないようにドレスの下に忍ばせたのは……アーシュからもらったペンダント。もう、声を聞くこともない大切な思い出の品。

 そのペンダントに、私は叶う事のない願いを口にした。


「……会いたいよ……アーシュ」


 返答はない。もとより術式を展開させていないから届くはずがない。

 だから彼の声が聞こえるはずなんて……。







「僕もだよ」


 ふわりと抱きしめられた。







「……アーシュ……?」

「そうだよ」

「本当に?」

「本当に」

「……私を憶えてるの?」

「何が起ころうと君を忘れることなんて出来ないよ、セラ」

「どうしてここにいるの?」

「君を迎えにきた」

「………………これって夢?」

「夢じゃない、現実だよ」







 もう言葉にならなかった。

 そのままずっと、私はアーシュの腕の中で泣きじゃくっていた。








*****


 ライラックの木陰で、私はアーシュと話した。


「君の考えはなんとなくわかってた。だから、師匠に【抗精神魔術(レジスト)】をかけてもらってたんだ。だけど、予想外だったのは、君の魔術の威力が強すぎた事だ。【抗精神魔術(レジスト)】の効力を超えて、君の魔術が僕の精神(こころ)に干渉してきて焦ったよ。【認識障害】から一時的な【健忘】まで引き起こされたんだ。前もって、対策は立ててあったからなんとかなったけど」


 アーシュは、その時の事を思い出したのか、ごく僅かに身震いした。


「ごめんなさい」

「正直、気にしなくていいよ、とは言えない。人の心に干渉する魔術は嫌いだ」

「本当にごめんなさい」

「受け入れるよ。だから、もうあの魔術は封印してほしい」

「うん。もう使わないよ」


 私だって、本当は精神干渉系の魔術は好きではない。こんなことになったのだから、もう二度と使うつもりはない。


「それから、エリーに回収してもらって、師匠に【忘却魔術(レティス)】を解いてもらった。それが昨日の夜。そして真夜中になって、王宮から使者がきた。今日のこの時間にこの場所で待っているようにって」

「殿下が?」

「真夜中に叩き起こされて、ブルムスターの両親には迷惑かけたけど、事情が事情だからしかたがないかな。本来なら早朝にはもう王都をでていたはずだから」

「ああ、そうだった。アーシュは”外”に行くはずだったよね」

「延期にしたよ。殿下からの命令じゃ抗えないし。今は、師匠が僕に代わって関係者に謝罪に言ってる。……ほんと、ますます師匠に頭が上がらなくなったよ……」

「本当にごめんなさい。あの、先生には私からも謝罪とお礼を言うから」

「いいよ、大丈夫だから」


 小さくため息を吐くアーシュ。彼はそう言うけれど、私も謝ろう。他にも、先生には色々ご迷惑をおかけしたから。


「それで、君は? どうなったの?」

「誓約は解消されたの。……殿下がね」


 私がことのあらましを説明すると、アーシュは目を閉じて考え込んでいた。


「そうか。殿下が」

「うん。私はもう自由なんだって」

「……癪だな……」


 アーシュが本当に悔しそうに唇を噛み締めてる。


「アーシュ?」

「……君は殿下に本当に愛されてるね。きっと、君がどうするつもりなのか悟ったんだろう。だから、手を離した。尊敬するよ。僕が同じ立場にあっても同じことはきっと出来ない」

「そうかな……」

「でも、癪だ。誰よりも君を思っているのは僕だ。君を愛するのも僕だけでいい。……僕より強く思ってる奴がいるなんて……嫌だ」

「あのね、アーシュ。私が好きなのはアーシュだけだよ」

「分かってる。だけど、癪だ」

「……もう」

「まあ、それはもういいよ。殿下には後で文句言っておくし。それより、君だ」

「え?」


 向き直って私を見るアーシュ……ブルーグリーンの色が怒りと哀しみをたたえて深みを増してる。怖い。


「セラ、君、死のうとしたね」

「……あ、あの」

「状況が悪かったのは分かってる。君が僕や殿下を思ってそれを選んだのも分かる。けど、僕は諦めてほしくなかった。君がいなくなったらと思うと……ぞっとする。耐えられない」

「アーシュ……ごめ」


 息が苦しい程、抱きしめられた。



「もう二度と、そんな事は考えるな」



 抱きしめる手は、きつくて熱くて、でも震えてる。

 かけられた言葉は、言葉は真剣で怖いだ。そこまでの怒りは今まで向けられたことがない。


 私はやはり愚か者だ。

 もう二度と、彼を悲しませたくない。



「はい」


 自戒を込めて頷いた。



 抱きしめられたまま、どのぐらい時間が過ぎただろう。

 やがて、アーシュは、深く息を吐き出し、そして同時に抱きしめる腕を緩める。

 


「ねぇ、セラ。これからはずっと一緒にいよう。笑い合って助けあって、時々は喧嘩して……ずっと仲良く過ごそう。そして、神が許してくれるなら、そのうちいつか終焉(エンデイング)が来ても……その先(次の生)もずっと一緒にいよう。セラ、どう?」


 そんなの、私の答えなんて決まってる。


 ひたすら頷けだけの私をアーシュは笑ってる。


「誓うよ。僕はずっと君の側にいる」

「……私も……誓います」



 そうして、私とアーシュは……誓いの口づけを交わした。



お読みいただきましてありがとうございました。

次話で完結です。

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