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三つ子の次女だけは見分けられる俺、居候したら長女と三女にも迫られる  作者: MUHIRO


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第12話 - ここに帰ってくるのよ

朝、スマートフォンのアラームが鳴る少し前に目が覚めた。

まさか、白石家で二度も朝を迎えることになるとは思っていなかった。


念のため枕元の体温計を手に取り、熱を測ってみた。

熱がぶり返すこともなく、平熱を保っていた。

体の重さもほとんどなく、声を出しても喉は痛まない。


身支度を整えてダイニングへ向かうと、すでに直哉さんと早苗さんが席に着いていた。


「おはようございます」


「おはよう、織くん。身体の具合はどう?」


「もう大丈夫です。熱もありません」


「そう。よかったわ」


早苗さんが微笑み、直哉さんも新聞から顔を上げて、こちらを見た。


「無理は禁物だからね。学校でまたつらくなったら、先生に相談するんだよ」


「はい」


しばらくすると、廊下から足音が聞こえてきた。

真っ先に顔をのぞかせたのは、髪にリボンを結んだ紬だった。


「織くん、おはよ!」


「おはよう、紬」


「今日から復活だね!」


少し遅れて、結もダイニングに入ってきた。


「おはようございます、織くん。もう大丈夫そうですね」


「おはよう、結。おかげさまで」


最後に、あくびをしながら綴がダイニングに入ってきた。


「おはよう、綴」


「……おはよう、絹道くん」


返事はそっけなかったが、以前よりも少しだけ口調が柔らかくなった気がした。


朝食を食べ終えると、三姉妹と一緒に鞄を持って玄関へ向かった。

すると、早苗さんに呼び止められた。


「織くん。学校が終わったら、ここに帰ってくるのよ」


「……はい。分かりました」


「まだ心配だからね。夕食を食べてから、帰るかどうか考えればいいわ」


白石家の人たちは、みんな優しい。

転校してきたばかりの俺に、こんなにも親切にしてくれる。


『ここに帰ってくるのよ』


何気ない一言なのかもしれない。

けれど、俺にとっては、その言葉が妙に耳に残った。


四人で並んで学校へ向かった。

白石家から学校までは、歩いて通える距離にある。


三姉妹はいつも一緒に登校しているらしい。

外見はそっくりでも性格はまるで違うので、てっきり別々に登校しているものだと思っていた。


三姉妹と関わるようになって、まだ一カ月も経っていない。

それなのに、今では学校で一番よく話す相手が、この三人になっていた。


校門が見えてくると、何人かの生徒がこちらに視線を向けてきた。


白石三姉妹が揃って登校するだけでも目立つのだろう。

そこに俺まで加わっているのだから、なおさらなのかもしれない。


三姉妹は周囲の視線を気にすることなく、校舎へ向かっていく。


昇降口で上履きに履き替えると、結と綴はそれぞれの教室へ向かっていった。

二人を見送ったあと、俺は紬と一緒に二年三組の教室へ向かった。


* * *


教室に入ると、真っ先に相田が声をかけてきた。


「絹道、生きてたか!」


「ずいぶんな挨拶だな」


「試験が終わってすぐ帰るし、月曜日も休んでたし。これでも心配してたんだからな」


「もう平気だ。心配かけた」


「ならよかった。……それより」


相田が俺の背後に目を向けた。


「お前、白石と一緒に登校したの?」


「校門で会っただけだ」


「だよな」


相田はその答えに納得したように笑った。


午前の授業を終え、昼休みに図書室へ向かった。

結はいつもの席に座っていた。


「織くん、こんにちは。体調はもう大丈夫そうですか?」


「ああ。もう大丈夫だよ」


その返事を聞いて安心したのか、結は小さく微笑むと、文庫本を開いて読み始めた。


文庫本に目を落とす結の横顔を見つめた。


ここ数日、一番長く一緒に過ごしたのは紬だった。

周りの人たちは三姉妹を見分けられないと言うが、一緒に過ごす時間が増えるほど、俺には結だけがほかの二人とはまったく別人に見えるようになっていた。


「どうかしましたか?」


不意に結がこちらを振り向き、思わず目をそらした。


「なんでもない」


小さく呟いて、手元の文庫本を開いた。


* * *


放課後、今日は図書室には寄らず、そのまま帰ることにした。

結と紬と一緒に帰る約束をしていたからだ。


校門の前で、俺は紬と並んで結を待っていた。

校門を通る生徒たちが、何度もこちらに視線を向けてくる。


紬は知り合いの生徒を見かけると、自分から挨拶をしていた。

そのため、相手もすぐに紬だと分かるようで、綴や結と間違えられることはなかった。


そのやり取りを見ていた男子生徒たちも、紬に挨拶をしてから帰っていく。

ただ、そのたびに俺には、どこか面白くなさそうな視線が向けられた。


「お待たせしました」


結が小さく手を振りながら、こちらへ歩いてきた。


「少し待ったな」


「こういうときは、『待ってないよ』と言うのが殿方では?」


「殿方って……女子高生が使う言葉か?」


「小説の影響かもしれません」


結は楽しそうに笑いかけてきた。


「そういえば、結ってなんで敬――」


「結、来てたんだ!声かけてよ!」


紬が小走りで駆け寄ってきて、俺たちの目の前で急に立ち止まった。

相変わらず元気というか、慌ただしいというか……。


「お待たせしました、紬。お話ししているようでしたので、先に織くんにご挨拶していました」


「そっか!じゃあ、帰ろ!」


三人で横に並び、帰路についた。


登校したときにも気づいたが、白石家と俺のアパートは、それほど離れていないようだ。

途中までは帰り道も同じだった。


今日はコンビニに寄るつもりだったので、二人に声をかけた。


「ごめん、コンビニに寄りたいんだけど」


「いいよー!何買うの?」


「ちょっとな。紬と結も好きなものを選んでよ。ちょっとしたお礼に」


「いいの!?やったー!」


「ありがとうございます。でも、そこまで恩に感じなくても大丈夫ですよ。体調が悪いときは仕方のないことですから」


コンビニに入ると、いったん二人と別れて店内を見て回った。


しばらくして、二人が商品を選び終えて戻ってきたので、会計に向かおうとした。


「あれ?織くん、何も買わないの?」


「期間限定のお菓子が欲しかったんだけど、このコンビニでは売り切れてた」


「ご本人が何も買わないのに、私たちだけ買っていただくのは、何か違う気がしますね。自分で買いますよ。紬もそれでいいですよね?」


もともと自分の買い物が目的ではなかったが、かえって気を遣わせてしまったようだ。

そこで飲料コーナーに向かい、炭酸水を一本手に取った。


「それより、二人のも貸して。まとめて会計しちゃうから」


「……ありがとうございます」


結は俺の意図を察してくれたのか、今度は素直に商品を渡してくれた。

会計を済ませてコンビニを出ると、再び三人で帰路についた。


◇ ◇ ◇


白石家の前まで来ると、紬が勢いよく玄関の扉を開けた。


「ただいま!」


俺は一瞬、足を止めた。

その言葉を、自分も口にしていいのだろうか。


「織くん?」


結に呼ばれて、顔を上げる。


「……なんでもない。えっと、お邪魔します」


「ふふっ。ただいま、でいいんじゃないですか?」


「……ただいま……戻りました」


結局、普通に『ただいま』とは言えなかった。

これでは、バイトの休憩を終えて戻ってきたときの挨拶みたいだ。


奥から早苗さんの声が返ってきた。


「お帰りなさい。あ、織くんもお帰りなさい」


自分に向けられた「お帰りなさい」という言葉が、どこかこそばゆかった。


この家に来てから、何度昔のことを思い出しただろう。

誰かに「お帰りなさい」と言ってもらったのも、いつ以来なのか思い出せなかった。


紬と結は制服から私服に着替えるため、それぞれの部屋へ向かった。

俺はどこにいればいいのか分からず、リビングの入り口で立ち尽くしていた。


すると、背後から声をかけられた。


「あら、織くん。そんなところに立ってないで、ソファにでも座っていていいのよ」


早苗さんに優しく促され、俺はソファに腰を下ろした。


しばらくすると、廊下から慌ただしい足音が聞こえてきた。

紬が勢いよくリビングに入ってくる。

その後ろから、結も静かに姿を見せた。


「織くん、何する?」


「紬、帰ってきたばかりで、まだ一息もついていないでしょう。いきなり聞かれても、織くんが困っちゃいますよ」


「とりあえず、課題かな」


そう答えると、紬は頬を膨らませた。


「えー!遊ぼうと思ったのに!」


「私も賛成です。先に課題を終わらせちゃいましょう」


結もそう言ったので、三人で課題に取りかかることになった。

そのまま夕食まで、一緒に課題を進めた。

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