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絶対無敵の盾  作者: ムク文鳥
魔獣決戦編
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冒険者


 パイライト帝国の帝都。崩壊した帝城の代りとして使用されている屋敷の一室で、『真っ直ぐコガネ』は改めてグランディス皇帝と謁見していた。

「貴公らの此度の活躍、まことに見事! パイライト帝国皇帝、グランディス・インテグラ・パイライトの名の元に貴公らの活躍を称え、『皇家御用達冒険者』の称号を贈ろう。本来なら我が帝国の騎士や貴族として迎えるのが筋だが、貴公らはそれを望むまい?」

「はい、皇帝陛下。俺……いえ、自分たちは冒険者ですから」

 仮の玉座の前に跪いた『真っ直ぐコガネ』。メンバーを代表して、ソリオがそう答えた。

「貴公ならそう言うだろうと思うておったわ。だが、気が変わったらいつでも我が帝国へ来るがいい。厚遇することを約束しよう」

「ありがとうございます」

 ソリオは再び頭を下げた。

 これは正式な謁見なので、彼らの立場は帝国の皇帝と冒険者。普段のような親しい態度を取るわけにはいかない。

「貴公らの飛空船も、責任をもって我々が修理する。安心するがいい」

 異界の魔獣との激戦の中、『栄光なる我が息子号』は再び傷ついていた。

 ソリオたちがアコード・ハイゼッドと戦っている間、『栄光なる我が息子号』は無数の小型の魔獣と戦っていたのだ。傷つくのも仕方のないことであろう。

 『栄光なる我が息子号』は現在、以前のように帝都の郊外でザフィーラの指揮の元に修理の真っ最中。彼らの飛空船が再び空に浮かぶのはもう少し先だ。

「さて、これから貴公らはどうする?」

「自分たちは冒険者ですから……また、冒険の旅に出るつもりです。もっとも、それは『栄光なる我が息子号』の修理が済んでからですが」

「そうか。それが冒険者というものよな。だが……一つ、忘れてはおらんか?」

「忘れて……ですか?」

 忘れていると言われても、ソリオには心当たりがない。ちらっと背後の仲間たちを見てみるが、彼らも思い当たることがないようで首を傾げていた。

「……ったく、仕方ねえな。こんな大事なことを忘れるなんてよ?」

 グランディスはにやりと笑みを浮かべると、玉座から立ち上がってソリオの傍へと歩み寄る。

 そして、ソリオを立たせると、続けてスペーシアも立ち上がらせた。

 ソリオとスペーシアを立ち上がらせたグランディスは、二人の肩を優しく叩く。

「まずは、おまえたちの結婚式を挙げないとな? 立会人はこの俺が務めよう。おっと、嫌とは言わせないぜ?」

 その場に居合わせた者たちから祝福の歓声が上がり、ソリオとスペーシアは真っ赤になって互いに顔を見合わせた。




 それから一月後。

 よく晴れた美しい蒼穹の下、たくさんの人々が帝都郊外に集まっていた。

 もちろん、ソリオとスペーシアの結婚式を祝うためだ。

 場所は、郊外に着地した『栄光なる我が息子号』の甲板。二人の晴れの舞台にはこれ以上の場所はないだろう。

 そして、この場に詰めかけた人々は、主役二人の登場を今か今かと待ちわびていた。

 集まった顔ぶれの中には、ソリオがこれまで関わった人々がいる。

 養父のスイフトが。

 冒険者の店の親父のジュークが。

 アゲート侯爵が。

 クリノクロア伯爵とその娘のプラウディアが。

 ソリオの育ったヘマタイト村から、住人の老人たちが。

 パイライト帝国からは先の異界の魔獣との戦いで、親交を結んだ騎士や兵士たちが。

 そして、パイライト帝国の皇帝もまた、二人の結婚の立会人としてこの場に臨んでいた。

 他にも多くの人々が、異界の魔獣を倒した冒険者の新たな門出を祝わんと、この場に詰めかけているのだ。

 そして。

 そして、遂に主役の登場を知らせる音楽が響き渡る。

 その音楽を奏でているのは、夜の闇を集めたかのような漆黒の髪の、輝くような美貌の楽師。

 楽師が操るリュートから流れ出る音は、様々に表情を変えて聴衆を魅了する。

 リュートの弦の上で軽やかに踊る指先は、まるで残像でも残すかのような速度で。

 楽師のその美しい容貌とも相まって、人々は一気に彼の音楽に引き込まれた。

 そのまましばらく楽師の独奏が続く。やがて曲が最大の山場を迎え、場が最も盛り上がった時。

 不意に、上空から落下してくるものがあった。

 観衆の中の一人がそれに気づき、声を上げて空を指差す。

 それは波紋のように一気に広がり、人々は一人残らず空を見上げる。

 上空から落ちてきたものは、人々の身長の倍ほどの高さで急制動をかけると、くるりと反転して軽やかに降り立った。

 それら──いや、彼らが降り立ったのは、本日の主役が立つべき舞台の上。そこに彼らは現れたのだ。

 揃いの飛竜素材の防具を身に着けた、四人の若者たち。

 鬼人族(オーガー)の青年は、全身を覆う鎧と巨大な戦槌(ウォーハンマー)を手にして。

 小翅族(ピクシー)の女性は、虹色の翅を震わせながらくるりと一回転し。

 森妖族(エルフ)の少女は、手にした幅広剣(ブロードソード)を高々と掲げ。

 人間族(ヒューマン)の青年は、斧槍(ハルバード)を頭上でくるりと旋回させ。

 彼らの姿を見た誰かが、ぽつりとこう零した。

「冒険者」

 と。




 冒険者。

 そう呼ばれる者たちがいる。

 彼らは各分野のスペシャリストであり、また、各種様々な事件を解決するトラブルシューターでもある。

 そして、このサンストーン大陸にかつて繁栄したと言われるクリソコラ文明期の遺跡から、様々な工芸品や美術品などの宝物や遺失した遺産を掘り起こすサルベイジャーでもある。

 いかなる国や組織にも属さない、気ままな旅人であり自由人でもある彼ら。

 己の体力と知力と僅かばかりの運だけを頼りに、様々な事件や抗争へと首を突っ込む冒険者たちは、ある意味では「何でも屋」と呼んで差し障りあるまい。

 だが、冒険者の中でも特に優れた体力と研ぎ澄まされた知力を持ち、そして神の気まぐれな幸運に恵まれた極一部の冒険者は、一日で莫大な富をつかみ取ることもある。

 そして、中には更なる名声をも手にする好機に恵まれる者だっている。

 そのような神に愛されたかのような者たちは、時にこう呼ばれる。

 即ち。


────英雄、と。




 冒険者を目指した一人の少年がいた。

 その少年は仲間と出会い、数々の事件を乗り越え、遂には英雄と呼ばれるに至った。

 世界を震撼させた異界の魔獣。恐るべきその魔獣を倒した少年は、まさに英雄と呼ぶに相応しいだろう。

 舞台の上に現れた四人がそれぞれの得物を上空へと掲げた時。

 再び何かが空から落ちてくる。

 それは、純白の衣装を纏った二人の年若い男女。

 少年は少女を抱き抱え、ゆっくりと空から舞い降りる。

 少年と少女は、一度だけ互いに顔を見合わせると、眼下に集まっている人々を見た。

 見知った顔がいる。知らない顔もいる。

 しかし、この場に集まった人々は、一人残らず少年と少女の新たな門出を祝福するために集まってくれたのだ。

 再び、少年と少女が顔を見合わせ、嬉しそうに頷いた。

 そして、二人は人々が待っている場所へと、ゆっくりと降りて行った。




 その日、パイライト帝国の帝都郊外で盛大な結婚式が挙げられたと、パイライト帝国とマラカイト王国の二つの国の歴史に記されている。




 空気を震わせながら、歌の余韻が消えていく。

 そこはよくある酒場兼宿屋。町の人々からは、「冒険者の店」と呼ばれる場所だ。

 その酒場で、一人の女性と一人の男性が、有名な英雄譚を歌い上げていた。

 リュートを演奏する男性は、黒髪の美貌の人間族。そして、歌を歌う女性は、儚げな印象の美しい森妖族。

 別々にこの酒場を訪れた二人は、どうやら以前より顔見知りだったらしい。

 二人は二言三言言葉を交わすと、店の主人の了解を取り付けて英雄譚を歌い出したのだ。

 それは有名な、今から百年以上も前に起きた事件を題材にした歌。一組の冒険者が世界を破壊しようとした魔獣を退治したという、ありふれたもの。

 誰もが知っている陳腐な英雄譚だが、この二人が歌うとまるで別物のようだった。

 卓越した演奏技術と、美しい歌声。この二つが溶け込むように融和し、酒場にいた人々の胸を打つ。

 静まり返る酒場。だが、一拍の後に盛大な拍手が巻き起きた。

 人間族の男性と森妖族の女性は、人々に向かって頭を下げる。そんな二人に、酒場の客たちは銀かを投げ込んでいく。

 と、突然酒場の出入り口の扉が開き、十歳ほどの少年が店の中に駆け込んで来た。

「師匠! 父さんたち、帰って来たよ!」

「ほほう。どうやら無事に帰って来られたようッスな」

 少年の声を聞いた森妖族の女性が、その容姿に似合わない喋りかたで言葉を紡ぐ。

 森妖族の女性は、少年に手を引かれて店の外へと出る。

 すると、その頭上に巨大な船が浮かんでいた。

 青銀に輝く美しい船体が、陽光を反射してきらきらと輝いている。

「父さんたち、どんな冒険をしてきたのかな?」

「焦らない、焦らない。すぐに冒険の話を聞くことができるッス」

 女性は少年の頭を優しく撫でる。少年も、嬉しそうに目を細めていた。

「師匠って、俺のひいひい爺ちゃんたちと一緒に冒険してたんだよね?」

「そうッスよ。あっしは初代『真っ直ぐコガネ』のメンバーッスからね!」

 女性はぱちりと片目を閉じると、右手の親指をおっ立てた。

 女性と少年が改めて空飛ぶ船を見上げる。

 船体には一本の旗が翻っている。紺地に緑の染料で染め抜かれたそれは、とある昆虫を形取ったものだ。

 真っ直ぐコガネ。

 有名な冒険者グループの名前にして、とある英雄の旗印。

 その旗印は、今日も元気よく蒼穹にはためいていた。



 これにて、『絶対無敵の盾』は完結と相成りました。


 連載開始より丁度2年。最後までお付き合いくださった皆様に、最大限の感謝を。

 2年もの間続けられたのは、様々な支援をくださった方々のお陰です。


 最後まで本当にありがとうございました。


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