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誓いの書 ~これってほんとにあのゲーム?~  作者: ウィズココ
最終章 エンディングの、その先
78/85

第70話

6/30 更新1話目

 ヴィンデュス国王、ジャン・アルフォンス陛下。

 燃え盛る黄金の髪をした偉丈夫だ。四十はとうに過ぎているのに若々しい。ヴィンデュス歴代でも、苛烈で果敢な王と言われている。実際、陛下を前にしてみて、鋭い眼光に緊張をしいられて震えが止まらない。


 国王陛下は、私達をひとなめし最後に私とエリー兄に視線を固定した。


「テオ、あれが、お前の息子に娘か?」

 

 父様は見たことが無いくらいの渋面を創った。そして黙って頷いた。


「似てるな……特に息子の方なんて男親そっくりだ。娘は……お前に似なくて良かったな」

「大きなお世話です」


 父様はすねたようにそっぽを向いた。対して陛下は顎に手を当てて薄洗いを浮かべている。

 最後に、陛下はディート王子を睥睨した。


「さて、お前か、俺の兄の息子を名乗っているのは」

「……」

「あんまり、似てないな」


 ディート王子は陛下を睨みつけたまま答えない。


「なるほど、気骨はありそうだが、まだまだ子供(ガキ)だな。……テオ、一応、フロワサールの見解を尋ねるが……、この坊主は兄の子か?」

「フロワサールとしては、彼をジェラルド殿下のご嫡男とは認めない」

「そうか……残念だな、そこの坊主。お前は、俺の甥じゃないみたいだぞ」

「は? 何でそうなる?」

「それがフロワサールの役割だからだな」

「何だそれ」

「わからんならわからんでもいい」

「へぇ、やっぱり簒奪者とその後援者は違うね。認めないばかりか、真実を簡単に捻じ曲げる」

「真実なぁ。後ろで聞いていたが、俺の認識の真実と面白い程違うが、どれが正しいんだろうなぁ。

 テオ、こいつに説明してやれ」

「ご自分でされたらいかがですか?」

「面倒だ」


 ため息混じりで眉間を皺を刻んでる父様が語った真実とは。


 晩年の先王は王としての気力と意思を完全失っていた。更に、先王は王の後継を指名せず、王が実質上不在になったヴィンデュスの政局は権力を(ほしいまま)にする高位貴族が横行し、乱れに乱れた。

 そんな祖国を憂いていた現国王とその一派だが、当時の腐敗勢力を主とする第一王子派の陰謀により、継承を奪われ臣下としてとして放逐されようとしていた。

 このままでは国は変わらず、いつかは倒れる。そう判断した現国王は、機先を制し第一王子派を退けた。そのまま、先王の宣旨により立太子し、現在に至っている。


 そして、肝心の「継承の証」であるが、内乱の混乱の折に王城の宝物殿より消え去ったという記録が残っている。


「ということだ。先王が第一王子を選んだ事実はない。更に、『継承の証』を授与した記録もない。仮にお前が持っている『継承の証』とやらが本物であるならば、それを渡した奴が盗人だということだな。テオ、あれが本物かどうかは分かるか」

「一見しただけでは断言はできかねますが、恐らくは本物でしょう」

「だ、そうだ。で、誰が、お前にそいつを渡した?」

「オレにこれを渡した奴は、もう当の昔に死んでるし。第一アンタの話だって、何一つ証拠のないアンタの主観の話だろ。アンタが正当な王じゃなくて、オレが継承の王子だという事実は揺るがない」

「確かに、俺は神意を得た正当な王ではないが、それがどうした。俺が先王より正式に認められた王であることに変わりはないぞ。

 だが……そうだな、それだけやる気があるんだったら……。坊主、面倒事ばかりで何一ついい事などないが、お前代わってみるか?」

「は?」


 陛下は涼しい顔で、驚く事を言ってのける。


「テオ、座らすぞ」

「……全く……貴方は。やりたければやればいい」


 父様のため息が深くなった。


「よーし。言質とったぞ。坊主、俺が許すから、その玉座に座ってみろ」

「は?」

「その玉座は、王の血を持つもの以外を拒絶する。兄上の子なら紛うことなく王の血族だ。無事に座れたら、お前の主張通りに王を譲ってやる」

「アンタさ、ほんとに馬鹿か。オレが王になったらまず国を潰すぞ。それでもいいのか」

「潰せるもんなら潰してみろ。見ててやる。ほら、戯れ言はいいからやってみろ」

「しかたねぇな」


 ディート王子は立ち上がった。リュスラン殿下は剣を収めて成り行きを見守っている。

 一段一段ゆっくりを登り、ディート王子は玉座の前に立った。

 そして、決心したように、肘掛けに手をつこうとして……。


 パシン、と大きな破裂音がした。

 ディート王子の手が跳ねつけられた。

 何度試みても結果は同じ。玉座はディート王子を受け入れない。


「おい、リュスラン。座らなくてもいいから同じように触ってみろ」


 陛下に一礼してリュスラン殿下が玉座に近づく。同じように、肘掛けに手を置こうとして……何も起こらず、殿下は玉座に触れていた。


「……なんだよ。これ」

「残念だが、お前は王族の血は欠片も入ってないってことだ」

「嘘だ! だって、オレは……王子だから”外”に逃げたって。王子だから、王になれって。ずっと言われてきたんだぞ」

「誰が最初に嘘を吹き込んだのかは知らんが、まあそういうことだ」


 今までどんな窮地でも薄笑いで応じてきたディート王子が、悲痛な声で叫んだ。


「なんだよ、これは! オレは、王子じゃないのかよ! オレは何なんだ……。オレの為に死んだものだっているんだぞ…… なのに、これかよ!!」


 

 ディート王子の痛々しい叫びは、私達の注意を完全に彼に引き付けていた。だから気がつかなかった。

 リュスラン殿下とディート王子は階上の玉座の付近。陛下と父様と階段下すぐの位置にいた。エリー兄は陛下や父様とのちょうど中間点。

 そして、私は、階下のちょっと離れた場所に立っていて、その背後にはリュスラン殿下が倒した神官達が転がっていて。



 気を失っていると思った神官が蠢いた。

 閃光が走り爆音がなる。

 

 防御壁の詠唱が間に合わない。


 とろい私は、神官達の自爆に巻き込まれた。

 




◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆



 閃光が走った。範囲を限定した大きな爆発。爆音と衝撃が駆け抜けた後は、何も残っていなかった。

気づけば、ディート王子の姿も消えている。

 

 そして、セラは?


「まさか」


 死体まで残さず焼きつくされたのか。


「セラフィカは? どうした」

「分からない」

「防御壁は?」

「知らない。破られたか」

「セラフィカの防御壁は頑丈だ。この程度なら破られるはずがない」

「じゃあ、間に合わなかったんだろうよ」

「何でそんなに冷静でいる!」

「うるせぇよ!」


「落ち着け」


 混乱のあまりに言い争うエリーとリュスランを、国王が制した。


「まだ、そうと決まった訳では……やっと来たか」


 言いかけた言葉をきり、入り口へと視線を送る。と、大きな音を立てて扉が開き、大勢の騎士が雪崩れ込んできた。

 先頭をきって走り寄るのは、赤い騎士服の女騎士だ。


「陛下、ご無事ですか」

「心配はない。リュスランも無事だ」

「それは結構」


 その傍らで、真っ先にエリーとリュスランに走り寄るものもいた。


「殿下、セラは? ああ、エリー。ここにいたのか」

「アーシュ!」

「エリー?」

「セラが消えた」

「……何だって?」


「嘘ではない。先程の爆発に巻き込まれていなくなった……。状況的に、焼きつくされたのかと……思う」


 あれがどれだけ高熱を伴った高精度の爆発であるか、炎使いのリュスランはわかっていた。


「セラフィカは死んだ」


「馬鹿な事を言うな!」


 即座に否定した。まだ、アーシュリートの心臓には、セラの魔力の糸が絡み付いている。セラが死んだなんてあり得ない。

 ならば、可能性として考えられるのは。


「エリー、視ろ!」


 ハッとエリーが頭を擡げる。すぐに視覚を切り替えた。炎の魔素が強く渦巻く中、見覚えのある青銀色の魔力が魔法陣の痕跡の中に消えている。


「……転移?」

「そうか、分かった。クローヴィス、”道”を確保しろ。エリー、先に行く」

「ああ!」


 エリーの答えを聞く間もなく、アーシュリートは飛んだ。





◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆



 気がつけば、草原にペタンと座っていた。


 確か爆発に巻き込まれてしまったはずだ。

 それがどうしてこんな場所にいるのか。


 王城の尖塔の先がずっと遠くに見える。ここが王都内部であることは間違いないが、大分遠くまで飛ばされたようだ。


「……どうして、助けてくれたんですか。ディート王子」


 目の前にいる人に問いかけた。

 じろりと睨まれた。


「嫌味か」

「はい?」

「アンタ見てただろう。さっき見事に否定されたのに、まだ王子って呼ぶのか?」

「それは、まあ。でも私にはディート王子はディート王子としか呼べませんし」

「ディー」

「はい?」

「ディーでいいよ。……仲間内の名前なんだ」

「仲間?」

「そう。外からずっと一緒だった仲間。アンタも知ってる。もう大分いなくなったけど」


 そうは言われても、私には覚えがない。首をかしげていると、王子……ディーが自嘲っぽく笑った。


「そっか、オレがアンタの記憶消したんだっけ……。馬鹿だよな」

「私、貴方に会ったことあるの?」

「まあな。思い出せないんなら、それでいいよ。大した事じゃないし」


 ディート王子……ディーは、疲れきったように座り込んで、背を木に預けた。


「なんか嘘くせぇ話だと思ってたけど、まさか、最初の最初から間違いでしたって、何だよ、それ。ガキん時からのオレの苦労返せよな。オレをかばって死んでった奴らを返せよ……何だよ、一体。飛んだ茶番だよ……」


 これは、ディーの独り言だ。だから、相槌の必要もない。だけど……彼の嘆きがわかってしまって心が痛い。だって私も、(セラフィカ・アズリ)の今までを失ってしまっているから。


「これからどうすっかなぁ。どうせ、もう反逆者だし……仲間にもメーワク掛けたくないし戻れねぇよなぁ……」


 途方にくれた頼りない声。弱々しすぎて思わず、


「行きたい所はないんですか?」


 尋ねてしまった。


「行きたい所か……ないなぁ」

「やりたい事は?」

「……墓参り」

「……ごめんなさい」

「いいって。仲間はもちろん、オレに望みを託して死んでった奴もいる。墓参りぐらいしてやんねぇと報われねかなぁ。なぁそう思わん?」

「そう……ですね」


 少しだけ、声に力が戻ってる。光を見出したんだ。だから、叶えてあげたいとは思う。

 だけど……。

 いくら踊らされていたとは言え、彼はもう犯罪者だ。彼はその罪に対して正当に報いを受けるべきだと思う。思うけど、だけど……。


「無理すんなって」

「はい?」

「アンタがお人よしなのは分かった。だから無理して逃がそうなんて思うんじゃねぇよ」

「だけど」

「アンタにどうこうしてもらわなくても、何とかするさ。例えば……」


 私の周りに風が集まってくる。いつの間にか、風の壁ができていた。

 

「アンタのおかげで思い出したよ。オレはまだやりたい事あったわ。ちょっと行ってくる。だから、アンタはオレが逃げるのを指を加えて見てな」


 そう言ってディーが笑った。ゆっくり立ち上がる。


「やりたい事全部やって、それでも命が残ってたら、ちゃんと罰を受けに戻ってくるよ」

「ディート……ディー。本気?」

「本気本気。絶対。約束しても良い」

「……分かりました。待ってます」


 「じゃあな、セラ」

 ディーはそう言い残し、転移陣を展開して消えた。



 だけど……彼はどこで私の名前を知ったのだろう……。






「セラ」


 私を呼ぶ声が聞こえる。だから、私も大声で返す。


「アーシュ」


 アーシュがいる。ボロボロになってるけど……生きてる。

 思い切り抱きしめて抱きしめられた。





◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆




 反乱から暫くの間、王都は混乱を極め様々な情報が入り混じり、事件の全容は知れなかった。

 故にこれから記すことは、後に纏められた記録である。


 後に「替え玉王子の反乱」と呼ばれるこの事件だが、結末は以下の通りだ。


 二ノ壁、三の壁の傭兵部隊、魔獣は王都に残った第三騎士団と第一(近衛)騎士団に駆逐された。王都の住民はすみやかにニノ壁内避難所に避難して被害はほとんどなかった。

 更に、国境を守っていた第二騎士団と、王都より転移した第三騎士団によって、フェロウラ国の兵団をほぼ無傷で退けた。


 魔導塔は、ある魔術師によって無力化された。反乱後、かなりの数の魔術師が人員整理の対象となった。

 

 更に、神殿と神官庁には三公爵合同部隊が監査に入った。神官長を始めとするかなりの神官が捕縛され、隣国の癒着を理由に即時解任された。

 また、神官長の私室の奥の隠し部屋にて二十年前に反乱に関する記録も見つかり、現在も精査中である。





 反乱より一月後、とある貴族が死んだ。元第一王子の側近の一人であり、行方不明の王子の乳母の父親である。


 更にその二週間後、元神殿関係者が収監されている場所に何者かが忍び込んだ。元神殿関係者の何人かが命を落とし、更に、元神官長がいなくなった。そのまま、今現在まで、元神官長は消息不明のままである。






 ディート王子を騙ったと言う人物のその後は現在でも(よう)としてしれない。





お読みいただきましてありがとうございました。

次回は本日(6/30) 午後12時の予定です。

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