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絶対無敵の盾  作者: ムク文鳥
魔獣決戦編
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勝利宣言


 蒼竜の鋭い牙がぶちぶちと肉を噛み切る音が、少し離れた所にいるソリオたちの元まで響いてくる。

 巨大な蒼竜の口は、アコード・ハイゼッドの上半身が生えている柱を、一気に半分ほど食いちぎった。

 蒼竜は口の中に残った肉片を吐き出すと、再び柱に噛みつく。

 ぶちぶちと牙が肉を食いちぎる音と共に、アコードの絶叫が響き渡る。

 同時に、ソリオたちが足場にしている巨大な異界の魔獣が、苦しそうにもぞりと身悶えた。

 どうやら、アコードの上半身が生えていた柱は、アコードと異界の魔獣共に弱点でもあったようだ。

 異界の魔獣の頭部に生えていた角のような柱は、その中ほどでぽきりと折れ、そこに寄生しているような形のアコード諸共、地上へと落下していく。

 そして、どうやら弱点であった角をへし折られたことで、異界も魔獣が空中で激しく身体をくねらせ始めた。

「お、おい、ソリオ! このままここにいたら危ないんじゃないのか?」

「そ、そうッスよ! このままだと振り落とされるのは時間の問題ッス!」

 既に立っていることさえできず、『真っ直ぐコガネ』の面々とプラウディアは、その場にしゃがみ込んで震動に耐えていた。

 ソリオは素早く人数分の〈飛行〉の紋章を描く。そしてそれを仲間たちへと飛ばすと、そのまま仲間たちへと告げる。

「みんなは急いで『栄光なる我が息子号』に退避して」

「ソリオ様はどうされるのですか?」

「俺は父さんと母さんが着けられなかったケリを着けてくるよ」

 そしていつものようににかりと笑うと、ソリオはそのまま魔獣の身体の上から身を踊らせた。

 重力に引かれてどんどん落下するソリオの身体。その身体を、ふわりと受け止めたものがいた。

 それは蒼玉(サファイア)色に輝く鱗に包まれた巨大な竜。蒼竜──スペーシアは、ソリオを背中で受け止めるとそのまま地上へと急降下を開始する。

 ソリオとスペーシアが目指すのは、先に落下したアコード・ハイゼッドだ。アコードは落下制御の紋章術を用いたようで、ふわふわと漂うように落下していた。

 もちろん、自分目がけて猛スピードで迫る、一体の竜と一人の少年にはアコードも気づいていた。

「……お、おお…………魔道皇に竜王……ま、またしても私の前に立ち塞がると言うのか……」

 かつて。

 2000年前にも、このような光景をアコードは見たことがある。

 自分を追い詰めた、二人の王。王の一人は竜となり、もう一人の王はその竜の背に跨って。

 二王はまるで二人で一人のように、常に一緒にいて自分を追い詰めたのだ。

 それと同じ光景が、今もまた目の前に展開している。

 2000年の時を超え、一人の少年と一人の少女が、あの時の二王と同じように自分を追い詰める。

「やられはせん……またもや……やられはせんのだからして……っ!!」

 アコードの指先が、空中に複雑な模様を描く。

 そして、それと同時に落下中の彼の身体が、端からゆっくりと崩れていく。

 異界の魔獣の身体から切り離されたことで、アコードへの魔素の供給は断たれている。そのため、紋章術を使用して魔素を消費することで、彼の身体を維持する魔素までもが消費されているのだ。

 それにも構わず、アコードは紋章術を行使する。

 彼が描いた紋章は〈炎〉と〈破〉。広範囲に炎を撒き散らし、その全てを燃やし尽くす破壊の魔術。

 アコードの指先から放たれた破壊の紋章は、彼へと高速で突っ込む蒼竜と少年に向かって矢のように突き進んで行った。




 空中に紅蓮の花が咲く。

 灼熱と閃光を纏った巨大な花は、一体の竜と一人の少年を飲み込んで咲き誇る。

 その熱波と衝撃波は、『栄光なる我が息子号』へと向かって飛んでいた『真っ直ぐコガネ』や、いまだに空中戦を展開しているプラウディアの部下たちをも飲み込んだ。

 かなりの距離があるにも関わらず火傷しそうな熱波と、空中にいる彼らを揉みくちゃに吹き飛ばそうとする衝撃波。

 一旦は吹き飛ばされたものの、何とか姿勢を制御することに成功した『真っ直ぐコガネ』。プラウディアの部下たちも、必死に空中で姿勢を立て直そうと努力している。

 また、熱波と衝撃波は小型の魔獣たちにも影響を及ぼしていた。プラウディアの部下たちによってその数をかなり減らしていた魔獣たちは、『真っ直ぐコガネ』やプラウディアの部下たちのように空中で体勢を保つことができず、互いにぶつかり合ったり、翼や手足などをもがれて地上へと落下するものが続出した。

 もちろん、プラウディアの部下の中には衝撃波に煽られて地上へと落下する者もいたが、それらは仲間たちが必死に救助している。

 『栄光なる我が息子号』へと飛行を続けながら、それでもヴェルファイアたちは心配そうに背後を振り返った。

「お……おいおい……ソリオたちは大丈夫なのかよ……?」

「も、もしかして……ソリオとスペーシアは……」

「大丈夫ッスよ! なんせ、ソリオ様は『絶対無敵の盾』なンスから!」

「ああ、コルトの言う通りだ。見たまえ」

 オーリスが指差す先。そこには光り輝く球形の盾に守られた、一人の少年と一体の竜の姿があった。




 空に咲いた真紅の花。

 その爆炎の花弁が風に散らされると、そこに光り輝く球体が現れた。

 その球体を見て、アコードはその目を見開く。

「悪いけど……損害は皆無だよ」

 球形の盾が消え去った時、そこから聞こえる少年の声。

「お、おのれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 容貌を醜く憎しみに歪めながら、アコードが再び破壊の紋章を描き出す。

 だが、それよりも早く。今度はソリオが指先から紋章を打ち出した。

 ソリオが飛ばした紋章は、アコードの目前まで迫ると展開。そこで、再び光り輝く球形の盾となる。

 そう。

 アコードと、彼が描いた破壊の紋章を包み込むようにして。

 ソリオの狙いを悟ったアコードは、慌てて紋章をキャンセルしようとする。だが、すでに遅い。

 アコードの指先から離れた破壊の紋章は、ソリオの盾に触れてそこで秘めた力を解放した。

 盾に包まれた、アコードを共に飲み込みながら。

 再び咲く紅蓮の花。しかし、今度の花は光り輝く球形の盾の内側に咲くこととなる。

 盾に遮られて爆音は聞こえない。同時に、アコードの断末魔の悲鳴も、また。

 そして光り輝く盾が消え去った時。

 そこからひらひらと地上へ向けて落下するものがあった。

「……あ……が……あがが………」

 アコードはまだ生きていた。異界の魔獣から流れ込んでいた強靭な生命力が、辛うじて彼の命のこの世に繋ぎ止めていたのだ。

 だが、魔素の供給がない限り、彼には再生の力は働かない。

 焼け焦げ、その身体を端からぼろぼろと崩れさせながら、アコードは地上へとゆっくりと落ちていく。

 何とか無事だった彼の右目が、間近に迫る蒼い影を捉える。

 蒼い影、それは巨大な蒼竜。そして、その背を蹴って一人の少年が宙へと身を踊らせた。

 少年は空中で大上段に剣を構える。その剣の刀身には、光り輝く紋章が刻まれている。

「これで終りだ、アコード・ハイゼッド。父さんと母さんの因縁……ここで断たせてもらう!」

 少年は裂帛の気合いと共に、大上段に構えた剣を振り下ろす。

 振り下ろされた剣は、半ば朽ちかけていたアコードの身体を、縦に二つに断ち割った。

 二つに断たれたアコードの身体が、急速に崩れていく。そして、そのまま落下を続けたその身体は、地上に辿り着く前に塵となって風に乗って飛び散っていった。

 その塵を、ソリオは蒼竜の背から無言で眺める。

「…………終わったね。父さんと母さんから続く……2000年の因縁が……」

 ソリオは蒼竜に優しく微笑むと、その首筋をぽんぽんと叩いた。

「行こう、スペーシア。戦いはまだ終わっていないんだ」

 蒼竜は彼の言葉に応えるようにその首を巡らし、仲間たちがいる『栄光なる我が息子号』へと向けてその翼を力強く羽ばたかせた。




「陛下! 『真っ直ぐコガネ』より連絡です! ソリオ殿が見事に目的を果たしたとのことです!」

「そうか! やっぱりあいつはやり遂げたか!」

 『栄光なる我が息子号』の艦長席に腰を下ろしていたパイライト帝国皇帝、グランディス・インテグラ・パイライトは、思わず立ち上がって喝采を上げた。

「これで残るはあのデカブツだけだな! よし、一気に決めるぞ! 集束紋章砲、用意しろ!」

 グランディスはモニター越しに、巨大な異界の魔獣を睨み付けながら命令を下した。

 『栄光なる我が息子号』の青銀の船体のあちこちに散らばっていた無数の攻撃用の紋章が、徐々に艦首へと集まっていく。

「ソリオたちからの連絡によると、あのデカブツは今、穴の開いた風船みたいなモンらしい。身体の中に蓄えていた魔素もソリオたちによってほとんど外へと放出されて、再生に回すだけの魔素も残っていないそうだ。ここで決めなきゃ、お膳立てしてくれた『真っ直ぐコガネ』に会わせる顔がないってもんだ!」

 仮に、砲撃を受けた魔獣が再生を繰り返しても構わない。

 魔獣がこの世界に存在すること自体に、魔素は必要なのだ。再生に魔素を消費し続ければ、やがて魔獣はその存在を維持できなくなる。

 そして、『栄光なる我が息子号』の艦首に、巨大な一つの紋章が浮かび上がる。

「砲撃の射線上に味方はいないな? よし! 集束紋章砲、撃てええええええええっ!!」

 グランディスの命令と共に、艦首の一つも紋章から眩しい黄金の光が迸る。

 紋章から放出された黄金の光は、一直線に異界の魔獣へ向かって突き進む。

 その光は射線上にいる小型の魔獣を巻き込み、巨大な魔獣の身体さえも飲み込んだ。

 目も開けられないほどの眩しい光の中で、異界の魔獣が苦痛にその巨体を捩らせる。

 だが、魔素が尽きかけている魔獣に光の中から逃れるだけの力は残されていない。

 一瞬とも永劫とも思える光の奔流が途絶えた時。そこにまだ魔獣はいた。

 だが。

 末端から朽ちるように崩れていく魔獣の巨体。魔獣の命が尽きたのか、それとも世界に存在するための魔素が尽きたのか。

 ソリオたち『真っ直ぐコガネ』と、パイライト帝国の騎士兵士たち、そしてプラウディアが率いるクリノクロア伯爵の兵士たちが見つめる中。

 異界の魔獣の身体が、徐々に徐々に崩れていく。

 それに合わせて、小型の魔獣も一体、また一体と活動を停止し、地上へと落下していく。その多くは地上に落ちる前に身体を崩れさせ、この世界から消滅していった。

 ソリオたちは知ることはできないが、おそらく各地で暴れていた小型の魔獣たちも、同じ末路を辿っていることだろう。

 そして、巨大な魔獣の身体が遂に全て崩壊した時。

「俺たちの────」

 『栄光なる我が息子号』の甲板に戻っていたソリオは、仲間たちの前で高々と右腕を空へと突き上げた。

「────勝利だっ!!」

 ヴェルファイアが。

 ポルテが。

 コルトが。

 オーリスが。

 人間の姿に戻ったスペーシアが。

 そしておまけにプラウディアが。

 仲間たちもソリオと同じように、右腕を掲げて勝鬨を上げた。

 最初は七人だけの勝鬨は、徐々に友軍の間に伝播していく。

 そして、勝利の歓声に沸き返る『栄光なる我が息子号』の艦橋では、パイライト帝国の皇帝もまた、同じように勝利宣言を下す。

 これを以て、異界の魔獣との厳しい戦いは、「勝利」という名前の幕を下ろしたのだった。




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