第23話
気がついたらアクセスが普段の2倍近くになっていました。
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それから程なく、治癒術師の先生が見えて、アーシュの左半身の怪我の治療が始まった。
邪魔をしてはいけないので私は一旦外に出た。
部屋を出て手の空いていた治療士の先生に軽く診察を受けて、魔力補助薬を渡された。
治療士は、治癒術師が魔術を用いて診療を行う医師なのに対し、薬学を中心に診療する医師を言う。前世のお医者様は治癒術師よりこの治療士が近い。
そして、渡された魔力補助薬。まともに動くためには飲まないといけないけど、不味いのがわかってるから躊躇ってしまう。これを飲んだって魔力が回復するわけじゃないんだからって思っちゃって。
この薬は、あくまで魔力が切れて動けなくなった者に対して、魔力が自然回復するまで動けるように”擬似魔力”を発生させるだけの効能しかない。”擬似魔力”では魔術は使えないから、本当にただ動けるようになるためだけの薬だ。
「……こんな時はゲームの”魔力回復薬”が欲しくなるなぁ……」
ゲームで使用する薬は、ほぼ一瞬で体力や魔力を回復し瀕死状態から戦闘復帰させる。現実にはそんなことはあり得ない。だから、現在ある術式を燃費良く展開させる研究が盛んに行われているんだけど。
こんな事を考えながら補助薬の瓶を眺めていたら、治療士の先生に叱られた。自分の状態を分かっているのなら早く飲め、だって……。はい、現実逃避していないで我慢して飲みます……ああ、不味い……。
それからちょっとして、アーシュの治療が終わった。まだ包帯は巻かれてたけど、動かすのに支障はないみたいでほっとした。
*****
アーシュと一緒に寮の談話室に向かう。
この学校の寮は男子寮と女子寮の建屋に分かれている。結構距離があるのだけど、広い通路で繋がっていてその真ん中に二階建ての建物がある。その建物の一階は男女兼用の食堂で、二階は小部屋の談話室になっている。ここも元は後宮の妾妃の方々が住んでいたところなので、とても広くて豪華だ。
その小部屋の奥まった場所に、私達が今目指している場所がある。リュスラン殿下が入学されてから使用するようになり、警備の関係でほぼ彼等専用になっている通称”サロン”と呼ばれる場所だ。学院の生徒なら誰もが憧れの眼差しを向けてしまうような所なんだけど。
まさか、その”サロン”に私が入室できるなんて思ってなかったよ……。
一歩足を踏み入れた途端に、陽気なヒュイス様の声がした。
「よう、アーシュリート。怪我はどうだ? それと、アズリ妹! ちゃんと動けるようになったか?」
「……問題ないよ、ヒュイス」
「あの、お招きいただきましてありがとうございます」
「よく来てくれたな、セラフィカ・アズリ」
「遅かったですね。さあ、遠慮無く掛けなさい」
私が恐る恐る挨拶すると、リュスラン殿下とカミーユ様はにこやかに迎え入れてくれた。……カミーユ様の笑顔がどことなく怖い気がするけど……。
カミーユ様の視線が鋭すぎてさり気なく横を見れば、エリー兄がいた。いつもよりずっと機嫌が悪そうだ。
促されてソファーにエリー兄と座る。目の前にはリュスラン殿下とカミーユ様。ヒュイス様とアーシュは殿下の左と右側の椅子に腰を下ろしてる。この位置ってお二人の迫力がとても怖いのですが……。アーシュも心配そうに見てるし……。
私達が席に着くのを待っていたのか、早速カミーユ様が話し初めた。
「あなた方を及びしたのは、今日の騒動に付いてお尋ねしたいと思ったからです」
「……今日の事とは? 俺は結界のトラブルがあったとしか聞いていませんが?」
エリー兄がカミーユ様を遮る。
「公式にはそうなるでしょうが、実はそうではないことは貴方が一番ご存知でしょう? 何せ、貴方がかの術式を設置した本人を捕まえたのですから」
「……見てたのか……」
「ええ」
カミーユ様はにこりと頷いた。
私が結界を張っていたその頃、エリー兄はおかしな動きをしていた生徒を捕まえ、闘技場担当のヨランディ先生に引き渡していたらしい。エリー兄は、誰にも見られていないと思っていたようだけど、カミーユ様の目には入っていたようだ。
「ブルムスター、貴方は何を見たのですか? 正直にお話しなさい」
アーシュはエリー兄と私の方を気遣わしげに見ていた。
「僕が見たのは……殿下の詠唱と同時に魔法陣が無数に展開されたことだけだ。術式の内容は、暴発の誘導と誘爆させること。全部同じ術式だった」
「おかしいですね。その魔法陣は一つしか痕跡を残してません」
「多分あれは複写して展開したんだろうと思う。術式としては単純で分かりやすいし、威力もそれなりしかない。だけど、あれだけ数があると対処が難しい」
「そうですか……。そんな魔法陣がいつどこで仕掛けられたのか、また、何故直前まで発見できなかったのかですが……それはおいおいに明らかにしましょう……で、問題は貴女です」
びくりと背筋がのびる。とうとうカミーユ様の追求が私に来てしまった。
「貴女は終了直後、何故あの場所にいたのですか? そして、魔力切れを起こしたと聞いておりますが、何故です?」
「あの、それは……防御結界を張って」
「それもおかしいですね。何故、あの結界が破れるのを知っていたのですか? それに、結界を張ったのは学院の教師だとあの場にいた方々が証言していますよ」
「え? そんな? でも、私……」
「貴女が、件の男子生徒の魔法陣を複写して展開したのでは? それで魔力がなくなったのでしょう? そして、結界は貴女が細工して消し去ったのでは?」
「そ、そんなこと」
「カミーユ! 言っていいことと悪いことがある」
「……いい加減にしろよ」
嵐のような言葉に何も言えなくなってしまった私を助けるため、アーシュとエリー兄が割って入った。
「結界を張ったのはセラだ。それは僕が一番よく知っている。セラの結界でなかったら全力の【氷雪界】なんて無理だ」
「結界が危ないのに気がついたのは俺だよ。結界を張ってるセラを隠したのも俺だ。妹は何も知らない」
「あなたにそんなことは出来ないでしょう”落ちこぼれ”君? 嘘を付いても誰も信じませんよ」
「……俺は……”精霊の加護保ち”だから魔素とか魔力が見えるんだよ。疑うなら魔道塔の特性持ちの登録リストでも見てみろ。あの時、結界から魔素が漏れ出してるのを見た。それを知らせに行こうとしたら、あの馬鹿が魔法陣を展開させてるのを視た。だから、あいつを捕まえて魔法陣を解呪させようとしたんだよ。
セラを隠そうとしたのは、俺たち平民が目立ったらこの先面倒になると思ったからだ。信じようと信じまいと、これが真実だ」
エリー兄が言い終わった途端にカミーユ様がにこりを笑った。
「……やはりあなたには見えていたのですね。”精霊の加護持ち”ですか。なるほどね。……とうとうあなたの尻尾を捕まえましたよ、アズリ」
「ダングラル……あんた……」
「カミーユ、もう良いだろう。それ以上やると凍結されるぞ」
リュスラン殿下が言った時には、すでに【氷結】の術式を展開させるばかりの状態で、アーシュがカミーユ様に狙いを定めてた。
「ああ、分かりましたよ。アズリには謝罪しますので、その危険な術式は収めなさい。
アズリ並びにセラフィカ嬢。あなた達に非がないことは存じております。何せ、私はセラフィカ嬢が結界を張っているのを見ておりましたので。アズリ、使ったのは幻影系の魔術ですか? 見事ですね。ですが、残念ながら、私には効いていないようでしたよ。
折角ですので、あなたの尻尾を捕まえるのに利用させていただきました」
そこまで黙って聞いていたヒュイス様が一言のんびりと呟いた。
「なんだよ、それ。やっぱ、カミーユって性格悪ぃわ。ごめんな、アズリ妹。たちの悪い友人に代わって謝っとくわ。こんなんでも、ま、ダチの一人だしな。許してやってくれよ」
ヒュイス様の言葉で場の空気の流れが変わった。ヒュイス様は彼等のムードメーカーなんだろうな……。
それから、改めて、私達は事件の事を聞かれた。
今度は私達の言葉を信じてくれているようだ。というか、本当は最初から信じてたと今更いわれても。やっぱり、カミーユ様はカミーユ様だったなぁ。
そして。
「私は、この一件は、殿下の命を狙ったものである、と思っています」
カミーユ様は慎重に考えながら自分の意見をまとめていく。
「魔法陣を組んだのは、ブルムスターをよく思わない生徒の一人、これはすでに拘束しています。ですが、彼には複写して無数に展開させるのは無理です。とすると、彼の魔法陣を利用して複数転写し、直前まで見つからないように術式を組み、その後原本以外は綺麗さっぱり消し去るような術式を組んだ者がいる」
「あれ、結界は? 偶然か」と首を傾げたのはヒュイス様。
「それが微妙なんですよね。あの火力があれば、あの結界が保たないのは分かりきっていた。それを直前に消し去るなんてわざわざすることはありますかね」
「そういえば……先視したから注意しろとか言った奴がいたな」
「ああ、アーベンス嬢ですね……。彼女はどこまでどうやって知っていたのか……調べる価値はありますね」
ユリカ嬢の名前を聞いて心臓が跳ねた。彼女は、きっと殿下とのイベントの事を言ったのだと思うけど、それがこんな大きな事になるだと知っていたのかな。そんなようには見えなかったけれど。
話し合いを終えた帰り際、リュスラン殿下が私達に声をかけてきた。
「遅くなったが、セラフィカ・アズリ。結界を張ってくれたことに感謝する。お前の力がなければ、被害は大きかっただろう」
「いえ、お役に立てたら光栄です」
と答えたら、リュスラン殿下は満足そうに笑った。
「謙虚なのは兄と似てるな。いろいろあったが、お前やエセル・アズリと親しくなれたのは幸運だったと思っている。近いうちに約束を果たすから待っていろ」
「約束? それって……あの蒼い花の?」
「ああ、それだ。待っていろ」
そう言ってリュスラン様が離れると、今度はカミーユ様が寄ってきて、私の耳に囁いた。
「ご協力ありがとうございます。……ところで、あなたの守護獣の小鳥……珍しいですね。本当に守護獣ですか? 大きさは違いますが、古の”月の御使鳥”に同じ羽色の”聖獣”がおりましたが? いえ、まだ回答は結構です。そのうちお聞かせくださいね」
カミーユ様はチーちゃんを知ってるの? どこで見たの? 何で聖獣って分かるの? 調べたの?
何だか薄ら寒いものを感じてしまった。
こうして、波乱だらけだった模擬試合が一応終わった。
しかしこの後、私は平凡な平民なのにこんなに王族や高位貴族と親しくなってしまって良いのだろうか、としばらく悩むのだった。
ようやく試合の日が終わりました。
次回からは、学校生活に入ります。
誤字脱字等がありましたら遠慮無くお知らせください。助かります。
追記)1月21日誤字を訂正しました。
次回は1月23日、午前0時の予定です。




