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絶対無敵の盾  作者: ムク文鳥
魔獣決戦編
86/97

拡散


 異界の魔獣と、その魔獣が生み落とした小型魔獣たち。

 それらから何とか撤退することに成功した、パイライト帝国軍と『真っ直ぐコガネ』。だが、戦いの疲れを癒す暇もなく、グランディス皇帝とソリオたちは次々と舞い込む報告に戦慄を隠しきれないでいた。




「報告します! 帝国領内南部に、小型の魔獣の群れが出現! 南部に点在する村や町を襲撃しております!」

「報告! 帝国東部に小型魔獣が現れました! 現在、守備隊と交戦中! 守備隊より、増援の要請あり!」

「西部地域に魔獣出現との報告あり! 至急、対処を求むとのこと!」

「北部山岳地帯に魔獣目撃の報あり! 現在、斥候部隊が追跡中!」

 舞い込む報告はどれも魔獣を目撃したか、魔獣の襲撃を受けているというものばかり。

 その報告を、臨時の王宮として接収──宿代をしっかりと支払っているので、接収とは言わないかもしれない──している高級な宿屋の一室で、ソリオたちもグランディスと一緒に聞いていた。

「……おいおい。帝国中に魔獣が溢れているじゃねえか……」

 最早笑うしかないといった風情でグランディスが肩を竦めた。

「……まるで、クリソコラの末期のようだな」

 そう呟いたのは、クリソコラ時代にも同じように魔獣との交戦経験のあるオーリスだ。もっとも、彼は魔獣との戦いの中盤以降は、ソリオの守役をしていたため戦いの前線には出ていないのだが。

 そのオーリスの脳裏に浮かぶのは、一人の男。かつては自分の主筋であった人物であり、また、敬愛する竜王や魔道皇帝、そしてソリオたち一家の小さな幸せを破壊した人物でもあり、この世界に魔獣という異物を招き入れた張本人。

 アコード・ハイゼッド。

 彼のことは、グランディスやソリオに既に報告してある。

 特にソリオにとってみれば、アコードは両親の仇ともいうべき存在だ。その名前を聞いた時、ソリオに表面上の変化は見られなかったが、その心情は平静ではなかっただろう。

「どうやら、異界の魔獣──いや、アコード・ハイゼッドは、移動しながら小型の魔獣をバラまいているようだな。そうでなけりゃ、こんな短期間に国中に魔獣どもが溢れるわけがない」

 しかも、とグランディスは言葉を続けた。

「魔獣の被害は我がパイライト帝国だけじゃなさそうだ。他国に潜ませてある密偵からの報告によると、他の国でも魔獣の襲撃があるそうだ。もっとも、さすがに我が帝国ほどではなようだがな」

 パイライト帝国やマラカイト王国を始めとして、その周辺諸国では魔獣の襲撃を受けていた。

 小型の魔獣たちは人や家畜、野生動物や魔獣までもを襲い、その獲物をどこかへと運び去るという。

 おそらくは、小型の魔獣は親でもある大型の「餌」を集めているのだろう。もちろん大型魔獣の「餌」とは、正確には人や家畜などが有する魔素である。

「小型の魔獣どもが集めた『餌』のせいで、本体である大型の方は更に巨大になっているそうだぜ」

 異界の魔獣は何せあの巨体である。そのため、どこかに潜むことは簡単ではない。それに外敵になりそうなものも存在しないので、悠々と空を移動していることをグランディス配下の斥候たちが掴んでいた。

 敵の位置は正確に把握していても、それに有効な打撃がない。あの巨大な魔獣と空で互角に渡り合えるのは『栄光なる我が息子号』だけだが、現在の『栄光なる我が息子号』は、先の魔獣との戦いのダメージを回復中であった。

 それに『栄光なる我が息子号』といえども、無数の小型魔獣に群がられては先の戦いの二の舞だろう。

 小型の魔獣を払いのけて、直接大型と対決する方法を考えなければ、『栄光なる我が息子号』でも勝算は薄い。

「帝国に空戦戦力はないンスか?」

「我が帝国軍にも空を飛ぶ種族たちはいるが……その数は決して多くはない。空であの魔獣どもと戦うのはちと骨が折れるな」

 コルトの問いに、グランディスが腕を組んで渋い表情で答えた。

 どこの国の軍にも、翼を持つ種族は少なからず属しているものだが、その数は多いとは言えず、大抵は伝令として活躍する程度で、空戦戦力と呼べるような部隊を持つ国は珍しいのだ。




「お、そういや、あそこはどうだ?」

 何かを思いついたらしいヴェルファイアが、ぽんと拳を掌に打ち付けた。

「ほら、あの吸血族(ヴァンパイア)の伯爵様のところ……あそこなら空飛ぶ獣に変化する吸血族で、部隊が組めるんじゃないか? それにあそこのお姫さんだけでも結構な戦力だぜ?」

「吸血族のお姫さんって……ああ、プラウディアのことね?」

 かつて共に戦った美しい吸血姫のことを思い出し、『真っ直ぐコガネ』は少し懐かしいものを胸に抱く。

 だが、ソリオだけはちょっと渋い顔。それもそうだろう。彼は吸血族の伯爵──クリノクロア伯爵から婿入りをせがまれた経験があるのだから。

 そんな伴侶の様子に、スペーシアが敏感に気づいた。恐るべきは女の勘であろうか。

「……ソリオ? その吸血族のお姫さまと……何かあったのかしら?」

「別に何もないよ。確かに結婚してくれって言われたけど……それははっきりと断ったし」

「……そう……結婚を……ふぅん……」

「いや、だからさ? やましいことは何もないよ?」

「……後でゆっくりと、その話を聞かせてもらいますからね?」

「……やましいことなんて、本当に何もないんだけどなぁ……」

 にこやかな笑顔を浮かべているスペーシアを見て、がっくりと肩を落とすソリオだった。




「ともかく、マカライト王国や近隣諸国とは協力して魔獣を駆逐していくことになるだろう。となると、どこかで国家間の摺り合わせを行う必要がある。その時、空戦戦力については進言してみよう」

 事態はすでに一国での問題ではないと判断したグランディスは、近隣の国々と手を組んで魔獣討伐に望むようだ。

 他の国々も、魔獣との戦いにおいて協力することに反対はしないだろう。

 もちろん、国の軍隊だけではなく、ソリオたちのような冒険者も動員されるに違いない。

「ことは下手をすりゃ、ヒトの存亡に関わる問題になるだろう」

 玉座代わりの椅子に深く腰を下ろしたグランディスは、鋭い視線で部屋に集まっている臣下や『真っ直ぐコガネ』を見回した。

「正直、厳しい戦いとなるだろう。かつての我が皇家の先祖が、異界の魔獣相手に苦戦したように、な。だが、ここで戦いを投げ出せば、それはそのままヒトの滅亡に繋がる。それだけは、何としても回避しなくてはならない。貴様らが戦う理由は何だっていい。金のため、名誉のため、出世のため、もしくは大切な者ため……ただただ、俺は貴様らの奮戦を期待するのみだ。だが、いいか貴様ら! この戦い、負けることは絶対に許されない! それだけを肝に命じて、魔獣との戦いに臨め!」

 皇帝の飛ばす激に、居合わせた臣下たちは応と答えた。

 そんな臣下たちを満足そうに見回したグランディスは、次にソリオたち『真っ直ぐコガネ』へと目を向けた。

「おまえたちは俺に雇われた冒険者として、引き続き協力してくれると助かる」

「承知しました。ですが今回の報酬、安くはありませんよ?」

「おう、分かっているって。ただし、報酬を支払うのは全部片づいたらだ。俺たちが負けちまえば、報酬もクソもないからな」

 豪快に笑いながら、グランディスは右手を差し出した。

 それを、ソリオはいつものようににかりとした笑みを浮かべながら握り締める。

「よし! そうと決まれば、まずは他国との協力体制を確かなものにしないとな。協力要請の親書は俺が直々に書くから、それができ次第、他の国々に使者を送れ!」




 帝都の郊外の草原。そこに『栄光なる我が息子号』はその巨体を休めていた。

 『栄光なる我が息子号』の船体には足場が組まれ、たくさんの鍛冶師たちが船体表面に刻まれた損傷を修理している。

 鍛冶師たちはパイライト帝国皇家と繋がりのある者たちで、その腕は確かだった。

 そんな鍛冶師たちを統括するのは、『栄光なる我が息子号』については誰よりも詳しいザフィーラである。

 『栄光なる我が息子号』の近くに組まれた天幕の中で、ザフィーラは『栄光なる我が息子号』の図面を片手に鍛冶師たちに矢継ぎ早に指示を飛ばしているところへ、ソリオを筆頭に『真っ直ぐコガネ』が様子を見に訪れていた。

「どうですか、ザフィーラさん。『栄光なる我が息子号』の修理の方は?」

「はい、ソリオ殿下。さすがは皇家と繋がりのある鍛冶師たち、いい腕をしています。私の要求通りの仕事をしてくれますよ」

 薄暗い天幕の中でも、ザフィーラの美貌は輝かんばかりだ。

「ですが、鍛冶師たちにできるのは船体表面の修理のみ。内側の修理は彼らにはできないでしょう。ですから、内側の修理は修理メンテナンス用の半自立型魔道機を用います」

「船全体のダメージは?」

「幸い、オーリス殿の撤退の判断が早かったことと、コルトたち女性陣ががんばってくれたお陰で、深刻なことにはなっていません」

「時間的にはどれぐらいかかりそう?」

「そうですね……外側の修理にあと二十日ほど、内側の修理に更に十日……といったところでしょうか」

「へえ、意外と早く修理ができるんだな」

 感心したように呟いたのはヴァルファイア。これだけ大きな船なのだから、修理の日数ももっとかかると考えていたのだ。

「魔道皇陛下は、最初から少人数での運用を考えて『栄光なる我が息子号』を設計されましたからね。修理やメンテナンスのための魔道機も豊富に積まれておりますから」

 『栄光なる我が息子号』は、この時代ではいわば失われた技術の塊である。そのため、現代の技術で修理できるのは、精々が表面装甲ぐらいであった。

 その表面装甲も鍛冶師たちの修理が終わった後に、魔術的な処置を施して強度を上げることになっているが、それはザフィーラと『真っ直ぐコガネ』しか知らない事実である。

 その魔術的な処置を行うのも、ザフィーラが操る魔道機たちである。ザフィーラ自身は紋章術が使えないので、ソリオの父である魔道皇は、そのための魔道機たちも用意しておいたのだ。

 ちなみに、今の時代ではそのメンテナンス用の魔道機一機で、ちょっとした城が建つぐらいの値段になるだろう。

「さすがは魔道皇陛下。用意周到ですな」

「ええ。実にあの方らしい」

 共に魔道皇と面識のあるオーリスとザフィーラは、どこか懐かしそうに言葉を交わす。

「ともかく、ザフィーラさんは修理をお願い。次の戦いも、きっと厳しいものになるだろうからさ。折角修理してもらっておきながら、またどこか壊すことになっちゃうだろうけど……」

 異界の魔獣との戦いは、グランディスも言っていたようにきっと激しく厳しいものになるだろう。

 となれば、今度も『栄光なる我が息子号』が無傷で済むことはないに違いない。

「はい、承知しております。ですが、ソリオ殿下は修理のことなど考えずに、思うがままに行動してください。後のことは全て私が引き受けます」

 その整いすぎた容貌に、暖かみのある笑みを浮かべるザフィーラ。

 ソリオは……いや、『真っ直ぐコガネ』は、ザフィーラに向けて右手の親指を突き出して見せる。

 そして。

 その返答として、ザフィーラもまた右手の親指を突き出したのだった。




 広範囲に拡散した異界の魔獣の被害は、日に日に激しくなっていった。

 魔獣に襲われて壊滅した町や村は一つや二つではなく、ヒトを始めとした多くの生物が魔獣の犠牲となっていった。

 そんな中で、各国は手を結び、魔獣と戦う決意を表明した。

 各国の軍隊や冒険者たちは、協力して各地に散らばった小型の魔獣を駆逐していく。

 そんな中、魔獣の大元である大型の魔獣に対しても、反撃の準備をちゃくちゃくと進めていくのだった。




 『無敵の盾』更新。


 現在、仕事が忙しくて更新速度が低下しております。

 もうしばらく忙しい状況が続きそうで、このまましばらくは更新が不定期となりそうです。

 誠に勝手ではありますが、ご了承願えると助かります。



 では、これからもよろしくお願いします。


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