7-1 灰色のダイス/無敗の男
【カードゲーム[スターバトラー]のルール!】
・モンスターは下級・中級・上級の3種類あるよ!
下級は無条件で毎ターン1体出せるよ!
中級上級は出すのに一手間かかるよ!
・下級は出たターン攻撃できないよ!
・戦闘で同級は相打ちになるよ!
格下には一方的に殴り勝てるよ!
・初期ライフは5つだよ!
モンスターに殴られてライフが0になると死ぬよ!
──"トライアングルカップ"
3人1組で参加するサバイバルカードバトル大会。
その賞品は──日本最大の企業【白瀬CG.s】の社長、白瀬ショウに何でも一つ願いを叶えてもらえるというもの。
カードバトルで全てが決まるこの世界において、それは何でも叶うと同義である。
──◇──
──遥か海の向こうの孤島
"ブラック財団"裏本部(ギリ荒翠市内)
断崖絶壁の孤島に不相応な黒塗りのビル。
【白瀬CG.s】本社ビルと対をなすような外観である。
「……"トライアングルカップ"ですか」
小さな小さな老人──"ブラック財団"の総帥代理、通称"御老公"。
歴とした[スターバトラー(無印)]のキャラクターであり、最後の最後まで顔を見せないラスボスに代わり"ブラック財団"を運営していた苦労人である。
御老公はお疲れだった。
目覚めたラスボス、捕虜として捕らえた赤坂グレン、正体不明の外部顧問。そこに加えてこの祭り事である。どう考えても"ブラック財団"を誘き出そうとしている。
「無視すればいいのでは?」
御老公の側で同じ映像を見ていた、フードで顔を隠す者──異世界転移者である外部顧問は、提案する。
ちなみに御老公の側にいるのは、単純に老人一人がずっと頑張っていて良心が痛んでいたからである。現代人の倫理観では見捨てられるものではない。
「しかし、このまま放置する訳にもいきませんからなぁ。
黒コートめを呼び立てましょう。四天王を再集結させるのです」
「ここに。そうなると思いまして、既に連絡を付けております」
影から現れる超長身サイキッカー黒コート。仕事が早いが、しかし浮かない表情。
「……1人は先の決戦で監視が強化されているため接触できず、1人は本業にかまけて世界中を飛び回り、1人は行方不明です」
「……うーむ……仕方ないか。雇われ四天王だからのぅ」
「マフィアと"ブラック財団"四天王をきちんと両立してる黒コート君が凄いですね」
「貴様に褒められても嬉しく無いぞ外部顧問。なんとかしろ」
「無茶振り」
まさか大前提の3人集めるところから苦労するとは。
先が思いやられる御老公であった。
──◇──
──カードショップ【五芒星】
2F 住居スペース
「そういう訳で、こっちに"ブラック財団"を呼び出して始末します」
「冴えてるっスねェ〜」
五稜ソウマ、三井サトル、そして居候の赤坂ホムラに[星見の踊り子]。事情を把握している4人での緊急会議が開かれていた。
「ルールはサバイバル……なるほど。ソウマが戦わなくても他2人が勝てば自動で勝ち残れるって事?」
「一応、予選と本戦は分かれているから……僕が予選で負けても他2人さえ生き残れば本戦に出られる。全戦全勝できるほどの運命力は無いからねぇ」
このルールについては、事前に白瀬ショウと五稜ソウマで話し合っていた。
主人公赤坂グレンを奪還するための作戦自体はずっと計画していたのだ。きっかけが無かっただけで……。
「白瀬君と僕は別のチームで動く。リスク分散の狙いもあるけれど──本編では白瀬君は一度ラスボスに敗れている。それが影響するかは分からないけれど、グレン君を奪還するには厄介な運命なのかもしれない」
「まァ……ラスボスって言うからにゃァ主人公以外じゃ倒せねェよなァ〜……。
或いは俺たちみてェに異世界から来た連中ならその辺の運命も無視できる……ってとこっスか?」
「そもそも異世界転移者じゃマトモに戦えないけれどね。ソウマみたいに外付けで運命力を得たとしても、白瀬さん相手に逆転できなかったんでしょ?」
「いやアレは惜しかったんだよホムラ君」
「"惜しい"で済んだらお兄ちゃん死んでないんだけれど」
「ホムラ様。一応まだ死んでいませんので……」
白瀬ショウ戦にてハッキリしたが、やはりまだ五稜ソウマそのものにはそこまでの運命力が働いていない。
元よりかなり事故率の低い【サイクルビート】が無事事故らずに強力な除去札も引き込める程度で、しかし【王道】の鬼盤面を最終的にはひっくり返せなかった。
つまるところが、保険だ。
大抵のカードバトラーに勝てるレベルの仲間が必要だ。
「するってェとよォ〜……俺やホムラちゃんみてェなのは協力できねェって訳ですかい」
「そうね。ただの異世界転移者である三井さんも、中学生になるまで本格的にカードバトルができない設定の私も……運命力的にはとても横に立てないわね」
赤坂ホムラ──初代主人公赤坂グレンの妹にして、次回作のヒロイン。次回作は、時系列的には今から5年後の事だ。
使用デッキは兄の【スターゲイザー】のセルフオマージュである【スターシーカー】。墓地とは別の空間、"追放領域"と場を行き交う特殊なデッキであり、本来墓地へと送られるカードを全て追放させるモンスターを世に出した功罪入り混じるテーマ。
追放領域を強要する【追放ビート】は現代まで形を変えて生き残っており、特に墓地利用系──正に五稜ソウマの【アビスゲート】など──の環境的立ち位置を一歩下げ続けた恐ろしいテーマである。
赤坂ホムラ自体が次回作では3年間通して強キャラで通っており、使用デッキそのものが強いという点は本当に素晴らしいが──今のホムラではまだそこまで辿り着けない。無理矢理【スターシーカー】を渡したとして、今度は次回作の方に悪影響が出かねない。
「というわけで、仲間探しだ。
目星は立てているんだけどね」
「俺ァ1人は分かったっスよォ〜。
ズバリ青葉ウミちゃんっスね?」
「おお正解。【ディープアイ】をちゃんと使えるならこの時代に敵なしだろうからね。蚊帳の外にするのは忍びないし」
「……下心は無いのよね?」
「ありません。誓ってありません」
──青葉ウミが五稜ソウマの性癖ど真ん中である事は、既に赤坂ホムラに問い詰められ聞き出されていた。小学5年生に自らの性癖を開示させられた五稜ソウマの尊厳はボロボロである。
ともあれ、本来なら巻き込みたくはないのだが……青葉ウミは"ブラック財団"との最終決戦に同行しながら、認識改変を受けてなんとなく赤坂グレンを忘れている状況。蚊帳の外にして全てを終わらせてしまえば後で(可愛く)文句を言われてしまうだろう。そういう子なのだ。
「それで、もう1人は?」
「一石二鳥を狙うよ。
大概の人に確実に勝てて、その上で敵の戦力を削ぐ」
アニメ[スターバトラー(無印)]は4年間放送されたが、名のある敵キャラはそこまで多くない。
特にこの最終決戦、対"ブラック財団"編ともなると、これまで登場した敵も味方も味方側に勢揃い。最早ラスボス側がアウェイとなる。
最終決戦ギリギリまで出てこないラスボス、カードバトルをしない御老公、やられ役に徹する黒コート。3人という人数制限がある以上は、恐らく彼らに声がかかるだろう。
「"ブラック財団"四天王──灰沼リュート君を勧誘する」
──◇──
──"ブラック財団"四天王
黒コートのように財団外部から用心棒として雇っている、傭兵カードバトラー達。
アニメ[スターバトラー(無印)]最終決戦にて、主人公赤坂グレンをラスボスの元へと送り出すために白瀬ショウ・青葉ウミ・黄島ハルトがそれぞれ対峙。黒コートは適当に赤坂グレンに轢かれて終わった。
その中の1人、灰沼リュート。
本業はギャンブラー(無職)。
バトル回数はただ一度。
成金勉学脳筋少年黄島ハルトの計算を運だけで狂わせ勝利するものの、黄島ハルトの一計で"ブラック財団"本部と分断される。最終的には生き延びるかどうかの運試しに巻き込まれ、海へと投げ出されるのだが──。
「ん。久しぶりだな店長」
これが、案外普通に客として来ていたりする。
灰色トレンチコートのナイスガイ。しかしギャンブル中毒。コインを弾くためにコイントスするイカれた男、灰沼リュートである。
本来なら"ブラック財団"崩落と共に出番が終わり二度と出てこないはずなのだが、最終決戦が終わっていないため"ブラック財団"が崩壊せず生き延びた(黄島ハルトは正史通り海に流された。多分次回作に必要な"漂流"要素を残すためだろう)。
そしてなんやかんや荒翠市まで戻ってくるも、"ブラック財団"とはあくまで雇用の関係であり個人的に赤坂グレンチームを嫌っている訳ではなく、こうしてのんびり過ごしているそうな。
「放送見たぞ。まーた楽しそうな事やろうとしてんな?」
「うん。手を貸してくれる?」
「気が乗らないからパス!」
ハイスピード勧誘、超スピード拒否。
しかし悪感情は無い。
灰沼リュートは机の上に置いたコインを指差す。
「店長。表が出るかな?」
「灰沼君はどっちが出ると思う?」
「店長の意見が聞きたい」
「んー……表なんてなかなか出ないと思う。体感」
「ふはっ。50%だろ?」
「僕は信じない! 裏だ裏」
あくまで個人的な意見、思想。
灰沼リュートは──こんな感じで、どうにも覇気が無くなっていた。
本来はもう少し……いや相当にやかましい。
何に付けてもコイントスで決めたがる結構ヤバめの人種だ。画面越しに居てほしい。近くに居たら目も当てられない。
だが、こうなった理由も五稜ソウマには分かる。
灰沼リュートと黄島ハルトの戦いでは、最終的には"ギャンブルより勝利を優先した灰沼リュート"と"カードバトルの勝敗より戦線の分断を計った黄島ハルト"という形で決着した。
自らの手でギャンブルを捨ててしまった灰沼リュートはその後の生き残りという運試しに──恐らくは失敗し、その姿を消す。そういう運命だ。
今この場にいるのは、ホビーアニメであるために結末が明確に説明されていなかったから。生きても死んでもおかしくない存在だから生きていられる、それだけの事。
故に彼は、既に"ブラック財団"四天王としての運命から解き放たれている。
そして彼の勝負強さは運命によるものが大きいのだ。
でなければ、あんなデッキをマトモに運用できるはずがない。
「コイントスしないのかい?」
「今日はいいや。結果を見たくない」
これは重症だ。
正直二つ返事で了承してもらえるものだと思っていた五稜ソウマは、顎に手を当てる。
灰沼リュートのデッキは当然ギャンブルデッキ。
【レイズアッパー】という運に全てを委ねるデッキで、アニメで出た効果をそのまま出せば批判殺到必至であるがためかなり緩めに調整されて現実側に実装された。当然この世界ではゴリゴリに原作通りの運ゲースタイル。運命が向いていないのならとても使えない。
これはまずメンタルケアが必要か。
「よし、一度僕と戦ってみようか灰沼君」
「店長と? んー……」
「店長ォ〜……こりゃあ燃え尽きてるっスよ。
無理させる事ァ無いっス」
三井サトルは[スターバトラー(無印)]を履修していない。だからこそキャラクターの枠の外からその人を客観的に観則出来るが……どうみても燃え尽きている。この世界でカードバトルを渋るのは相当だ。
それでも、五稜ソウマは引き下がらない。
灰沼リュートは無敗の男だ。
最終決戦ぽっと出の存在ながら、メインキャラ黄島ハルトをしっかりカードバトルで倒している。
"無敗の終盤キャラクター"だ。まだ結末まで辿り着いていないこの世界で"ブラック財団"四天王という立場が無い今ならば、その実力は相当なものだ。
「灰沼君。これ、今日のごはん代だよ」
「……そこで飯代を盾にしないのがまた大人だよなぁ。
分かったよ、やるよ。店長に頼まれて断れるわけないだろ」
こういう時のために、五稜ソウマは家も何もない灰沼リュートと出会ってからはほどほどに面倒を見ていた。
元々敵同士だが、あくまでビジネスでの四天王だった灰沼リュートと悪い大人の五稜ソウマはわだかまり無く仲良くなれたのだが……。
灰沼リュートは立ち上がる。ポケットからサイコロを一つ取り出して──。
「そうだな。やるってんなら楽しまなくちゃならねーよな?
行くぜ五稜ソウマ。"ブラック財団"が四天王が一人、灰沼リュートがお相手仕る!」
「あ、ここではやらないよ」
「んげっ。テンション下がるぜー……」
三井サトルは、見た。
五稜ソウマがデッキケースから取り出した──分厚いデッキを。




