6-1 王道を征く者/老害か老獪か
【カードゲーム[スターバトラー]のルール!】
・モンスターは下級・中級・上級の3種類あるよ!
下級は無条件で毎ターン1体出せるよ!
中級上級は出すのに一手間かかるよ!
・下級は出たターン攻撃できないよ!
・戦闘で同級は相打ちになるよ!
格下には一方的に殴り勝てるよ!
・初期ライフは5つだよ!
モンスターに殴られてライフが0になると死ぬよ!
うス。モヒカンアルバイター、三井サトルだぜ。
海上での決戦は……そりゃあもう色々と騒ぎになったもんだが、どうにもこの世界の連中は適応力が凄まじい。この世界最強のカード会社【白瀬CG.s】のイベントって事にしたら収まった。
こんな事が頻発する街、怖ェ〜。
黒コートは銀閣寺ヒイロと警察に連行されたが、まぁ当然のようにテレポートで逃げた。ありゃチートだよなァ……。
赤坂ホムラちゃんは無事だ。元通りカードショップ【五芒星】で預かる流れのままだが……変わったことが一つ。
「三井さま。こちらのぱっくはどちらに……」
「あーコレ。タグNo.順に並べてんで、ここ見るといいっスよォ〜。Y棚の、上から2列目の空いてるとこに」
「こちらですね。ありがとうございます」
エプロン姿でも眩しい、[スターバトラー]のヒロインカード。[星見の踊り子]さんが店員になってくれたんだよなァ。
赤坂姓を名乗ってホムラちゃんのお姉さんにする事も考えたが、正史に影響を及ぼしかねねェって事で……ひとまず"五稜ホシミ"と名乗ることに。おかげでフリースペースから青葉ウミちゃんが睨んでるぜェ。
──変わった事はそれだけじゃ終わらない。
店長──五稜ソウマは運命に選ばれた。
あの後、店に帰ってとりあえず風呂入って寝て……翌朝に店長から全部説明された。
いわゆる原作[スターバトラー(無印)]の最終決戦。
悪の組織"ブラック財団"に乗り込んで四天王をぶっ倒して、ここから最後の戦い──ってところの直前で、主人公赤坂グレンは名も無い何者かに敗れた。
その瞬間からこの世界の時間は止まった……らしい。
その原因となった店長は、今回の一件で本来の歴史まで戻すために主人公の運命を一時的に請け負う事になった、と。
……まァなんだ? つまり主人公不在の時の代理主人公って感じか?
俺と同じ異世界転移者だが、この世界の存在に組み込まれたと。あくまで主人公赤坂グレン復帰までのつなぎとしてなら、運命側もやぶさかではないって事かねェ……。
そんで、その店長についてはと言うと……。
──◇──
──荒翠市中央区
高層ビルの立ち並ぶ都心の中でも最高峰。事実上この市の、この国の支配者──即ちカード開発会社【白瀬CG.s】或いは"白瀬財閥"。
本社ビル最上階。
白基調……とかそれどころではない、純白すぎて眩しい社長室に五稜ソウマはいた。
相対するは純白のスーツに身を包んだ青年。
鋭い瞳──鋭すぎて怖い。めちゃくちゃ睨まれている。
「事情はある程度把握している。準備が整ったのだな」
「うん。随分と待たせちゃったけれど、ようやくグレン君を助けに行けるよ──ショウ君」
青年の名は白瀬ショウ。
【白瀬CG.s】社長にして、"白瀬財閥"御曹司。学生の身でありながら世界最高峰に立つ、カードバトラーとしても一流のパーフェクトヒューマン。
ポジションは所謂ライバルキャラで、赤坂グレンとは度々敵対するが──これがなかなかどうして常識人であり、大抵勘違いかグレン側に非がある状態でしか対決していなかったりもする。
世界の刻が止まる前。白瀬ショウと赤坂グレンは、共に"ブラック財団"へと立ち向かった。そこに更に二人、青葉ウミと黄島ハルトが同行──ここに五稜ソウマも同行していた。
敗走の後、白瀬ショウと五稜ソウマは違和感に気付いた。
一連の最終決戦の記憶を、青葉ウミが忘れかけていたのだ。
"ブラック財団"との最終決戦において、青葉ウミと黄島ハルトは"ブラック財団"四天王を食い止めるため下層で脱落するが、その結果青葉ウミはボートを用意して一行の帰還を待つ仕事に回っていた。
ちなみにちょくちょく名前だけ出ている黄島ハルトは四天王との戦いのあと海に投げ出され漂流。無人島に辿り着き、数年で次回作の舞台となる学園へと仕上げたテラフォーマーである。メインキャラだというのにこの仕打ち。
ともあれ、赤坂グレンの敗北をその目で見たのは味方側だと白瀬ショウ・五稜ソウマの二人だけとなる。
その現場にいた者だけが当事者として世界から隔離されたかのように──世界は刻を止め、一連の事件を忘れ、これまで通りに過ごす。
よって白瀬ショウは五稜ソウマと協力して事態の解決に臨んでいたのだが──
──実は五稜ソウマが覚悟を決めていなかったせいだった、なんて説明できるだろうか。
異邦人である五稜ソウマとは異なり、白瀬ショウには立場も責任もある。同じく事件の当事者である"ブラック財団"の連中の監視、街中の事故事件の捜索、警察との協力要請、私兵である銀閣寺ヒイロの放流──白瀬ショウの努力たるや、涙ぐましいものがある。
一方その頃五稜ソウマは、ほぼ解決策が見えていたくせにダラダラと店長稼業に没頭しており、なんなら最終的に赤坂ホムラに迷惑をかけた──白瀬ショウと赤坂ホムラは、トラブルメーカー赤坂グレンの被害者の会として知り合いである──。
だが説明しなくては話が進まない。五稜ソウマは馬鹿正直に全てを説明し──
「五稜ソウマ。一度カードバトルしよう」
ごもっともであった。
──◇────◇────◇──
[静かに怒れる御曹司]白瀬ショウ
【王道】
Life◇◇◇◇◇ hand5
──VS──
[やらかしおじさん]五稜ソウマ
【サイクルビート】
Life◇◇◇◇◇ hand5
──◇────◇────◇──
──[turn1.白瀬ショウ]──
白瀬ショウのデッキ名は【王道】。
アニメ[スターバトラー(無印)]において光属性を担当する白瀬ショウは、人間種のモンスターを大量展開して物量で押し切る戦法を得意としていた。
とはいえここは[スターバトラー]20年の歴史のなかでも序盤も序盤。そうは言っても所詮は15年近く昔の展開力──
「魔法[騎士徴兵]を発動する。騎士トークンを1体生成し、手札から下級人間種モンスターを呼び出す。[王道の盾持ち]を場に出す。
[王道の盾持ち]は場に出ると騎士トークンを呼び出す」
一瞬で3体の下級モンスターが並ぶ。
「人間種モンスターが3体以上並んでいる時、騎士王は君臨する──[王道の騎士王]降臨!」
現れるは上級モンスター──白瀬ショウのエースモンスター。自分の身長ほどはある白銀の大剣を背負う、唯一無二の騎士王。
「[王道の騎士王]が出た時、1枚ドローする。
そして手札から人間種モンスターを呼び出す。
──2体目の[王道の騎士王]だ」
……唯二無三の騎士王。
「そして3体目」
唯三無四だった。どうなってんだ。
これこそ【ディープアイ】同様に第1回禁止制限改定にて多数の規制カードを排出した激ヤバ高速展開テーマ【王道】の真骨頂。
……例によって例の如く、具体的な展開ルートを指南したのは五稜ソウマである。
「最後の騎士王の効果で[王道の弩弓隊]を呼び出す。コレでターンエンドだ」
[turn.1]
──◇────◇────◇──
[静かに怒れる御曹司]白瀬ショウ
【王道】
Life◇◇◇◇◇ hand3
[騎士トークン]下級/光/人間
[王道の盾持ち]下級/光/人間
[騎士トークン]下級/光/人間
[王道の騎士王]上級/光/人間
[王道の騎士王]上級/光/人間
[王道の騎士王]上級/光/人間
[王道の弩弓隊]中級/光/人間
──VS──
[やらかしおじさん]五稜ソウマ
【サイクルビート】
Life◇◇◇◇◇ hand5
──◇────◇────◇──
──[turn2.五稜ソウマ]──
いやぁ酷い。
流石は"お騒がせ王子"[王道の騎士王]。
──────
【お騒がせ王子】
初期[スターバトラー]の環境を荒らしに荒らした[王道の騎士王]に付けられた渾名。
当時は[騎士徴兵]も[王道の盾持ち]も居ない時代であったが、そも下級モンスターを並べて[王道の騎士王]を早出しするだけで充分であり、【軽量王道】として当時猛威を奮っていた【ディープアイ】に喰らいつく。それ以外のデッキは絶滅した。
【ディープアイ】とは異なりこれから放送されるアニメのライバルキャラが使用するテーマのため禁止にする事は難しく、周辺パーツの1枚制限を多出し本人は無規制で生き延びる。
その後暫くはバランス調整のため新規の人間種下級モンスター自体がほとんど出ず(出たとして訳の分からないデメリット付きが多数)、結果的に人間種デッキ全体のパワーダウンに貢献。
更に数年後、自分のモンスターを手札に戻す事ができる[撤収ウサギマン]の登場で無限ドローのループが発生。【騎士王デッキデス】【騎士王ループ】【騎士王ループバーン】【騎士王EW】などの凶悪なデッキを多数排出し、無事禁止カードとなった。最後の最後に[撤収ウサギマン]も道連れに禁止に落ちた。正にお騒がせ王子である。
──────
圧倒的展開力。
ちなみに[王道の騎士王]は自身以外の人間種に破壊耐性を付与する2点攻撃。[王道の弩弓隊]は味方1体を犠牲にモンスターの場に出た時の効果を無効にする妨害効果を持つ。
「運命というものがあるというのならば──グレンを受け継いだというのならば。このくらいは巻き返して貰わなくてはな」
「ううん理不尽。頑張ってみるけどねー……」
原作でも白瀬ショウは度々、ピンチの時に手札0から[王道の騎士王]連続引き連打とかやらかしていた。
これが運命力。メインキャラクター、とりわけ積極的にカードバトルし勝利する事の多い"強い人"の運命力だ。
五稜ソウマはここに追いつかなくてはならない。
ならないのだが……。
「えー、[シグナルレッド]を出します」
現れるはいつもの赤信号戦士。
【サイクルビート】の根源、サイクルサーチの三英傑。
白瀬ショウは怪訝な顔をしている。
五稜ソウマが【サイクルビート】を使う事は良く知っている。だが、それでも。
「まだそれを使うのか?」
「そう簡単に切り替えられないよ。
あの時は"僕しか黒コートを止められない状況"にまで追い込んだから……そこに加えて"まだ誰も見た事のない五稜ソウマの【アビスゲート】お披露目"だったから、異世界転移者である僕に運命が傾いた。そこで主人公交代を宣言したから本格的に運命に選ばれた……って話。
でも、まだまだ僕が使うには【アビスゲート】は危険すぎる。事を急げば……グレン君の二の舞、だろう?」
「なるほど。つまりドラマ性か」
運命を手にするには、言ってしまえば"その方が盛り上がる"流れを作ってしまえばいい。
ならばここで突然"実は【アビスゲート】の使い手だった五稜ソウマ"としてキャラを通した方が都合がよさそうだが──それはそれとして、深淵の悪魔達を簡単に操れるとは限らない。主人公赤坂グレン奪還の前に倒れられても困るという事だ。
この戦いは、憂さ晴らし8割、実力の確認2割。
元より【アビスゲート】を相手取るつもりだった白瀬ショウは、油断せず全力で展開したのだが……。
そもそも、全体除去の[流星群]を引いていないことを叱責すべきだろうか。
「……[王道の弩弓隊]の効果。騎士トークンを墓地に送り、[シグナルレッド]の場に出た時の効果を無効にする」
信号機のサーチ効果は止まる。そこに対応札を割いても、結局手札の枚数は変わらない。
……手札は、悪くない。少なくとも事故は起きていない。
だが、最良ではない。
ここが限界?
或いは運命も【アビスゲート】を使う事を望んでいるのか──
(こっちにもこっちの都合があるんだよなぁ)
この運命は長く続かない。
赤坂グレンを救出すれば、物語は改めて動き出す。
それまでに五稜ソウマが勝たねばならないバトルは、そう多くないだろう。
だが主人公の運命を肩代わりするのなら、どうしても必要な事がある。そのためには【アビスゲート】は温存しなくてはならない。
手札はあと5枚。
相手は全盛期に【ディープアイ】以外を轢き殺した年季入りの馬鹿デッキ。
……勝てるかなぁ、これ?




